この他、農家向けのコンサルティングも佐川さんが「変えていきたいこと」の一つだ。経営支援を仕事として成立させ、“職業”になるようにしたいのだという。
「経営相談もゼロベースでやるのではなく、コーチングのように本人が自己解決できるフローにしていく方法論が必要だと思います。自分も相談があれば受けていますが、やり方を見直して、知識やスキルセットを整理したいですね。ビデオチャットなど、リモートで関われる方法も今後は必要でしょう。
農家経営の『ERP』とまでは言いませんが、そういうフレームワークやシステムがあってもいいんじゃないでしょうか。SaaSのサービスを幾つか組み合わせて、ERPを疑似的に実現するためにどうすればいいか――みたいな話はやってみたい気持ちはあります」(佐川さん)
農学部から化学メーカーのデュポン、そして創業間もないメルカリと、農家としては珍しい道を歩いてきた佐川さん。それぞれの企業での経験が、阿部梨園でも生きているという。
「デュポンは製造業の会社なので、製造業的なモノの見方やプロジェクト管理の考え方を教えてもらったと思います。外資っぽいマネジメントという感じでしょうか。一方のメルカリは、『掲げた理想を正面から実現していく方法』を学んだように思います。作り込まれた制度もそうですし、やはり、組織内部の強さがビジネスの強さに直結するという考え方が強く印象に残っていますね」(佐川さん)
製造業が得意とする「マネジメント」と、ベンチャーが得意とする「組織文化の強さ」。この両者を得た“よそ者”の佐川さんだったからこそ、農家のあるべき姿を突き詰められるのだろう。その隣に、梨作りに情熱を傾け続けるオーナーの阿部さんがいたからこそ、改革が実を結んだのは言うまでもない。
ちなみに、学生の頃から「サステナビリティ」をテーマに職業を選んできた佐川さんだが、その思いは今も変わらない。農業を後世に残すべく、彼の挑戦は続いていく。
「環境やサステナビリティって、結局はリソースの話なんです。限りあるリソースの中で何を残していくのか。僕の中では『農業』はそこに入っているんですよね。“永久機関”のようなエネルギーや枯渇しない資源とか……そういうものが生まれるまで、農業が存続するために必要なことをしていこうと。
デュポンでも苦戦しましたが、環境とビジネスを持続可能な形で両立させるのは本当に難しい。それに比べれば、農業をビジネスとして成立させるのは、全然やりようがあると感じています。あんまり後先考えずに飛び込んだ業界ですが、打算的ではない分、農家の方と仲良くできているのかもしれませんね」(佐川さん)
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