囲碁AIブームに乗って、若手棋士の間で「AWS」が大流行 その理由とは?週末エンプラこぼれ話(2/4 ページ)

» 2019年02月22日 08時00分 公開
[池田憲弘ITmedia]

「論文を見て、興奮して眠れなかった」 AlphaGoの衝撃

 AlphaGoが発表されてすぐに論文を見た大橋さんは「興奮して眠れなかった」という。同時にトッププロの棋士と対戦することも発表されていたが、大橋さんは「世界チャンピオンでも危ないかもしれない」と直感。その後、本当にAlphaGoは世界最強棋士の李世ドル(イ・セドル)九段を4勝1敗で、その1年後には柯潔(カ・ケツ)九段を破ることになる。

 それ以降、大学でもAlphaGoやディープラーニングの勉強会が激増。大橋さんも「人工知能学会」の学会誌をはじめとして、さまざまな寄稿や講演の依頼が舞い込んだ。「数式を見るとワクワクしてしまう」というほど、もともと数学が好きだったという大橋さんは、資料と格闘しながら、徐々にAIについて理解を深めていった。「講演や執筆の機会を頂いたことが、最高の学びの場だった」と話す。

 AIがトッププロに完勝して以降、棋士たちの間ではAIを活用した研究が徐々に広まっていった。今や囲碁のAIは「AlphaGo(現在はAlphaGo Zero)」以外にも、Facebookの「ELF Open Go」、中国Tencentの「絶芸」、ベルギーのOSSコミュニティーが開発した「LeelaZero」など10種類以上に及ぶ。最近では、LeelaZero用の囲碁GUIである「Lizzie」が登場したことで、AIによる打ち筋の検討や対局が容易に行えるようになったそうだ。

photo LeelaZero用の囲碁GUIである「Lizzie」

 Lizzieの登場に合わせ、囲碁AIを自宅に導入しようとした大橋さん。当初はグラフィックスカードを2枚使ったデスクトップPCを購入しようとしていたが、ここでアクシデント(?)が起こる。自宅で契約している電気のアンペア数が足りず、AIを使おうとすると停電してしまうことが分かったのだ。

 「当時は引っ越したばかりでしたし、大家さんのおばあちゃんに相談するのもためらってしまって……。一旦保留にしていたのですが、北京で行われたTencent主催の囲碁大会に行った時に、知り合いの囲碁AIの開発者からAWSを薦められたんです。初期投資がなくていいですし、グラフィックスカードの過熱の心配もないと(笑)。すぐに使ってみようと思いました」

 こうして大橋さんは2018年7月にAWSを導入。分からないことだらけだったが、東京・目黒にあるAWS開発者向けのスペース「AWS Loft Tokyo」に足しげく通い、ASKコーナーで質問を繰り返した。さまざまな開発者と話し合い、Amazon囲碁部ともつながり、スポットインスタンス(※)担当だった部長のアドバイスを得て、利用額も大幅に抑えられた。現在は「月に数千円から1万円程度かかっている」(大橋さん)という。

※Amazon EC2の機能。AWSサーバ上で使われていない(余っている)EC2インスタンスに対し、入札制で一時利用を行う。自らの提示額よりも高い価格で入札されると、すぐに利用を止められるリスクもあるが、一般的な「オンデマンド」制に比べて平均で7〜9割引きになるとしている

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