一方、Red Hatのジム・ホワイトハースト社長兼CEOは、日本法人のレッドハットが11月8日、都内ホテルで開いた顧客向けイベント「Red Hat Forum Tokyo 2018」で講演を行い、その後、記者会見に臨んだ。
会見の冒頭で同氏は今回の動きに触れ、「IBMとの一体化はRed Hatに大きなベネフィットをもたらす」として、図1に示した4点が実現すると強調した。同社からの説明がこれだけだったことから、質疑応答では大半の質問が今回の動きに関するものだった。その内容が非常に興味深かったので、幾つか抜粋して以下にQ&A形式でお伝えしたい。
―― Red Hatの独立性は保持するとのことだが、IBMがRed Hatの製品・サービスをビジネスとして手掛けることになるのか。
相互のビジネスの具体的な話はこれから協議するが、基本的にIBMがRed Hatの製品、サービスを自社のビジネスとして手掛けることになる。IBMにとっては、これによってRed Hatの製品、サービスとさまざまなアプリケーションを自在に組み合わせて、お客さまに提供できるようになる。
―― 今後、Red Hatの新しいサービスが、IBMのクラウド上での利用を優先する形になることはないか。
ない。Red Hatの価値が独立したオープンなプラットフォームでなければならないことを、IBMもしっかりと認識している。
―― IBMとRed Hatの製品、サービスは重複している領域が多いが、どう整備していくのか。
これから協議することになるが、基本的にRed Hatの製品ポートフォリオは全く変わらないし、今後の開発計画にも変更はない。IBMとは重複しているところをどう整備していくかより、それぞれの領域、ひいてはソフトウェア全体の市場シェアをどうやって伸ばしていくかという方向で話を進めている。
―― IBMは今回の買収でRed Hatとともに、あなたを次期CEO候補として迎え入れたようにも見て取れるが、あなた自身はその気持ちがおありか。
光栄なご質問だが、そんな話は全くしていない。これからさまざまなことを詰めていかなければいけないし、まずは当局の承認を得る必要がある。今は日々前進していくのでいっぱいだ。
―― 財務面から見ても、今後も十分に独立した会社としてやっていけるのに、なぜ今IBMの傘下に入るのか。
まず、なぜIBMか。IBMがこれまでオープンソースに大きく貢献してきた会社だからだ。特にLinuxの立ち上げ時から大きな投資を行って市場をリードし、そうした中でRed Hatも成長することができた。
さらに、IBMと同じくRed Hatもエンタープライズ市場への貢献を目的とした会社だからだ。これが何を意図しているかというと、多くのエンタープライズ企業が今、クラウドの活用をはじめとしてシステムアーキテクチャの変更を検討し始めている。そこにオープンソースの影響力をどれだけ高めていけるか、最適な提案ができるか、というのが、これから数年、非常に重要なポイントになると考えている。
そうした影響力を行使していくには、今のRed Hatの体力では無理がある。独立した存在でも事業は続けられるだろうが、多くのエンタープライズ企業のシステムアーキテクチャにデフォルトとして選ばれるようにならないと、オープンソースもRed Hatもさらなる成長は難しい。
エンタープライズ企業のシステムアーキテクチャは今後、オープンなハイブリッドクラウドが主流になっていくと確信している。その最適なソリューションをIBMと一緒になって提供していきたい。
特に最後の質問に対する回答で、ホワイトハースト氏がどこを見据えて、どれだけ切迫した気持ちを抱いているか、感じ取っていただけただろうか。ちなみに関係者によると、今回の買収話はIBMからRed Hatに持ちかけられたものだそうだ。ならば、ホワイトハースト氏はそれを「デフォルトになる絶好のチャンス」と捉えて動いたわけだ。IBMの次期CEOとの呼び声もあながち架空の話ではないと感じた印象深い会見だった。
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