「この手は青い」「いや、緑はどうかな?」「こうなるともう『じんましん』だよね」
最近、AIで研究をしている若手棋士の間では、こんな会話をするのが普通になってきているそうだ。「青」というのは、Lizzie上で示される「AIの第一候補手(最善手)」のこと。その部分が青く光ることからそう呼ばれている。緑は同じように第二候補を指す。
「じんましん」というのは、有力な候補手がなく、AIが全探索モードに入った際、碁盤上の目全てに確率などの数値が表示される状態だ。ソフトウェアの挙動(や仕様)に合わせて、会話で使われる言葉が変わっていくというのは、非常に興味深い。
「形勢判断の考え方も変わってきています。囲碁は白黒の碁石によって、囲った陣地の広さを競うゲームです。そのため、これまで形勢判断は、陣地の広さを示す『目』の数で議論するのが一般的でした。
しかし、今はAIによって『この手を打った場合の勝率』が表示されるようになっています。そのため、形勢判断も『何目』から『何%』というように、考え方が変わりつつあるのです。こうした概念の変化を抵抗なく受け入れられている人が、AIをうまく活用できている印象がありますね」(大橋さん)
「これからはAIに対抗するのではなく、AIを上手に乗りこなす『人機一体』の時代」と話す大橋さん。将棋の世界でも、AIが普及したことで新たなタイトル戦「叡王戦」が生まれた(ドワンゴ主催、現在はコンピュータ将棋ソフトウェアとの対局は廃止されている)ように、人間とAIが共闘する大会やタイトル戦が出てきてほしい、と考えている。
「今後はAIを絡めた形で、クラウドやGPUのベンダーが主催するような大会が生まれることを目指していきたいですね。AIの普及で囲碁における定石も変わり続けており、自分が3年前にどんな囲碁を打っていたのか、もう思い出せないほどです。
今はAIが打った手を判断するのには、プロのスキルが必要ですが、今後はその“理解の間”も埋まっていき、アマチュアも含めてもっと裾野が広がっていくでしょう。研究会では、みんなで試行錯誤しながら『人間の新しい役割』を模索しています。そういう意味でも、人間とAIが協力して戦う大会は、一つの可能性になるのではないでしょうか」(大橋さん)
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