400個の仮想サーバを4カ月でハイブリッドクラウドへ 塩野義のプロジェクト成功の道程塩野義製薬のHaaS実現に向けた挑戦(1/2 ページ)

老舗製薬企業である塩野義製薬は400個の仮想サーバをハイブリッドクラウド環境へ移行させたが、この過程には解決しなければならない課題もあった。移行プロジェクト成功のための道のりを聞いた。

» 2022年12月26日 08時00分 公開
[指田昌夫ITmedia]

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 VMwareは同社主催のイベント「VMware EXPLORE 2022 Japan」を2022年11月15〜16日の2日間で開催した。事例講演には、塩野義製薬(以下、塩野義)のデジタル推進本部デジタルソリューション部のグループ長を務める西村亮平氏も登壇し、「HaaS実現に向けたハイブリッドクラウド移行への挑戦」と題して講演を行った。西村氏は2018年の同社入社以来、ITインフラの企画と導入推進を担当している。

レガシーを使い続けながらモダナイズする

塩野義の西村亮平氏

 塩野義は創業144年の老舗製薬企業。これまでは創薬力を武器に成長してきたが、2030年に向けた中長期戦略では「新たなプラットフォームでヘルスケアの未来を創り出す」をスローガンに掲げている。これは創薬だけでなく、ヘルスケア全体を見て価値を創造するために、HaaS(Healthcare as a Service)企業へと変革することを意味する。

 西村氏は塩野義の取り組みについて「HaaSビジネスへの転換の中で、新ビジネスの検証や準備、立ち上げがさまざまな場所で起きると想定される。それによりPoC(概念実証)が活発化し、新ソリューションの活用や今までにない横断的かつ大容量のデータ分析も増える。IT部門はこれらに対応しなければならない」と語る。

図1 塩野義が目指す変革(出典:塩野義提供資料)

 変革への要求に応えてドライブするために、ITインフラに必要な要件は何か。西村氏は「アジリティとスケーラビリティの実現に集約される」と話す。

 「まずはオンプレミスやクラウド、SaaS(Software as a Service)を問わず、必要なIT環境を迅速かつ適正なコストで提供すること。そして、通信効率の高いネットワークと大容量データ領域の動的な確保が求められている」(西村氏)

 一方で西村氏は「塩野義のITインフラはこのニーズに全く応えられなかった」と振り返る。

 「十数年活用してきたオンプレミスの仮想基盤の上で、約400の仮想サーバが動いていたが、"絵に描いたように"老朽化した状態だった。今後の拡張が見込めない『VMware ESXi4/5』ベースの仮想基盤で、最新のOSの導入や新たに求められるリソースの割り当てが柔軟にできなくなっていた」(西村氏)

 加えて「クラウドのコストが安くなってきた」と西村氏は指摘する。

 「クラウドの仮想基盤はSIベンダーのサービスとして提供を受けており、3〜4年前まではクラウドは高い印象だった。しかし、ここ数年はシミュレーションしてもクラウドにコストメリットが出る」(西村氏)

塩野義が抱えていたクラウド移行への課題

 一方でクラウド移行にも「クリアすべき課題」があった。社内の仮想サーバには「Windows2000 Server」などの古いサーバを利用して稼働しているシステムが多数あり、統廃合しても全てのサーバのクラウドシフトは現実的ではなかった。

 工場や研究所などで専用機器と接続しているサーバも多く、通信のレイテンシが重要になる。そのためローカルのサーバを残す必要もあった。

 「工場や研究所のインフラを根本的に変えるのは難しく、エッジコンピューティングを意識した設計が必要だった」(西村氏)

 また、製薬業界には「GxP」というガイドラインに沿ったシステムを導入する制約があり、現在の環境と同等の基盤構成であることが求められる。こうした条件を考慮した結果、塩野義では「VMware Cloud on AWS」を使ったハイブリッドクラウドの構成にするのが最善だという結論に至り、プロジェクトが始動した。

図2 塩野義が抱えていたクラウド移行の課題(出典:塩野義提供資料)

VMware Cloud on AWSを選んだ理由

 西村氏はVMware Cloud on AWSを選んだ理由を以下のように語る。

 「まず、基盤を最新化しながらレガシーの仮想マシン(VM)を保持することができる点が重要だった。またオンプレミスとレイヤー2延伸(L2延伸)を組み合わせることでネットワークを共通化して運用に柔軟性や可搬性を持たせられることもメリットだと感じた」

 L2延伸とは、L2(レイヤー2やデータリンク層)のネットワークを延伸する技術だ。さらに「将来どのような環境に移行しても、柔軟に対応できる点がよかった」と西村氏は話す。

 「『VMware Cloud on AWSを拡張するか』、または『オンプレミスを増やすか』など、将来は読めない。その際にどちらに転んでも対応できるのはメリットだ」(西村氏)

 そのうえで、クラウド移行によって20〜30%のコスト削減効果が見込めたことが採用の決め手になった。

図3 ハイブリッドクラウド導入前のシステム構成図(出典:塩野義提供資料)

 では、なぜ同社はVMwareのクラウド環境にAmazon web Services(以下、AWS)を選んだのか。

 もともと塩野義がAWSユーザーだったこともあるが、西村氏は「いずれマルチクラウドの時代になる」という想定を持っている。クラウドのベンダーにこだわりはなかった」と話す。

 「IaaS(Infrastructure as a Service)レベルで各クラウドを比較するというのは、全く意味がないと思っている。用途に応じて最適なクラウドを選び、それを組み合わせればいい」(西村氏)

 ただし、AWSがVMwareの強力なバックアップ体制を持っている点は選定の大きな後ろ盾になっている。西村氏は「VMwareのエンジニアは、AWSの深い所まで理解している」と評価する。

 「メインのベンダーが技術に強いことは移行時のリスクヘッジになる」(西村氏)

図4 ハイブリッドクラウド導入後のシステム構成図(出典:塩野義提供資料)
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