東大卒のマネージャーを擁し、農家の業務改革の好例として注目を集めている、栃木県の「阿部梨園」。経営改善からITツールの使いこなし方まで、彼らはそのノウハウをWeb上で「阿部梨園の知恵袋」として無償公開している。企業秘密ともいえる情報をオープンにする理由はどこにあるのか?
“農家の業務改革”の好例として注目を集めている、栃木県にある梨農園「阿部梨園」。畑に入らず、業務改善を続けるマネージャーの佐川友彦さんは、東京大学を卒業し、化学メーカーのデュポン、立ち上げ期のメルカリを経て、阿部梨園にジョインしたという珍しいキャリアを持つ。
事務所の掃除といった小さなことから、作業場の導線改善など、4カ月のインターンで70近くの業務改善を行った佐川さんは、晴れて“正社員”になった。それからは、梨園のオーナーである阿部さんへ詳しいヒアリングを重ねながら、会計関連の見直しや、従業員の待遇改善に手を付けていった。
「一般的な会社にあるような、いろいろなものがなかったんです。例えば給与明細。手書きで金額が書かれた封筒を手渡し、というのが農家では割と普通なんです。雇用保険もそうですね。事業としても問題ですし、『何より自分が入っていないとまずいな』というのもあり、予算の確保も含めて進めていきました」(佐川さん)
翌年には、厚生年金や健康保険といった制度も導入。利益の伸びに合わせ、少しずつ福利厚生を増やしていった。他の農園と比べてもそれがアドバンテージになったこともあり、仕組みの変化をスタッフが楽しんでくれたという。農園に対するオーダーやアイデアを共有するためのミーティングも始めた。すると、より一層、要望が活発に出てくるようになり、チームとしての一体感も増したそうだ。
「阿部は優しい性格で、スタッフみんなをポジティブに励ますタイプだったので、それに対して、僕がちゃんと筋道などを見せられると、すんなりと乗ってもらえる流れはあったと思います。逆に僕だけだと、ちょっとドライ過ぎる点があったかもしれませんね」(佐川さん)
もともと直売率が高く、一定規模の売り上げがあったため、福利厚生に回すだけの原資のポテンシャルはあったものの、「これまではお金の使い方がやや雑だった」と佐川さん。購買のルールや予算を決めながら、新しい福利厚生の予算も作っていったという。とはいえ、まだ売り上げを向上させる余地も残っていた。
農家が直売する分については、自分たちで価格を決めることができる。しかし、これまでは価格設定にロジックがあったわけでもなく、「どの品種がどれだけ売れたのか」などのデータを記録していたわけでもなかったという。
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