顧客プログラムの変更に注意 ブランド価値を傷つける“改悪”とはRestaurant Dive

Dunkin' Donutsの顧客プログラムの改定には顧客単価を上げようとする戦略が垣間見える。専門家は、ポイント交換率の低下によって「あの商品」が事実上の値上げとなったことで、同社は打撃を受けるかもしれないと指摘する。

» 2022年11月28日 14時20分 公開
[Aneurin Canham-ClyneRestaurant Dive]

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Retail Dive

 2022年10月初め、ドーナツをはじめとしたファストフードを扱うDunkin' Donutsが、顧客のリピートを促すロイヤルティープログラムを一新した。米国の電子掲示板「Reddit」とSNSの「Twitter」上では多くの顧客から反発があった(注1)。ポイントの付与率は向上したものの、ドリンクの交換に必要なポイント数が増えたため、事実上の“値上げ”といえるだろう(注2)(注3)。

顧客プログラム“改悪” 2つの疑問

 Restaurant Diveによると、同社のロイヤルティープログラムを長年活用している常連客の中には、ポイント制度の変更が理由で他のコーヒーチェーンに乗り換えたり、自宅で自らコーヒーを入れたりする人もいる(注4)。

 このような動きがあるにもかかわらず、Dunkin' Donutsは「新しいポイントプログラムの変更は、顧客の声を反映した結果だ」と一貫して主張してきた。Restaurant Diveに対して、SNSで挙がっている批判は「ロイヤルティー会員の中のごく一部の意見に過ぎない」と反論した。同社によると、アクティブなロイヤルティー会員のうち5分の1は、1カ月に12回以上来店するほどの常連客だ。2022年10月6日のプログラム改定後、ロイヤルティープログラムで交換された商品数は合計200万点にも及ぶという。

 しかし、2つの疑問が残る。「なぜ、Dunkin' Donutsはプログラムを変更したのか」「今回の変更が同社にどんな影響を与えたのか」

 Restaurant Diveは、レストランでロイヤルティープログラムを運用している専門家に、レストランが常連客の一部を意図的に遠ざけるために特典を作り直す理由を聞いた。

 米国で最も有名な料理学校の一つThe Institute of Culinary Educationのリック・カマック氏(学部長)によると、商品を提供する企業や店舗は、ロイヤルティー特典によって顧客を特定の商品に誘導しようとする場合がある。Dunkin' Donutsのロイヤルティープログラムの改定における大きな特徴は、ドリンクよりもフードに重点を置いていることだ。「このことは、顧客に少しでも多くの金額を払ってもらいたいという願望の表れかもしれない」とカマック氏は述べる。

 「残念ながら、Dunkin' Donutsは顧客から期待されていないもの(フード)の購入を促そうとしている。企業が買ってほしいと思っている商品に、顧客が価値を見いだすとは限らない」

顧客プログラムをアプリに連動も、インフレで効果薄?

 ロイヤルティープログラムは、商品を注文するアプリと連動できるようにすることで「追加購入を促して、売り上げにもつながりやすくなる」とカマック氏は指摘する。しかし、インフレが進行する昨今、顧客はますます価格に敏感になっている。

 Dunkin' Donutsの広報担当者によると、今回のプログラム改定で初めて、ポイントを使って無料のフードを手に入れられるという特典が生まれた。ちなみに最も少ないポイントで交換できるのは、「ハッシュブラウン」(ハッシュドポテト)と「マンチキンドーナツホール」(一口大の球体型ドーナッツ)だ。

 コロンビア大学ビジネススクールのステファン・ザゴー氏(非常勤助教授)は「ブランドロイヤルティーは顧客との信頼関係が重要だが、ロイヤルティー会員はプログラムを利用することで得られる特典を特に重視している」と述べた。

 フード特典の追加など、ロイヤルティープログラムに少しでも変化があれば、その関係が崩れてしまうこともあるという。中でもコーヒーは毎日飲むことを習慣にしている人もいるので、コーヒーの特典が付くプログラムには特にその傾向が強い。

 「ハンバーガーやタコスは特典として重視されていないかもしれないが、コーヒーにこだわりを持つ顧客は多くいる。コーヒーの特典に注目している人は他の商品以上に多い」(ザゴー氏)

 カマック氏は「コーヒーで割増料金を支払わせるのは、フードの値上げ以上にDunkin' Donutsのブランドを傷つける可能性がある。Dunkin' Donutsは顧客を自社の都合の良いように誘導しようとしているが、下手をすると顧客の信頼を失いかねないリスクがある」と言う。

コーヒーの「実質的値上げ」の背景

 「コーヒーの売れ行きが好調だったことが、これまでドリンクのみが対象だったDunkin' Donutsのロイヤルティープログラムでフードも扱い始めた理由の一つかもしれない」と、専門家は指摘する。コーヒーは伝統的に利益率の高い商品だが、カスタマイズの複雑化によって原材料費や人件費、準備時間は増加傾向にある。

 Dunkin' Donutsの従来のロイヤルティープログラム「DD Perks」がスタートしてから8年間で、「コーヒー市場は劇的に変化した」と、マーケティング会社のPaytronix Systemのクリスティン・リンチ氏(戦略立案、データ分析の担当者)は言う。

 コーヒーはアイス、ホット、コールドの3種類から選べるのが一般的になった。さらに、ミルクと砂糖の入った普通のコーヒーの他に、フローズンコーヒーや、フレーバーソースやホイップクリームなどを加えたコールドブリューも登場した(注5)。2015年にStarbucksがコールドブリューを発売して、Dunkin' Donutsは2016年にそれに続いた。

 Starbucksでは現在、コールドコーヒーの売上高が飲料全体の75%にまで上昇している(Dunkin' Donutsは非上場企業のため売上高を公開していない)。また、SNSの影響もあり、ドリンクのカスタマイズは年代を問わず多くの顧客から好まれている。

 ザゴー氏はこうした状況を受けて、「カスタマイズや消費者の嗜好(しこう)の変化、メニューの移り変わりによって、コーヒーを提供するために必要な作業量が増えている」と話す。

 「カスタマイズが増えれば、それだけ労力も増える。材料が多ければ多いほど、コストは高くなっていく。これは食料品を扱う全ての事業にとって大きな痛手だ。最も低コストに抑えられるのは、何も加工しないシンプルなドリンクなのだ」(ザゴー氏)

 リンチ氏は、顧客がプレミアムドリンクやカスタマイズドリンクを好んで注文するため、各社は差別化のために(プレミアムドリンクやカスタマイズドリンクに)力を入れているのではないかと推測している。

 「(企業間の)ブラックコーヒーとブラックコーヒーの、パンプキンスパイスラテとパンプキンスパイスラテの競争ではない」とリンチ氏は指摘する。「最新で最高の“何か”には特別なエネルギーが含まれている。単なるエクストラホイップクリームではなく、はやりのワクワクするようなエクストラホイップクリームであれば何でも良い」(リンチ氏)

 ザゴー氏は「販売量や複雑さが増すごとに、あるいはドリンクを作る工程が増えるごとに、人件費やドリンク作りにかかる時間も増加する」と言う。人件費やその他のコストの増加を鑑みると、Dunkin' Donutsはコーヒーだけを注文している顧客に与えている割引額が、許容できない水準に達していることを問題視したのかもしれない。

Dunkin' Donutsはいくら値引きしているのか?

 リンチ氏は「割引率が一定の割合を超えた場合、ロイヤルティープログラムを見直すブランドは少なくない」と話す。Paytronix Systemsは、多くのブランドのロイヤルティープログラムやリワードシステムの運営を支援している。通常ロイヤルティープログラムで交換可能な主力商品の割引率は6〜10%だ。企業に対して「理想は8%以内に抑えることだ」と勧めている。

 「Restaurant Dive」は、Dunkin' Donutsの現行プログラムと以前のポイントプログラムの割引率を比較するために、首都ワシントンにある店舗で販売しているブラックコーヒーと、新たなプログラムの特典対象となるドリンク3点の計4点(サイズ違いを含めて8点)の価格を調査した(注6)。

「ポイント還元率の変更で、Dunkin' Donutsの割引率はどのぐらい下がったのか」 1行目の「Black Coffee SM」では、5.98%から4.78%へと下がっている(出典:Restaurant Dive、筆者のアネウリン・チャンハムクレイン氏が作成)) 「ポイント還元率の変更で、Dunkin' Donutsの割引率はどのぐらい下がったのか」 1行目の「Black Coffee, SM」では、5.98%から4.78%へと下がっている(出典:Restaurant Dive、筆者のアネウリン・チャンハムクレイン氏が作成))

 ロイヤルティー会員によると、以前のロイヤルティープログラムでは会員は1ドルの支払いにつき5ポイントを獲得できて、ドリンクは全て200ポイントから交換可能だった。

 リニューアル後は、1ドルの支払いにつき10ポイントを獲得できるようになったものの、ドリンクの種類によっては交換するのに400〜900ポイントが必要になった。Dunkin' Donutsは、以前のプログラムにおけるドリンクの価格は発表していない。

 調査の結果、割引率は旧プログラムから新プログラムへの移行によって低下していることが分かった。最も高価な「お試しドリンク」の割引率は、10月6日以前は13.4%だったが、現在は8%だ。

 Restaurant Diveは、商品の原価を消費者が1つの商品と引き換えるために必要な金額で割ることで割引率を算出した。しかし、価格は市場や店舗によって異なるため、この算出方法は確実とはいえない。

 「今回のロイヤルティープログラム改定によって、価格が高いドリンクやプレミアムドリンクで大幅な割引や特典を受けていた顧客が影響を受ける可能性がある。普通のアイスコーヒーを買っていた顧客は、おそらくそれほど“被害”を受けていないだろう」(リンチ氏)

 Dunkin' Donutsは、「新旧のロイヤルティープログラムにおけるコーヒーの割引率の変化を公表するつもりはない」と強調しているそうだ。

 Dunkin' Donutsの広報担当者はRestaurant Diveに対して、「ポイントプログラムの改善に着手する際、会員が当社に対して何を求めるのかを尋ねるアンケートを実施しました。その結果、柔軟性、多様性、認知度の3つが求められていることが明らかになりました」と回答している。

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