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» 2020年12月21日 12時00分 公開

不動産業界のプラットフォーマーが目指す業界DX支援はなぜ利他的なのか

取引先が多く、個々の企業のIT投資が難しい業界でDXを推進するには、取引先を巻き込んだ商流全体の再設計が必要だ。業界全体のDX支援が自社のDX推進、持続可能な成長につながるとする企業の取り組みをレポートする。

[ITmedia]

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 アイティメディアが主催するオンラインイベント「ITmedia DX Summit vol.6」が2020年12月2〜4日開催された。基調講演にはアットホーム原 雅史氏(基幹サービス開発部 部長)が登壇、不動産業を変えるDXプラットフォーム構想について講演した。本稿はその模様から、ステークホルダーが多く、小規模な事業者が全国に散らばる業界固有の課題を解消し、業界全体の改革を目指す同社の取り組みを紹介する。

不動産情報流通基盤プラットフォーマーが仕掛ける業界DX

1 アットホーム原 雅史氏

 アットホームは不動産情報の総合サイト「at home」の運営の他、不動産会社向けの図面の作成、印刷、配布サービス「ファクトシート・リスティング・サービス」などを展開する。不動産情報を軸にtoCの事業と不動産会社向けの情報サービスというtoBの事業の両方を提供する。

 同社の不動産情報ネットワークには、宅建免許を持つ日本全国の不動産会社約13万のうち、約半数に相当する5万7933店以上が加盟する(2020年11月現在)。図面などの不動産情報を加盟店間で流通させる仕組みであるファクトシート・リスティング・サービスは同社が始めたサービスだ。他にも、物件オーナーから賃貸や売却を依頼された不動産会社が他の不動産会社に物件情報を共有する「共同仲介」の仕組みなど、同社が新たに生み出したサービスは数多い。事業者向けの業務支援サービスも展開しており、この意味で、同社は既に不動産業界でプラットフォーム提供事業者として一定の地位を築いている。その同社がさらにデジタルを生かしたDX推進を本格化させている。この取り組みの中心人物が原氏だ。

 原氏は、1995年にアットホームに入社後、営業、システム開発、サービス企画などの業務に従事し、at homeのリニューアルも担当した経験を持つ。現在は、不動産会社の業務効率化と生産性向上、成約機会の拡大を図るサービスの開発を統括している。原氏は、アットホームが取り組むデジタルトランスフォーメーション(DX)について、こう話す。

 「アットホームは、DXを売り上げや利益の最大化と会社の持続的発展につなげるための手段の1つだと捉えています。DXや働き方改革は取り組むことが目的化しがちですが、あくまでも手段。お客さまに利益の最大化と会社の持続可能性を高めていただくためのものと捉えています」(原氏)

 同社DXの取り組みの1つが、不動産取引業務の再設計だ。不動産取引は、物件の依頼から契約、管理までの間に、オーナー(貸主/売り主)、管理会社(オーナー側)、仲介会社(消費者側)、消費者(借り主・買い主)との間でさまざまなやりとりが発生する。問題はその多くで、紙、電話、FAXなどのアナログで再利用性に乏しい方法が使われていることだ。

 「内見した後に借り主がPC上で必要事項を入力するだけでも業務は大きく効率化できます。入居申し込み受け付けや審査依頼をWeb上で完結させられるサービスなどが考えられます」(原氏)

2 アットホームの事業の1つである消費者向け物件情報サービス「at home」。加盟店向けの業務支援サービスや不動産会社間情報流通サービスも同社の核となる事業だ

1日100件の電話問い合わせも常態化 町の不動産屋が抱えるアナログ業務の大問題

 「不動産取引はさまざまな業務で紙、電話、FAXが多用されている状況」と原氏は現状の業務のアナログさを指摘する。

 例えば、不動産オーナーと管理会社との間は、内見や入居申し込み、審査、契約、決済などの手続きがある。消費者と仲介会社との間には、物件情報の確認や空室確認、内見、入居申し込み、重要事項説明、契約、決済などの手続きがある。さらに管理会社と仲介会社との間でも、物件確認や空室確認といった作業がある。

 「管理会社や仲介会社の中には、物件情報の確認だけで1日100本以上の電話を受け付けるところもあり、受け付けのために専用のコールセンターを設置するケースもあります。入居申し込みの手続きはFAXや紙の郵送で実施されることがほとんどです。記入漏れや書類不備確認のために再送付するなど、多くの手間が発生しています。契約にしても重要事項説明や署名押印のために来店してもらう必要があります。入居後の管理業務でも、サービス提供やコミュニケーションの多くが紙や電話、FAXに依存した状況です」(原氏)

 不動産業界に特有の事情がデジタル化を妨げている側面もある。不動産会社は従業員1〜4人の「町の不動産屋さん」が全体の86.1%を占める。1物件の契約であっても、物件オーナー、管理会社、仲介会社、家賃保証会社、消費者が関わり、ステークホルダーが多い点も業界の特徴といえる。入居申し込み書1つをとっても、管理会社と家賃保証会社とでフォーマットが異なるように、同じような内容を記入する書類でも企業や用途ごとにフォーマットが異なる点も課題だ。

 「ステークホルダーが多く、業務プロセスの標準化が難しく、銀行や飲食店などと比べて、サービス利用頻度も低いため、タブレットなどを使った入居申し込みなどのニーズが高まりにくい。こうした事情に加え、小規模な企業が多いため、各社が独自にIT化を進めるのが難しいのが不動産業界の課題でした」(原氏)

Webで入居申し込みを完結させられる「スマート申込」などを提供

 こうした事情からアットホームは、業界全体のDX推進を目的に、不動産業界全体の業務を再設計する業務プラットフォームの提供を目指してサービス開発に取り組んでいる。

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