1度は諦めた“脱メインフレーム”で、内製化と販売変革を実現 京王百貨店のチームプレー戦略データ分析戦略を支える、クラウド基盤の生かし方(2)

高過ぎる刷新コストに阻まれ、1度は諦めたメインフレーム脱却への「再挑戦」をきっかけに、システムの内製化だけでなく、データ分析を基に新たな販売戦略を生み出した京王百貨店。経営者とIT部門から売り場まで、さまざまな従業員のチームプレーを実現した戦略には、失敗から得た知見が生きていた。

» 2022年02月10日 07時00分 公開
[谷川耕一ITmedia]

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 データ活用戦略を支える基盤にクラウドを検討する際、鍵になるのが「クラウドに投資することで、最終的に自社は何を成し遂げたいのか」という目標設定だろう。ITmedia エンタープライズ編集部は、実際にクラウドを使ってデータ活用基盤を構築した複数社に取材し、それぞれの戦略や導入の過程を追った。第3回は、クラウド基盤の導入を機に、一度は諦めざるを得なかった“脱メインフレーム”の他、大幅な業務変革にも挑んだ京王百貨店を取り上げる。

 小売業のビジネス環境は、大きな変化を迎えている。もともと存在感を増していたEコマースがコロナ禍で一気に広がり、リアル店舗よりもオンラインで商品を購入する人が増えている。また従来のテレビCMなどではなく、SNSや評価Webサイトなどの口コミで商品情報などが瞬く間に人々の間に広がる。インフルエンサーが情報を発信すれば、企業が全く予測しない形で商品の新たな需要が生まれることもある。

 顧客行動の変化に迅速に対応できなければ、小売企業は生き残れない。この傾向はコロナ禍でさらに強まり、店舗でのきめ細かい接客を強みとしてきた百貨店は大きな変革を迫られている。

店舗には価値がある システム刷新の“再挑戦”と同時に始まった顧客向けデータ戦略

 京王百貨店は、新宿に本店を置き、京王電鉄沿線を中心に顧客基盤を持つ京王グループの百貨店だ。

 実は、同社は以前から顧客との関係性強化を目的にIT施策を実行してきた。2007年には顧客管理システムと商品情報を管理するマーチャンダイジング・システムを統合した。その過程でTeradataと協業し、2008年から新たなCRMシステムを活用してきた。Teradataは京王百貨店との取り組みを「Retail Template 2.0」という小売業界向け製品に生かし、他の百貨店や小売企業を含めた国内10数社に展開している。

 新たなCRMシステムには、当初メインフレームの基幹システムから顧客、商品などのデータを収集、蓄積していた。京王百貨店は40年以上にわたって基幹システムをメインフレームで運用していたが、その管理に必要な手間とコストが大きいことが、IT部門にとって長年の課題だった。

 2013年には脱メインフレームを検討したが、許容範囲を超えるコストが試算されたため、やむなく断念したという。基幹システムの償却期間を考慮すれば、再び“脱メインフレーム”にチャレンジする次のチャンスは5年後の2018年だった。

 同社は脱メインフレームによって目指したいもう一つの目標があった。それは、新たなデータ活用基盤を構築し、店舗とデジタル、双方の販売チャネルで顧客との接点を強化することだ。

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