プラットフォーマーの立場から世界の美容業界にイノベーションを――アイスタイルの取締役兼CFO 菅原敬氏長谷川秀樹のIT酒場放浪記(3/4 ページ)

» 2018年09月28日 07時00分 公開
[やつづかえりITmedia]

美容を「女性が賢い生き方を追究すること」と捉え、ビジネスの領域を広げる

長谷川: もうやっていらっしゃるかもしれないですけど、化粧品以外でちょっと似たような別の領域に行くということは考えているんですか?

菅原: 基本的には美容の領域から出るつもりはないですけど、美容というのは化粧品というモノだけではないと考えています。僕と吉松の2人で、「美」というのは、「女性が賢い生き方を追求することだ」という定義をしたんですね。

 そしたら、当然エステとかフェイシャルとかネイルとか、そういう美容サービスも入るし、正しいものを食べる、正しい健康をつくる、正しい睡眠をとる、正しい予防医療をする、あるいは女性として新しい学びを得るとか、全てが美だと捉えられる、そういう都合のいいことを考えましてね。

 その範囲内で美を拡大していこうということで、例えば「正しい食べ方をして、きれいにやせるダイエット」とか、「スキンケア」や「ヘルスケア」「内面的にきれいになることに目を向けたエイジングケア」のコンテンツをつくったりとか、われわれはそっち側に寄っていますね。当然、美容サロン系の予約サービスとかもやっているんですけど。

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長谷川: 医療と美容って法律的には別になっていますけど、一方で「きれいになることで自信がもてる」とか、「自信がよりきれいに見せる」みたいな心の問題って医療にも関わるところがあると思うんです。アイスタイルさんとしては、医療とか医学にアプローチしていこうという考えはあるんですか?

菅原: 興味ありますよ。医療って、きちんと効果を認められているモノやサービスを、資格を持った人が提供するものなんですよね。でも、効果を証明しきれないヘルスケアサービスもたくさんあって、それは例えばオムロンの体温計もそうじゃないですか。

 化粧品は、「こういう条件だったらこういう効果はうたってもいいけど、これ以上は薬事法違反ですよ」という、なんとももどかしいところのあるな商品なんですね。

 そんなわけで、製薬メーカーさんが10年、20年かけて研究開発し、何百億円投入して被験者をもとにさんざん検証して、ようやく認可が下りるというのとは違うんですけど、もっとライトな世界で人を健康にするモノとかサービスというのはあり得ると思っています。

長谷川: そう考えていくと、御社のビジネス領域って、ものすごく広いですよね。

菅原: そう、世界中でこれをやりたいんです。だから僕らの今の戦略って、ここ2〜30年ずっと変わらないで続いていくと思います。

長谷川: 男性向けはどうですか?

菅原: 男性は、日本だと動かしようがないんですよね、マーケットが小さ過ぎて。過去10年、20年、「今年こそ男性コスメの元年」と毎年いっているんですけども……。長谷川さん、スキンケアしてます?

長谷川: してないです。

菅原: ですよね。でも、今の20代のアンケート見ると、80数%がスキンケアしているんですよ。お風呂上がりにローションつけるし、クリームつけるし、洗顔フォームで洗顔するわけ。そういう男性には、今コンビニコスメが売れているんです。

 これが30代になると、スキンケアをしている男性って20%ぐらいだと思う。40代になったら5%ない。そうすると、あと10年かかって年齢が上がっていけば、もっと多くの男性が、多分伊勢丹メンズでメンズコスメ買うようになりますよ。

 ちなみに世界の男性化粧品の約80%は韓国で消費されるっていわれてるんですよ。だから「SK-II メン」も「ランコム メン」も、ローンチはソウルのロッテ百貨店なんです。

長谷川: へぇ、そうなんですか!

世界の“クローンサイト”の経営者と会い、提携の可能性を探る

菅原: 海外で@cosmeとハンズが一緒になったら、面白くないですか?

長谷川: 超面白いと思います! グローバル展開はどうされるんですか?

菅原: 悩んでます。といっても、止まってるわけじゃなくて、よく分からないからできることは全部やってます。

長谷川: 口コミサイトで先行している海外のローカル企業もあると思いますけど、そういうのを買収するんですか? それとも純粋培養で勝負をかけます?

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菅原: 成長が速い方を取ります。@cosmeの“クローンサイト”って世界中にあるんですけど、僕はほぼ全てのCEOに会ってるんですよ。

長谷川: 会っている? こっちからアポを取ってですか?

菅原: そう。

長谷川: それで「お前、パクってるだろ」みたいな話するんですか?

菅原: いや、相手はだいたい「会いたかった! 話を聞きたかったんだよ!」みたいなノリか、場合によっては「パクっちゃってごめんなさい」という場合もあります。「すげー、インスパイヤされたよ、ありがとう」みたいな場合もあるし。十数社くらい会ってますね。世界中の化粧品レビューサイトのほぼ全て。

長谷川: すごいですね! その目的というのは?

菅原: 提携とか、アライアンスの可能性の模索です。擦り合うかどうか、まずは会ってみるということです。

長谷川: なるほどねぇ。

 ところで、化粧品というのはやっぱり先進国の方がよく使われるんですか? 途上国ビジネスとかはどうなんでしょう。

菅原: 美容は衣食住、通信の次ですよね。途上国は美容の前に医療と衛生なんですよ。例えばASEANの中でもいくつかの国では美容はまだ早すぎて、例えば週に何回かはシャワーを浴びよう、シャンプーをしよう、ということで、せっけんやシャンプーなんかもボトルでは高くて買えないから1回分ずつを売っているような状況ですよね。

長谷川: じゃあ、そこには参入せずにその後から?

菅原: そうですね。だいぶ先だと思います。

長谷川: でも、SIerの仕事とかを考えると、相手が大手だともうかるけど仕事はつまらない。小さいところだとすごく喜んでくれるんだけどカネはない、みたいなところがありますよね。どの業界でもそうなのかな、と思ったんですけど。

 金持ちは、いってしまえばどうでもいいじゃないですか。いくらでも着飾ることができる。まだ化粧が一般的でないような国の人に、ちょっとでもきれいになってもらって、明日の活力にしてもらうようなことの方がインパクトがあるんじゃないですかね。

菅原: いずれやりたいのはね、消費側を支援するのも大事ですが、生産側をサポートするということですね。その方が、途上国ビジネスとしてはより成果を出しやすい。

 例えば、僕がECの社長をやってるときの話ですけど、スリランカには親にお金がないから、生きていくために奴隷になる少女たちがいるんですね。とあるプロジェクトがその子たちにオーガニックせっけんの作り方を教えて、すごくきれいなブランディングで先進国に売るみたいなことをやっていて。そういうモノづくりの方が、サポートがしやすいかな、と思うんです。

長谷川: なるほど。それはいい話ですね。

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