IIJアカデミーの特徴について、久島氏は次の4つを挙げた。
IIJが提供するサービスの開発、運用の現場で蓄積されたナレッジや事例を基に、ITエンジニアの実際の業務に有用な教育プログラムを実習形式中心で実施した。教育プログラムに必要な理論や知識は講義を通じて習得した上で、実習を通して課題解決やケース別の対応力向上を図ることができる。
講師との面談を通じ、受講者の技術力や学習したい技術分野を考慮して個別の教育プログラムを作成する。担当講師が受講者のレベルと課題を踏まえ、個々に合わせた技術習得目標の設定やアドバイス、講義や演習のサポート、フォローアップを行う(図4、図5)。
大規模な設備を運営するインターネット事業者ならではのスケールが体感できるネットワーク、コンピューティングリソースに触れながら指導を受けられる。一般では経験する機会が少ないデータセンターでの実地作業を体験する教育プログラムも計画されている。
IIJのサービス開発、運用で豊富な経験を積んだ現役の従業員が講師チームを作って、実習の指導およびサポートを担当する。
IIJの今回の取り組みで筆者が注目したのは、同社が育成しようとしているのが「ネットワークの分かるIT人材」、すなわち「ネットワークとソフトウェア開発の両技術に精通したエンジニア」であることだ。
なぜ、単なるネットワークエンジニアではないのか。そこにIIJのインターネット事業者としての強いこだわりがある。
鈴木氏はかねてインターネットのインパクトについて、「インターネットは『情報』と『通信』の技術基盤を共にすることによって、世界のあらゆる仕組みを変えてしまう技術革新だ」との持論を述べ、「インターネットはコンピュータサイエンスだ」と強調している。これはすなわち、「インターネットはITそのもの」という解釈である。
IIJはネットワーク事業者と見られがちだ。しかし実は、上記の考え方に基づいて、インターネットをベースとしたネットワークサービスとシステムインテグレーションが事業の二本柱となっている。こうした立場から、同社は「IIJはネットワークの分かるIT人材の質と量において世界でもトップクラス」とする一方で、「その人材不足が今後ますます深刻な問題になることも痛切に感じている」と言う。
会見の質疑応答で、「ネットワークの分かるIT人材の育成については、産官学でプロジェクトを組んで推進するくらいの大掛かりな取り組みが必要ではないか。それに向けてIIJアカデミーを皮切りに、IIJが旗を振るつもりはないか」とあえて大きな話に膨らませて質問した。すると、鈴木氏は次のように答えた。
「重要なテーマではあるが、大プロジェクトとなるとさまざまなすり合わせが必要になるので、まずはIIJで進めていろいろな取り組みに広がっていけばいいと思っている」
今後は他のネットワーク事業者のIT人材育成を積極的に支援していく考えだという。IIJにとってIT人材育成は教育事業の一環だが、鈴木氏は会見の中で幾度も「社会貢献」と表現した。ネットワークの分かる人材の育成は社会貢献だとの思いが強いのだろう。
IT人材は、DX(デジタルトランスフォーメーション)やAI(人工知能)、データサイエンス、セキュリティなど、いずれの分野も不足しているといわれる。中でもネットワークの分かるIT人材の不足は、これからのデジタル社会にとって最も懸念される問題かもしれない。その意味で、IIJの取り組みは今後も注視していきたい。
フリージャーナリストとして「ビジネス」「マネジメント」「IT/デジタル」の3分野をテーマに、複数のメディアで多様な見方を提供する記事を執筆している。電波新聞社、日刊工業新聞社などで記者およびITビジネス系月刊誌編集長を歴任後、フリーに。主な著書に『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。1957年8月生まれ、大阪府出身。
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