自動車産業は「100年に一度の変化」 各社の取り組みは

自動車業界でデジタルの活用が進む。各社がそれぞれの取り組みを推進しているが、Microsoftはどのように貢献するのか。

» 2023年02月01日 08時00分 公開
[大河原克行ITmedia]

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 日本マイクロソフトは2022年1月26日、同社の自動車業界における取り組みについて説明会を実施した。説明会では、オープンソースエコシステムを基本としたグローバル戦略に触れるとともに、「ソフトウェア定義型自動車」(SDV:Software-Defined Vehicle)が今後の重要な潮流になることを指摘した。

自動車業界の「100年に一度の変化」 新たな課題も

Microsoftの江崎智行氏

 Microsoftの江崎智行氏(自動車産業担当 ディレクター)は説明会の冒頭で「MicrosoftがSDVを開発して商品化したり、SDVのエンドトゥエンドのソフトウェアやサービスを商用化したりすることはない。ユーザーがSDV化を考えたときに、足りない技術を一緒に作り、ユーザー自身が商用化することを支援するのがMicrosoftの役割だ」と見解を述べた。

 同氏によれば、Microsoftは自動車業界の現状を「企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)」「車両のトランスフォーメーション」「モビリティサービスのトランスフォーメーション」の3つに直面し、それによって、100年に一度の大変革が起きていると捉えている。

 自動車業界では既にコネクテッド化や自動化、電動化が当たり前になり、次の段階のSDVに進化し始めている。「その先には、自動車を中心としたシステムの最適化が進み、社会システム全体の中で消費者を中心とした新たなモビリティの定義や顧客価値の最大化を目指すエコシステムが構築される」と江崎氏は指摘する。その上で、商品化やサービス化において、消費者の期待値の変化やマクロ経済の変化、環境規制への強化などに対応しなければならない。

図1 100年に一度のトランスフォーメーション(出典:日本マイクロソフト提供資料)

 「自動車業界の大きな変化の中で、Microsoftに求めらているのは『Do more with less』(より少ない時間や資源でより多くの価値を創出)の実現だ。そのために、われわれは幅広いポートフォリオを持っている。自動車業界のパラダイムシフトを支援する」(江崎氏)

 同氏によれば、新たなモビリティサービスの実現に向けて、CASEツールは「車両イノベーションの加速」「差別化された顧客体験」「レジリエントなオペレーション」「組織生産性の向上」「新たなモビリティサービスのエコシステム」の5つのフォーカスエリアで進化していき、ここにサステナビリティとセキュリティが加わる。江崎氏は「この2つは自動車やモビリティ業界における今後の重要課題だ」とする。

図2 自動車・モビリティ業界の課題(出典:日本マイクロソフト提供資料)

MicrosoftのSDV戦略の中身は

 江崎氏は説明会の中で、車両イノベーションを加速させるために「オープンソースの推進」「商用化の支援」「戦略的パートナーシップ」に取り組む姿勢をみせた。欧州の主要オープンソース団体である「The Eclipse Foundation」はSDVのための新たなワーキンググループに「Eclipse SDV Working Group」を設置しており、Microsoftはこの戦略メンバー3社のうちの1社だ。

 「ワーキンググループは、SDVを実現する上で必要となる機能を定義し、開発や標準化に取り組む。また、OEMやTier1企業が持つアセットとオープンソースアセットを組み合わせて、『Microsoft Azure』(以下、Azure)でエンドトゥエンドのSDVソリューションを商用化できるように支援していく」(江崎氏)

 同氏はオープンソースの重要性について、「オープンソースエコシステムを基本とし、非競争領域で共通的に使えるコンポーネントを定義することがSDV化を最も加速する。開発領域となるアップストリームでは、車載型OSSを推進し、完成したアセットを標準化する。また、商用化を行うダウンストリームでは、Azureによってロックインするのではなく、『標準化された技術やOSSにとって最適な環境がAzure』となるように取り組んでいく。その環境をパートナーやユーザーに提供し、商用化を加速する仕組みが構築できる」と語った。

 Microsoftは現在、Eclipse SDV Working Groupで車載アプリケーションのプログラミングモデルの開発プロジェクトや車載のデジタルツインの設計開発のプロジェクトをリードしている。

 「The Eclipse Foundationは欧州企業が中心となって進められているが、日本のOEMやTier1企業、パートナーが参加して日本発の仕様を盛り込んでいきたい」(江崎氏)

図3 MicrosoftのSDV戦略(出典:日本マイクロソフト提供資料)

自動車業界におけるデジタル活用事例

 江崎氏は自動車各社のデジタル活用を以下のように解説した。

 最初に紹介されたのは、Microsoftが「Car to cloud」のコンセプト事例と位置付けるGeneral Motors(GM)のプラットフォーム「Ultifi」だ。

 「Ultifiは、運転者や同乗者に対してハイパーパーソナライゼーションを実現するアプリを開発し、サブスクリプションで収益をあげるモデルを目指しており、2023年に本格的にサービスが稼働する。自動車がインテリジェントクラウドのコネクションポイントになり、新たな消費者体験を運ぶ。データのマネタイズなど、新たなサービスも提供できる。GMは、2025年までに投資額を数百億ドルまで引き上げる予定であり、Microsoftもその取り組みに注目している」(江崎氏)

図4 Car to cloudの事例(出典:日本マイクロソフト提供資料)

 また、Mercedes-Benzでは、同社のデジタルプロダクトシステムである「MO360」(Mercedes-Benz Cars Operations 360)のデータ基盤をAzure上で構築し、「MO360 Data Platform」として運用を開始している。MO360 Data Platformには30の自動車工場が接続され、2025年までに自動車の生産効率を20%向上させる計画だ。

図5 Mercedes-Benzの事例(出典:日本マイクロソフト提供資料)

 トヨタ自動車のToyota Motor North Americaでは、「Microsoft Power Platform」で従業員のアイデアをアプリにしている。市民開発を推進し、Excelのスプレッドシートを「Power BI」のダッシュボードに変換したことで、社員一人当たりの労働時間を毎月10時間削減できた。

図6 Toyota Motor North Americaの事例(出典:日本マイクロソフト提供資料)

 江崎氏はメタバースの活用事例にも触れた。

 FIATは2023年1月からバーチャルショールームを開設している。Azure上で稼働するメタバース空間で、顧客は自宅にいながら新たな自動車の説明を受けることはもちろん、試乗や購入手続きもできる。

図7 FIATのメタバースへの取り組み(出典:日本マイクロソフト提供資料)

 日産自動車では、工場で働く人たちが生産手順を学べるように、「Intelligent Operation Support System」を構築している。「HoloLens 2」と「Dynamics 365 Guides」を活用し、作業手順の習得時間の短縮化や講師の負担軽減を実現している。

図8 日産自動車の取り組み(出典:日本マイクロソフト提供資料)

パートナーエコシステムの重要性と今後のMicrosoftの姿勢

 Microsoftはレファレンスアーキテクチャを活用したパートナーエコシステム支援のために、高付加価値ソリューションを実現するためにパートナー支援を行う「コネクテッドフリート」、自動運転の開発に必要な機能をクラウドや車両、AI(人工知能)を含めた包括的なサービスセットとして提供する「AVOps」、コミュニケーションやセールス、オペレーションを向上させるためにメタバースを活用し、顧客体験を向上させる「デジタルセリング」などを提供している。

図9 パートナーエコシステム支援のための取り組み(出典:日本マイクロソフト提供資料)
日本マイクロソフトの竹内洋二氏

 日本マイクロソフトの竹内洋二氏(執行役員常務 モビリティサービス事業本部長)は、「メタバースやデジタルツインといったデジタル技術を活用し、単なる移動だけでなく新たな体験を届けることに貢献したい。コロナ以前の状況には戻らないと考えている交通事業者が多い中で、既存のアセットを活用しながら新たなビジネスモデルの探索に取り組む支援を行い、そのために有用なテクノロジーを提供する」と話す。

 同氏は自動車業界に対する日本マイクロソフトの事業姿勢についても以下のように語った。

 「日本マイクロソフトはユーザーのビジネスを実現するために、ソリューションやインサイトを提供するソフトウェア会社であり、ユーザーが持つ事業やブランドと競合したり、データを副次的に利用したりといったことはない。SDVやサステナビリティにおいてオープンなエコシステムを構築し、協業しながら業界に精通したパートナーと連携を強化する。そして、ビジネスサイドの人たちのスキル強化やAIの利用促進、フュージョン開発の促進を支援していく」(竹内氏)

 自動車産業は、日本の製造業の中でも屋台骨となる業界だ。また、デジタルの活用は企業競争力の強化や体質改善、新たなビジネス創出だけでなく、自動車そのものを進化させる。いわば、自動車産業は「最もデジタルの影響と恩恵を受ける業界」ともいえるだろう。Microsoftのグローバルな知見やノウハウ、技術が生きる分野であり、今回の説明会ではその姿勢が明確に示された。

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