IPAが「DX白書2023」公開 経営層のIT見識に日米で大きな差が残る

「DX白書2023」が公開された。明るい兆しが見える情報もあるが、経営層のIT理解にはまだ大きな課題が残っているようだ。

» 2023年02月09日 18時15分 公開
[山口哲弘ITmedia]
DX白書2023(出典:IPAの公開資料)

 情報処理推進機構(IPA)は2023年2月9日、「DX白書2023」を公開した。日米企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)動向を比較し、戦略や人材、技術の面からDX推進の現状や課題などを包括的に解説した。

 DX白書は、IPAが2009年に発行を始めた「IT人材白書」や、2017年発行開始の「AI白書」から、人材と技術の要素を継承しつつ、戦略の視点を加えた新たな白書だ。DX白書2023では2021年版と同様、国内事例の分析に加え、国内の地域別で見たDX推進の特性や日米企業を対象としたアンケート調査結果の比較等も盛り込まれた。

 一方、日米企業を対象としたアンケート調査から、日本企業のDXはデジタイゼーションやデジタライゼーションの領域で成果は上がっているものの、顧客価値の創出やビジネスモデルの変革といったトランスフォーメーションに関しては成果創出が不十分であることが明らかになった。詳細に見ると、DXに取り組んでいる日本企業の割合は69.3%で、2021年度よりも13.5ポイント増加した。

 ところが、全社戦略に基づいてDXに取り組んでいる割合を見ると米国よりも13.9ポイント低く、日本企業では組織的なDXの取り組みが遅れている。

ITリテラシーの高い経営層は依然として少ない日本、スピードに差

 DXによる「成果が出ている」とする企業の割合は、日本では58.0%で、2021年度の49.5%から増加したものの、米国は89.0%と大きく差が開いている。取り組み内容に対する成果でも、「新規製品・サービスの創出」や「顧客起点の価値創出によるビジネスモデルの抜本的な変革」といったトランスフォーメーションのレベルでは、日本の20%台に対して米国は60%以上と大きな差がついた。

DX推進の成果に見る日米格差(出典:IPAのプレスリリース)

 経営層のIT見識の有無においても日米で大きな違いがあった。

 IT分野に見識がある役員の割合が3割以上と答えた企業でも、日本の27.8%に対して米国は60.9%と大きな差が開いていた。IPAでは、DXの推進には、経営のリーダシップが不可欠であるため、日本でも経営層のITに対する理解度を高めていくことが必要だとしている。

DX推進の成果に見る日米格差(出典:IPAのプレスリリース)

 日本企業では、DXを推進する人材の不足が顕著だ。人材が「充足している」と回答した企業の割合は、米国の73.4%に対して日本はわずか10.9%。「大幅に不足している」と回答した企業の割合の割合を2021年度調査と比べると、米国では3.3%に減少したのに対して、日本では30.6%から49.6%に増加した。日本では、DXを推進する人材の量の不足が進んでいることが明らかになった。

 DXを推進する人材像の設定状況についても、日米で差が見られた。人材像を「設定し、社内に周知している」企業の割合は、米国の48.2%に対して日本は18.4%。「設定していない」と回答した企業は、日本では40.0%を占めたのに対して、米国では2.7%にすぎなかった。IPAでは、人材の獲得や確保を進める上では漠然と人材の獲得・育成に取り組むのではなく、まず自社にとって必要な人材を明確化することが重要だとしている。

マイクロサービスを使いこなせている企業はごくわずか、機動力に差か

 最後に、ITシステム開発技術の活用状況を見ると、SaaSを活用する企業の割合は日本では40.4%、米国では53.4%と大差がなかったが、マイクロサービス/APIは、日本の21.1%に対して米国は57.5%、コンテナ/コンテナ運用自動化は日本の10.5%に対して米国は52.1%と大きな差があった。

アジリティの高いIT施策に不可欠なマイクロサービスの活用などでも大きな差が残る(出典:IPAのプレスリリース)

 日本では、ビジネス環境の変化に迅速に対応するITシステム構築に向けた技術に対して活用度合が低かった。データ活用による「売上増加」効果については、米国では全ての領域で60〜80%の企業が「成果あり」と回答したのに対して、日本では10〜30%と総じて低い。「成果を測定していない」企業も日本では総じて50%前後を占めており、IPAでは、取り組みの成果を測定し、改善や成果創出につなげていくことが必要だとしている。

地域別俯瞰図を見ると、北海道では農業でのデジタル活用、甲信越ではドローンによる森林調査など地域産業での活用、東北や北陸、四国では働き手の減少や高齢化といった地域課題の解決に活用されていることが分かる(出典:IPAのプレスリリース)

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