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» 2020年03月19日 08時00分 公開

IT革命 2.0〜DX動向調査からインサイトを探る:日本企業のITインフラの採用方針、8割「決まっていない」はよい兆しか、実態調査

これからのITインフラを語る際、「クラウドファースト」や「クラウド・バイ・デフォルト」などのキーワードに注目が集まっています。DXを支えるITインフラについては明確な方針はありませんでした。「その都度最適な構成を検討している」といった動きや、「試行錯誤を繰り返し決定している」といった動きが主流でした。

[清水 博,デル株式会社]

 本連載では、筆者らが実施した調査(注1)を基に日本企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)の現在地をさぐってきました。調査では「DX夜明け前」フェーズにとどまる企業が多数存在することが明らかになっています。そこで皆さんのDXを一歩進めるために、DXの本質やDXを推進する組織の特徴なども見てきました。

 第8回の今回は、DXの礎ともいえるITインフラの状況を見ていきます。

筆者紹介:清水 博(しみず ひろし)

デル株式会社 執行役員 戦略担当


 早稲田大学、オクラホマ市大学でMBA(経営学修士)修了。

 横河ヒューレット・パッカード入社後、日本ヒューレット・パッカードに約20年間在籍し、国内と海外(シンガポール、タイ、フランス、本社出向)においてセールス&マーケティング業務に携わり、アジア太平洋本部のダイレクターを歴任する。2015年、デルに入社。パートナーの立ち上げに関わるマーケティングを手掛けた後、日本法人として全社のマーケティングを統括。中堅企業をターゲットにしたビジネス統括し、グローバルナンバーワン部門として表彰される。アジア太平洋地区管理職でトップ1%のエクセレンスリーダーに選出される。産学連携活動としてリカレント教育を実施し、近畿大学とCIO養成講座、関西学院とミニMBAコースを主宰する。

 著書に「ひとり情シス」(東洋経済新報社)がある。Amazonの「IT・情報社会」カテゴリーでベストセラー。この他、ZDNet Japanで「ひとり情シスの本当のところ」を連載。ハフポストでブログ連載中。


・Twitter: 清水 博(情報産業)@Hiroshi_Dell

・Facebook:Dx動向調査&ひとり情シス

注1:「DX動向調査」(調査期間:2019年12月1〜31日、調査対象:従業員数1000人以上の企業、調査方法:オンラインアンケート、有効回答数:479件)。


「シャドーIT」問題が突き付けたIT部門の変革

 従業員数1000人以上の企業の方々を対象にITインフラについてお聞きすると、ここ数年はほぼ全ての回答で「クラウド」が選択肢の1つとして入っています。パブリッククラウドを提供する主要ベンダーの顔ぶれが固まってきたこともあり、ITインフラとしては「枯れた」選択肢になっているのかもしれません。

 パブリッククラウドが登場した頃に語られた「ハイブリッドクラウド」という言葉の意味あいはあくまでも現在運用しているオンプレミス環境が主体で、今後徐々にパブリッククラウドを取り入れていく、という意味合いが強いものでした。ある意味ではこのころの「ハイブリッドクラウド」は今後クラウドを積極的に取り入れる宣言のようなものでもありました。そしてその実態は、パブリッククラウドとオンプレミスを併用する状況でした。

変わる「ハイブリッドクラウド」の意味

 けれども昨今は、冒頭で触れた通りクラウドの利用が当たり前になりつつある状況です。「パブリッククラウドとオンプレミスのそれぞれの特性を理解して使いこなす」という本来の意味でのハイブリッドクラウドを志向する企業も増えています。ハイブリッドクラウドから更に進んで、オンプレミスと複数のクラウドを使う「マルチクラウド」環境など、クラウドの利用スタイルの選択肢は増えています。さらに従来、パフォーマンス要求の厳しさやデータガバナンスの問題からオンプレミスのシステムが向くとされてきた基幹系システムなどのいわゆる「SoR(Systems of Records)系システム」も、今ではオンプレミスのシステムの発展としてのプライベートクラウド環境を志向するようになっています。

 プライベートクラウドを構築して社内でサーバインフラ環境を提供することも可能ですが、まだまだ少数派です。こうした事情から、手軽にサーバ環境を構築できるIaaS型のクラウドサービスは、開発部門で迅速に開発環境を構築できることもあり、ITインフラ部門が把握しない「シャドーIT」を誘発してきました。

 シャドーITが問題視されるようになると、今までクラウドの使用許可が曖昧だった企業でも、明確にクラウドの利用を禁止する傾向が強くなってきました。今回調査した大手企業でも、自社で契約したもの以外のクラウドサービスには社内からのアクセスをつながないことも多くなっています。

 今回の調査ではクラウドを使ったシャドーITについて、明確に「禁止している」とした企業が56.0%に達しています。しかし、この結果は、事業部門がクラウドを使うようになって、その利便性を感じるけれども、IT部門がセキュリティリスクを懸念して利用を禁じている状況とみることができます。この結果はむしろ、IT部門がきちんと認定したクラウドサービスを自社の事業部門に提供する必要があるということでもあります。DXを推進する際のキーファクターでもあるクラウド利用の拡大、という意味では、この結果はポジティブなサインなのかも知れません。

クラウドのシャドーITの利用状況 クラウドのシャドーIT利用状況《クリックで拡大》

クラウド・バイ・デフォルトと従来のSoR

 現在は、システム構築を考える際、まずクラウドを第一に検討するべきとする「クラウドファースト」の考え方が一般的になりました。しかし、2018年6月に政府が発表した「政府情報システムにおけるクラウドサービスの利用に係る基本方針」(注2)では、クラウドサービスの採用を第一候補とする、クラウドファーストからさらに一歩踏み込んだ「クラウド・バイ・デフォルト原則」指針が示されています。

2.1 クラウド・バイ・デフォルト原則 政府情報システムは、クラウド・バイ・デフォルト原則、すなわち、クラウドサービスの利用を第一候補として、その検討を行うものとする。……

 今回筆者らが実施した「DX動向調査」では、DXによって実現したい目的が「破壊的変革」と「現実的改善」の2つに大別されました。一方、企業内のシステムには「SoE(System of Engagement)とSoR(System of Records)の2つのシステムが存在します。

 今回の調査対象は大手企業のため、社内に古くから存在するITシステムを指すSoRを取り扱う機会が多い回答者が多数含まれると想定していた。また、一般的にDXの目的として、顧客視点を強化することを挙げる企業も多いので、顧客との関係構築の「エンゲージメント」を目指すSoEへの関心も強くなっていると想定できます。この二律背反の中、クラウドファーストやクラウド・バイ・デフォルトが企業でどのように取り組まれているかを調査しました。

DXを支えるITインフラ使用状況

 今回筆者らが実施した「DX動向調査」では企業のDX進捗(しんちょく)状況を以下の5段階に分けています。

(1)デジタルリーダー(Digital Leaders) デジタルトランスフォーメーションが自社DNAに組み込まれている企業のことであり、最もDXが進んでいます。

(2)デジタル導入企業(Digital Adopters) 成熟したデジタルプラン、投資、イノベーションを確立している企業のことです。

(3)デジタル評価企業(Digital Evaluators) デジタルトランスフォーメーションを徐々に採り入れ、将来に向けたプランを策定している段階の企業です。

(4)デジタル フォロワー(Digital Followers) デジタルへの投資はほとんど行っておらず、取りあえず将来に向けたプラン策定に手を着けた段階です。

(5)デジタル後進企業(Digital Laggards) デジタルプランがなく、イニシアチブや投資も限定されている企業のことです。

 この各段階のDXを支えるITインフラ使用状況が次の4つのうち、いずれかについて調査しました。

(a)ハイブリッド主体  

(b)オンプレミスとパブリッククラウド  

(c)オンプレミス主体  

(d)クラウド主体  

 その結果、デジタル推進企業である「デジタルリーダー」と「デジタル導入企業」では、ハイブリッドクラウド主体がそれぞれ37.5%、33.3%、オンプレミスとパブリッククラウドの併用がどちらも50.0%に上りました。デジタル推進企業では、8割以上がクラウドと自社設備のコンビネーションででITインフラを使う状況も明らかになっています。

DXを支えるITインフラ使用状況 DXを支えるITインフラ使用状況《クリックで拡大》

 また第3回で見た通り長期間に渡りPoCを続ける企業が多い「デジタル評価企業」では、この4種類のITインフラがほぼ均等に運用されていることも分かりました。

変化の兆しが見える「デジタル評価企業」、クラウドファーストはまだ少数

 各段階の比率をみると、デジタル評価企業の状況はまさにオンプレミスからクラウドへの移行への途中であるように見えます。一方、デジタル化が遅れているデジタルフォロワーとデジタル推進企業もデジタル評価企業と同様に4種類のITインフラが運用されていましたが、約半数がオンプレミスであり、まだクラウドの利用は多くないという結果となりました。

 クラウドファーストを考える企業がもう少し多いのかと予想していました。しかし、やはり企業規模が1000人を超える大手企業なので、全体では10%ほどのものでした。

日本企業のITインフラの採用方針、8割「決まっていない」はよい兆しか

 DXを支えるITインフラの採用方針についても調査しました。企業としての方針がある程度定まっているかという予想とは裏腹に、8割近くの企業が決まった方針を持っていませんでした。

 「その都度最適な構成を検討している」という回答が最も多く、次いで「試行錯誤を繰り返し決定している」という回答が続きました。この回答から、プロジェクト単位で個別に吟味して適切なITインフラを探っている状況が推察できます。この結果を見ると、DX動向調査の他の調査項目で見てきたように、DXで実現したい目的が「破壊的変革」と「現実的改善」の2つに大別されたように、DXの目的が多岐にわたるということがあるのかもしれません。

 今回の調査ではサーバ選定担当者が今回のDX動向調査に多く回答を寄せています。かれらの意見が多く反映されているとするならば、画一的なITインフラの決定をしないとする意見が多かったことは、DX推進において極めて重要であることの裏返しとみることもできそうです。

ITインフラ意思決定方針 ITインフラ意思決定方針《クリックで拡大》

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