コロナ禍以降で消費行動はどう変化した? 調査で明らかになったこれからの「売る文脈の作り方」と「データの使いどころ」

これからものを売る時、私たちはどんな「文脈」を消費者に提示すれば良いだろうか。コロナ禍前後で世界的な消費者マインドの調査をしてみたら、消費者が企業に求める文脈に変化が現れたという。私たちはものを売るためにどんなコンテクストを作れば良いだろうか。そのとき、どんなデータを使えるだろうか。

» 2020年10月23日 08時00分 公開
[原田美穂ITmedia]

 コロナ禍をきっかけに先進国では満たされて当然だった「安全への欲求」が不確かなものになった――。このことが消費行動に大きな変化をもたらす、とローランド・ベルガーのパートナーである福田 稔氏は指摘する。これからのコンシューマー向けビジネスはどう変わるのだろうか。2020年10月14〜15日にオンラインで開催されたセールスフォース・ドットコム主催の小売り業界向けのオンラインイベント「Salesforce Live : Retail & Consumer Goods」での福田氏による講演からその本質をさぐっていく。

コロナ禍以前の消費行動と「コンテクスト」はどうあったか

 昭和の一時期に代表されるような物質的な充足が十分でなかった時代は世代や社会階層によって比較的シンプルに消費者を分類ができた。それゆえに大量生産、大量消費型のビジネスが成功しやすかったと言えるが、経済発展を遂げ社会全体が豊かになった現在の日本は、細分化された個人の趣味嗜好を反映し、パーソナライズされた「コンテクスト消費」が本格的に広がりだしている、と福田氏は指摘する。講演で福田氏は、ローランド・ベルガーが独自に実施したグローバルでの市場調査の結果から、コロナ禍前後で求められる文脈(コンテクスト)がどう変わったか、今後市場で求められるコンテクストがどういったものかを整理した。

ローランド・ベルガー 福田 稔氏

 市場を分析する際によく使われる「マズローの法則」という理論がある。人間の欲求を段階的なものと捉えた理論で、(1)生命の維持を求める生理的欲求、(2)安全の欲求からなる基礎的な欲求、(3)社会的欲求、(4)承認の欲求、(5)自己実現の欲求からなる内的欲求の順に、段階的に欲求が生まれるとした説だ。これでみると、物質的な充足が十分でなかった昭和に求められたのは(1)(2)の基礎的な欲求を満たすことだったため、売るための仕組みは比較的シンプルに考えることができた。ところが2000年ごろになると、日本国内でも物的充足後の社会の特徴である(3)〜(5)に相当する心理的充足を求める消費行動がみられるようになったという。

 こうした状況下でも「世のトレンドに流されやすいマスマーケット」が大きく存在してきたのが日本の市場の特徴だったが、「近年はこのマスマーケットも徐々に嗜好(しこう)が細分化し、『スモールマス』といわれるようにセグメントで消費者を分析するのが難しくなった」(福田氏)。

 この結果として、消費行動を促す際には経済的な豊かさとともに「承認欲求、自己実現欲求につながるコンテクスト」が重要になってきたのだという。消費は精神的充足や自己実現としての道具となり、ジブンゴトでのコト消費といわれるように、ものではなくものの意味やイメージを消費する行動が広がった。例えば「環境破壊を阻止する活動に積極的な企業の商品を購入して企業活動を支援する」といった「文脈」(コンテクスト)が、消費の動機付けになり始めた。このとき、精神的な充足をどう実現するかについては、個人のバックグラウンドや思想が大きく影響することから、価値観の細分化が進んだ。

(福田氏の講演資料より、以下特別な記載のないものは同様)

コンテクストで自己実現を演出するサービスの出現

 福田氏は、内的欲求を満たすことでビジネスを成功させた企業の事例として、オーストラリアのレッドバブル、米国のザズルの例を示した。

 このうち、レッドバブルはデザイナーの自己実現として作品を販売するプラットフォームだ。消費者は自身の承認欲求や自己実現を目的に商品を購入する。売り手と買い手の双方の自己実現をかなえる仕組みをプラットフォームとして構築したといえる。同社は年間30%を越える成長率で事業を拡大しているという。

レッドバブルのWebサイト。スマートフォンケースの項目だけでも、ニッチなカテゴリに数千のデザインが登録されている

 内的欲求を満たすには、カスタマージャニーの中に「ジブンゴト」化してもらうこと、「コンテクストを消費者に感じてもらうこと」を組み込む必要がある。ここで「コンテクストを感じてもらう」とは、具体的には共感のことであり、趣味嗜好や好みのキャラクター、一点もののカスタムメイドなど、「私のために」を感じられるような個人に合わせたカスタマイズやパーソナライズなどを含む。期待したタイミングでメッセージが届く、といったホスピタリティを感じさせるサービスもコンテクスト消費につながるサービスの一つといえる。

 さて、コンテクスト消費の時代にあって、コロナ禍以降に求められる文脈はどういったものだろうか。

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