ここ数年、将棋や囲碁といったボードゲームの世界では、AI(人工知能)の能力が人間を上回りつつある。特に、Alphabet傘下のDeepMindが開発した囲碁AI「AlphaGo」は、世界のトップ棋士を次々と破ったことで、昨今の人工知能ブームの“火付け役”となったのは記憶に新しい。
最近では、プロ棋士たちも研究にAIを使い始めているが、その影響で、若い囲碁棋士たちの間で今「AWS(Amazon Web Services)」を利用する人が急速に増えているのだという。一体何が起きているのだろうか?
この“AWSブーム”を仕掛けたのは大橋拓文六段。コンピュータ囲碁を活用した研究に熱心なことで知られ、囲碁AIの解説本『よくわかる囲碁AI大全』も出版している。大橋さんが囲碁AIに興味を持ったのは2010年ごろで、当時はAIがプロ棋士に勝つことなど想像できない状態だったという。
「もともと、囲碁AIは老後の趣味にしようと思って研究を始めたんです。自分が引退するくらいの頃に人間を上回るだろうと。そしたら、想像よりも30年くらい早く人間を超えてしまいましたが……。その頃の囲碁AIは『モンテカルロ法』の適用によってブレークスルーが起きており、アマチュアの高段者くらいのレベルに達していました」
モンテカルロ法とは、乱数を使って膨大な演算(試行)を重ね、その結果を基に確率などを算出する手法だ。囲碁の場合、この手法によって「この1手を打った場合の勝率」を計算できるようになった。当時からフランス、台湾、そして日本などに開発者が多く、電気通信大学では、ソフトウェア同士を戦わせる大会が開催されていた。
大橋さんはそうした大会に顔を出して、AIの手に対する意見交換などを行うようになった。「モンテカルロの時代から、さまざまなことを教わりました」(大橋さん)。それから数年がたち、AIとの実験対局や解説などを任されるようになり、数多くの研究者と仲良くなったという。
しかし、モンテカルロ法によるブレークスルーが起きたとはいえ、その後、AIの研究は行き詰まりを迎えてしまう。なかなかAIが強くならない状況に、「少しAIも小休止かな」と考えていた矢先、2015年末から囲碁AIを巡る状況は一変する。そう、AlphaGoの登場だ。
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