図1に示したハイブリッドクラウドの形態は、あらためて認識しておきたい点だ。ご覧の通り、2通りある。1つは「一貫性のあるクラウドサービスをオンプレミスに提供」。Microsoftの製品でいえば「Azure Stack」だ。もう1つが「パブリッククラウドに接続されたオンプレミスリソース」で、これが新製品のAzure Stack HCIに相当する。
上記の2つにパブリッククラウドの「Microsoft Azure」を合わせた「ハイブリッドプラットフォーム」の概要が、図2である。前述したように、Azure Stack HCIはHCIベースで仮想化アプリケーションを実行可能にした製品で、既存システムのモダナイゼーションにつなげることができるのが注目点だ。
また、HCIという観点から競合他社との違いを記したのが、図3である。Azure Stack HCIの場合、HCI対応ソフトウェアや仮想化技術のライセンスがOSのライセンスに含まれているのでコスト的に優位なことを示したものである。
では、あらためて、MicrosoftはなぜAzure Stack HCIを市場投入したのか。浅野氏と佐藤氏が会見終了後、個別取材に応じてくれたので確認してみた。会見での両氏の説明から挙げられる理由は2つ。1つは、前述したハイブリッドクラウド需要に応えるため。もう1つは、ハイブリッドクラウドソリューションで競合する製品に対抗するためだ。
競合状況については、まずNutanixやVMwareが提供しているHCIのソフトウェア基盤が対象となる。図3に示した「他社HCI」はこの2社の製品を想定したものだ。両社ともこの分野で顧客数を伸ばしていることから、Microsoftとしても対抗策を施す必要があった。
ただ、両氏によると、競合状況としてそれ以上に注視しているのが、パブリッククラウドで激しい競争を繰り広げているAmazon Web Services(AWS)やGoogleの動きだ。両社ともここにきて「AWS Outposts」「GKE On-Prem(Google Kubernetes Engineオンプレミス版)」といったAzure Stack対抗のソリューションを打ち出してきている。
AWSやGoogleがここにきてハイブリッドクラウドソリューションに注力し始めたのはなぜか。それが、先ほど頭にとどめておいていただきたいと申し上げた、SoEもしくはモード2の領域におけるオンプレミスのエッジへの対応だ。すなわち、ハイブリッドクラウドはIoTへの対応として不可欠だと、両社が気付いたのである。
これに対し、MicrosoftはWindowsで培ってきたオンプレミスの顧客ベースを保持しているのが大きな強みだ。言い換えると、Microsoftにとってはハイブリッドクラウドへ向けて、この顧客ベースをAWSやGoogle、さらにはNutanixやVMwareに切り崩されないようにするのが大きな命題となる。
こうした競合状況につい目がいきがちだが、最も重要なのは今回の施策がユーザーに何をもたらすのかだ。それを取材の最後にあらためて聞いた際の浅野氏の答えが冒頭の発言である。「Azure Stack HCIで既存システムのモダナイゼーションを」―― これはけっこう、多くの企業に響くメッセージかもしれない。
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