「DX人材不足」「社内のやる気がいまいち」「成果へのプレッシャーがすごい」――中国企業が“克服したい課題”とは?アンケート調査結果に見る中国企業のDX推進トレンド(1/2 ページ)

デジタル産業の躍進が続く中国だが、意外にも政府が民間企業にDXを推奨するようになってからまだ2年もたっていない。既に一定の成果を出しつつある中国企業が抱える課題とは何か。企業文化の変革によって課題を克服しようとする中国企業の取り組みにも触れる。

» 2023年02月17日 16時15分 公開
[周 逸矢野経済研究所]

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 世界有数のデジタル大国となった中国。先進的な工場や世界の時価総額ランキングで上位に入る企業が目立つ一方で、日本では中国企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)の現状はあまり知られていない。

 この連載では、「組織構造」「企業文化」「DX実践」という3つの視点からDX実装(DX推進)における中国企業の特徴を考察する。

 1回目(中国企業の組織力を支える“3つの奥義” )は組織構造をみた。連載2回目となる今回は企業文化編として、アンケート調査結果から中国企業の企業文化がDX実装に及ぼす影響をみていく。

 まず、DXを成功させるためには何をすべきか。上層部が注力してDXを推進するための組織を築き上げたところで、必ずしもDX実装が成功するとは限らない。なぜDXを推進するのかという動機の特定や目標の作成、どのようにDXを進めるかという企画の立案、実証実験の実施、成果の評価など一連のプロセスを実施する必要がある。DX実装の最前線に立つ従業員の意識も高めなければならない。

企業がDX実装を成功させるための「企業文化の力」

 これらを実現するには、下記に示す3つの「企業文化の力」が必要不可欠だと筆者は考える。

「実事求是」:本来の意味は、事実の実証に基づいて物事の真理を追求すること。

 ここでは転じて、困難をありのままに受け止めて、DX実装の動機や目標、計画を実需に合わせて設定したり、状況に合わせてリアルタイムで調整したり、積極的な姿勢で取り組んだりすることを意味する。


「開放包容」:本来の意味は、開放的、包摂的な姿勢を示すこと。

 ここでは転じて、外部のDX専門人材や経験、体制を積極的に取り入れ、ささいな失敗でくじけない包容的環境を構築することを指す。


「推陳出新」:本来の意味は、古いものを取り除き、新しいものを作り出すこと。

 ここでは転じて、DX実装を通して企業の将来ビジョンやブランドの価値観、製品コンセプトなどに新しい変化を取り入れることを指す。

アンケート調査結果から見えた「中国の企業文化」

 では、中国の企業は上記3つの企業文化を備えているのだろうか。清華大学グローバル産業研究院(Institute for Global Industry,Tsinghua University)が2021年11月に発表したアンケート調査結果「中国企業におけるデジタルトランスフォーメーション研究報告書」(2021)(注1)から、企業文化に関連する内容を抜粋して紹介する。

 ここから中国企業がなぜDXに取り組もうと考えるのか、DX実装に当たってどのような課題を抱えているのかが見えてくる。

 「中国企業がDX実装になぜ取り組むのか」を尋ねた質問に対する回答は、以下の通りだ。

図1 DX実装の動機(N=123)※複数回答可(出典:「中国企業におけるデジタルトランスフォーメーション研究報告書」《2021》) 図1 DX実装の動機(N=123)※複数回答可(出典:「中国企業におけるデジタルトランスフォーメーション研究報告書」《2021》)

 最も多い回答は「作業効率向上」(53.7%)で、「クライアント需要に対する的確なレスポンス」(52.0%)、「製品やサービスの差別化レベルの引き上げ」(46.3%)が続いた。

 最多の回答を得た作業効率に関連する課題として、中国ではほぼ全ての業界で「情報伝達が遅い」「部門間協業効率が悪い」「納期が長い」「作業効率が低い」「レスポンスが遅い」「営業とアフターの連携がスムーズではない」「サービスレベルが低い」などが挙がった。中国企業はまずはこれらの課題の存在をしっかりと受け止めるべきだ。その後、解決策を検討する力が問われる。

 既に解決策を実施している企業を紹介しよう。

 宝石ブランドの 周生生は「クライアント需要に対する的確なレスポンス」を改善するために、オンラインでの360度鑑賞やAR(拡張現実)を利用した商品の試着や個性的なデザイン、テンセントが提供するメッセンジャーアプリ「WeChat」経由で予約できるプロポーズ支援サービスなどを通じて、顧客接点を増やす工夫をしている。

 「製品やサービスの差別化レベルの引き上げ」に取り組む企業としては、若者をターゲットとするコーリャン酒 (高粱酒)ブランドの江小白が挙げられる。

 同ブランドはEコマース(電子商取引)プラットフォームにソーシャル機能を持たせる「ソーシャルEコマース」方式を導入した。「雲約酒」(Web飲み会)や「雲贈酒」(クラウドを介してユーザー同士でコーリャン酒を贈り合う)、その年に製造された新酒を自宅で試飲できる「新酒アセスメントの無料訪問サービス」 などでコロナ禍に対応した新たな販売方式を生み出した。

DX専門人材不足に悩む中国企業

 「DX実装において短期的に克服すべき課題」を尋ねた質問に対する答えは、以下のようになった。

図2 DX実装において短期的に克服すべき課題(N=123)※複数回答可(出典:「中国企業におけるデジタルトランスフォーメーション研究報告書」《2021》) 図2 DX実装において短期的に克服すべき課題(N=123)※複数回答可(出典:「中国企業におけるデジタルトランスフォーメーション研究報告書」《2021》)

 「DX専門人材の不足」の回答が61.8%と最も多く、「DX成果志向に由来するプレッシャーが大きい」(42.3%)、「社内のDX雰囲気(企業文化)がもの足りない」(35.0%)が続いた。

 「DX専門人材の不足」から見ていこう。企業にとって理想的な人材とは、本来は「専門技術」「業界知識」「管理能力」の全てを備えた複合的人材だが、そのような人材は数が限られる。そこで最近は「業務内容に精通し、管理能力を備えた人材を内部昇格させる」「DX技術に精通した人材を中途雇用する」の2つを併用する企業が多い。

 複合的人材の育成には時間がかかるため、それまでの間に生じる空白を“合わせ技”の採用活動によって埋め、「クッション地帯」とする動きが広がっているのだ。

 2番目に多かった「DX成果志向に由来するプレッシャーが大きい」に関しては、中国企業が短期的な成果を重視する傾向がうかがえる。3番目に多かった「社内のDX雰囲気(企業文化)がもの足りない」は長期的なDX推進を支えるバックグラウンド醸成の不十分さへの懸念が感じられる。

 この2つは一見矛盾するようだが、筆者は「短期的な成果の重視」と「DXを長期的に推進する企業文化の醸成」のバランスを、時期に合わせていかに調整するかが管理者(DX実装の責任者)の課題であり、知恵の出しどころでもあると考える。

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