「富岳」開発者 松岡 聡氏が語る「実務重視の富岳はなぜベンチマークテストでトップを走るのか」Techレポート

ベンチマークテスト専用にチューニングされる例が目立っていたここ数年のスーパーコンピュータランキングにあって、実務を重視した富岳がなぜトップを独占できたのか。他国のスーパーコンピュータプロジェクトでも採用れる技術を生み出した原動力を探る。

» 2020年11月19日 13時35分 公開
[渡邉利和ITmedia]

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2020年11月のTOP500上位5件(出典:TOP500.org)《クリックで拡大》

 理化学研究所のスーパーコンピュータ「富岳」が、スーパーコンピュータのパフォーマンス評価に関する世界ランキングである「TOP500」や「HPCG」(High Performance Conjugate Gradient)、「HPL-AI」「Graph500」の4部門で再び1位を獲得した。

 4部門でのトップがいかに優れているかを知るには、各ベンチマークテストの性質が以下の通り全く異なることからも理解できる。特定の機能に特化し、ベンチマーク競争向けにチューニングしたわけではなく、汎用(はんよう)コンピュータ向けプログラムに対応する能力を持ちながら、全てにおいてトップの性能を示したスーパーコンピューターは富岳が世界初だという。

ランキング 内容
TOP500 連立一次方程式の処理速度を測るLINPACKによるベンチマークテスト性能を競う
HPCG(High Performance Conjugate Gradient) スーパーコンピュータの実際の利用用途に近い、産業界でよく使われる、有限要素法の疎行列を対象とした線形ソルバーを使った性能評価
Graph500 グラフデータ解析の処理性能を競う
HPL-AI HPC向けの64ビットの処理性能評価だけでなく、一般的なAI(人工知能)処理で使われる32ビット計算などの性能を計る

 スーパーコンピュータのランキングは各国の科学技術力や国威発揚の場としての意味合いもあることから、ここ数年は実用性よりもベンチマークテスト対策に特化したスーパーコンピュータの存在が目立っていた。こうした中で、上記のように実務で通用する性能とパフォーマンスを両立させた富岳は、正しくわが国の科学技術に貢献する成果を示したと言えるだろう。

5 富岳の計算資源を使ったシミュレーションの例。一般に報道された成果は多い。画像はフェイスシールドの効果を検証したもの。この他、創薬のためのデータ分析にも活用されている《クリックで拡大》(出典:理化学研究所)

 この富岳の開発を指揮したのが理化学研究所で計算科学研究センター センター長を務める松岡 聡氏だ。松岡氏は東京工業大学のクラスタ型スーパーコンピュータ「TSUBAME」開発プロジェクトをリードした人物でもある。

 松岡氏は自身が顧問を務めるSkyが開催中のオンラインイベント「Sky Technology Fair 2020 Virtual」(会期:2020年11月5日〜2021年1月5日)で「富岳によるSociety 5.0におけるEdge-to-Cloudコンピューティングの変革」と題する特別講演に登壇した。本講ではその内容から実社会に本気で貢献するスーパーコンピュータの意義を考える。

アプリケーションファーストでCPUから設計された富岳、他のスパコンと何が違うか

 松岡氏は自身がセンター長を務める理化学研究所 計算科学研究センターの意義を「計算の 計算による 計算のための科学」にある、と説明する。それぞれが意味するのは次のような意味だ。

計算の科学:どうやって高性能な計算を実現するか

計算による科学:他の分野にどのように適用していくか。例えば、環境や災害、新型コロナウイルス感染症対策などの分野にどう計算を適用していくか

計算のための科学:他の分野の研究成果を使ってどのように計算を加速するか

 「これらを合わせて『新たな計算の世界を作る』のが同センターの設立趣旨であり、その具体的な成果として今最も注目されているのが富岳だ」(松岡氏)

 松岡氏は、富岳を「アプリケーションファーストのアーキテクチャ」で作られたマシンだと説明する。

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