デジタルエコシステムの話の前に、なぜ日本型DXを踏まえるかといえば、デジタルエコシステムを構成する要素が、日本型DXのフレームワークを構成する「3つのP」を起点としているケースが多いからだ。その3つのPとは「People」「Process」「Place」で、図2に示したような意味がある。
この3つのPについては、2018年12月3日掲載の本コラム「変化の時代を生き抜くために欠かせない“3つのP“とは―SAPジャパン社長が語る企業変革のアプローチ」の中で、「つき合う人を変える(People)」「やり方を変える(Process)」「場所や環境を変える(Place)」と分かりやすく表現している。例えば、このほど開設されたSAP Leonardo Experience Center Tokyoは3つのPの要素とも兼ね備えているといえる。
上記の3つのPについて会見で説明したSAPジャパン社長の福田譲氏は、同社のデジタルエコシステムとして図3を掲げた。図の中央にあるのは、同社が日本独自の取り組みとして2018年3月に発表した「Business Innovators Network」と称するコミュニティーである。その他、地方自治体や産学連携、大手企業、スタートアップ企業などと連携した多彩なプロジェクトが進行している。
こうしたエコシステムに、今回新たにSAP Leonardo Experience Center TokyoとSAP Labs Japanが加わった格好だ。そして、今後これらの取り組みからまた新たな連携が広がり、それこそ独創的な「生態系(エコシステム)」へと進化していく可能性も秘めているといえよう。
ただ、筆者が気になったのは、このデジタルエコシステムにおけるROI(投資対効果)だ。さしずめ今回の新たな施設などはSAPにとって先行投資だろうが、ビジネスである限り何らかのROIの算段があるはずだ。ということで、この点について会見の質疑応答で単刀直入に聞いてみたところ、福田氏は次のように答えた。
「デジタルエコシステムは今後のビジネスの礎になる取り組みと位置付けているので、現段階でROIを算段してはいない。私としては、例えばヤマハ音楽教室をお手本にさせていただいている。音楽教室を通じて音楽が好きな子どもが増えれば、それに伴って楽器も売れていく。これと同じく、まずはさまざまな取り組みによって多彩なデジタルビジネスが創出されていく土壌を作ることが大事。そんなエコシステムが広がれば、私たちのソリューションも自然と使っていただけるようになると考えている」
「現段階でROIを言い出すなんて……」との反論を予想していたが、逆に深みのある見解を聞けた。
このデジタルエコシステムの話は、これからデジタルビジネスを推進する企業全てに参考になるのではないか。デジタルビジネスはSAPであっても1社ではできない。だからこそ、エコシステムが必要なのだ。では、それを構築する上で必要な要素は何か。そして、どのような理念や目的を持ってエコシステムを推進するのか。分かりやすくいうと、どうやってデジタルビジネスの“仲間作り”をするか。SAPジャパンの取り組みが、そのヒントになるのではなかろうか。
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