直売率99%、栃木の「阿部梨園」が経営改善のノウハウを無償で公開し続ける理由【特集】Transborder 〜デジタル変革の旗手たち〜(2/5 ページ)

» 2019年03月18日 08時00分 公開
[池田憲弘ITmedia]

 「農家の皆さんって、『あまりもうけ過ぎちゃいけない』と思っている人も少なくないんです。だから値付けに対して無頓着になってしまうのかもしれません。阿部梨園では、それまで販売データが残らないレジを使っていました。価格を変えたときに、売れ行きがどうなるかが知りたかったのですが、データもなしに試してもPDCAが回りません。これではあまり意味がないので、POSデータが蓄積できるシステムを探し始めました」(佐川さん)

「Airレジ」で売り上げデータを可視化 直売率が99%に

 レジシステムを調べ始めた佐川さんは、すぐにスマートフォンやタブレットで使えるシステムが各社から出ていることに気付く。4社ほど比較した結果、リクルートライフスタイルの「Airレジ」を導入することに決めた。無料で使える点に加え、操作感の良さや機能がシンプルだった点も、スタッフから好評だったという。

 「農家の皆さんは、こういうツールに慣れているわけではありません。使い方が複雑になり過ぎると混乱してしまいます。Airレジは機能こそシンプルですが、PCから商品設定が行えるとか、商品のカテゴリーを簡単に階層化できるとか、CSVで商品データを登録してくれるなど、実務的な部分も含め、阿部梨園には一番合っていると感じました」(佐川さん)

photo Airレジの画面イメージ
photo Airレジの画面イメージ

 それまでは、阿部さんの予測を基に梨を販売していたが、Airレジを導入してデータを取ったところ、その予測と実売に差があることが分かった。梨はあまり日持ちする果物ではないため、時間がたつとすぐに売れなくなってしまう。リアルタイムでデータが分かるようになったことで、「あと、どれだけ注文を取っていいか」といった判断も早くなり、ロスも少なくなった。

 その結果、直売率は約99%にまで向上。単価についても、平均で1割から2割程度上がったという。価格も単に上げるのではなく、よりおいしくするための施策など、顧客の価値につながる投資とセットで行っている。また、同時に「Airペイ」も導入してクレジットカード決済にも対応した。贈答用に購入する場合、会計が10万円近くになることもあるとのことで、「想定していたより、高齢な方の利用も多い」と佐川さんは言う。

 販売データが分かってきた今、佐川さんは「収穫量を予測したい」と考えている。これまでは収穫量のデータもなかったため、販売計画が立てられるような状況ではなかったのだ。現在は、日ごとの収穫量も計測し始め、データを蓄積している最中だという。

 「仮に1トン収穫量がずれたら、5キロの箱が200個分動くわけで、小さな改善の効果なんて一気に吹き飛んでしまいます。少なくともこういったデータがそろっていないと、事業承継もままならないでしょう。若い人が事業を継いでくれない、というのが業界の大きな問題になっていますが、業務改善やオペレーションの整理が必要なのだと思います。僕みたいな“よそ者”が入るというのも、有効な方法かもしれません」(佐川さん)

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