「DX人材不足」「社内のやる気がいまいち」「成果へのプレッシャーがすごい」――中国企業が“克服したい課題”とは?アンケート調査結果に見る中国企業のDX推進トレンド(2/2 ページ)

» 2023年02月17日 16時15分 公開
[周 逸矢野経済研究所]
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 DX実装において今後3年間で克服すべき課題を尋ねた質問に対する回答は以下の通りになった。図2で明らかになった短期的な課題と共通する点、違う点は何か。

図3 DX実装において今後3年間で克服すべき課題(N=123)※複数回答可(出典:「中国企業におけるデジタルトランスフォーメーション研究報告書」《2021》) 図3 DX実装において今後3年間で克服すべき課題(N=123)※複数回答可(出典:「中国企業におけるデジタルトランスフォーメーション研究報告書」《2021》)

 図2と同じく「DX人材の不足」(63.4%)が最大の課題として挙がり、「イノベーションに関連するコンセプト、制度、文化の欠如」(49.6%)、「部門間の協業が困難」などが続いた。

 「イノベーションに関連するコンセプト、制度、文化の欠如」は図2の回答で3番目に多かった「社内のDX雰囲気(企業文化)がもの足りない」と似た内容だ。これらが上位に挙がるのは、中国企業が持続可能なDX実装を支える企業文化を長期的課題と位置付けていることを裏付けるものだと筆者はみている。

 中国企業の中には、DX実装を長期的に進める文化を醸成するために、次のような取り組みを実施するところもある。

  • オンライン研修プログラムの構築
  • DXコンテンツ作成“専門部隊”の新設
  • 社内DX論文コンテスト
  • WeChatのサービスアカウント(服務号)(注2)の開設
  • 外部講師による研修
  • 実業務におけるDX技術(注3)の応用
図4 DX戦略の実施年数(N=123)(出典:「中国企業におけるデジタルトランスフォーメーション研究報告書」《2021》) 図4 DX戦略の実施年数(N=123)(出典:「中国企業におけるデジタルトランスフォーメーション研究報告書」《2021》)

 中国企業は、DX戦略を実施する期間としてどの程度を見込んでいるのだろうか。

 「1〜5年」と答えた企業は57.7%で最多となった。5年以上を計画している企業(「5〜10年」「10年以上」と回答した企業)は合計で約4割となった。

 2020年の調査では、同様の質問に対する回答として「5年以上」の選択肢は設けられていなかった。選択肢の中で最長の「3年以上」と回答した企業は2.1%にとどまっていたことから、持続的な投資を意識する企業の比率は上昇傾向にあるといえる(2019年調査の同様の質問に対する回答のデータは未公開)。

 今後、DXを先行して進める企業と後発企業との差が出てくる可能性もある。筆者は、両者にはそれぞれ異なる利点があると考えている。

 先行企業の利点としては、

  1. 少ないDX専門人材を他社に先駆けて採用できる
  2. 業界標準の制定に影響力を与えられる
  3. 社内でDX文化を育成するための経験を多く積める

 点が挙げられる。

 一方、後発企業は、

  1. より成熟したDX技術を導入できる
  2. より新しく、より実需に合ったシステムを構築できる
  3. より低いコストでシステムを導入できる

 の3つが利点となるだろう。

 冒頭でも書いた通り、DXを進める上で戦略を策定することは重要だ。同調査の対象となった企業はどの程度戦略を策定しているのか。下の図を通して考察する。

図5 DX戦略の策定状況(N=123)(出典:「中国企業におけるデジタルトランスフォーメーション研究報告書」《2021》) 図5 DX戦略の策定状況(N=123)(出典:「中国企業におけるデジタルトランスフォーメーション研究報告書」《2021》)

 調査対象企業123社のうち、DX戦略をすでに「策定済み」の企業は82.1%と大半を占めている。「策定済み」と回答した企業は、策定方法に2つの“流派”が存在する。

  • トップダウン方式:最初から会社全体のDX戦略を策定する。その後、実施へ移す
  • ボトムアップ方式:一部の部門でDX施策を実施して成功経験を積んだ後、別部門へ横展開する

 現時点では、「トップダウン方式が無難」と認識している企業の方が多い印象だ。いずれにしろ短期、中期、長期のDX目標を漏れなく計画し、この3つの目標の関係をはっきりさせるデザイン力が求められる。一部のDX先行企業の中には、戦略策定において、業界平均水準よりも2〜3年先駆けることを目指している企業もある

 後編では、中国企業が自社のDX実装の成果をどう評価しているか、その評価軸をどう設定するかという在り方について解説する。

筆者紹介:周 逸 (矢野経済研究所)

2005年矢野経済信息諮詢(上海)入社。約300分野の合計約400件の調査案件を幅広く経験し、中日両国企業のビジネスマッチングも担当。xEVや自動車サプライチェーン、IT全般、商業施設および不動産、電子機械、化学素材などの調査を実施。ニッチな調査ニーズへの対応を得意とする。日本語学習歴は30年。



(注1)清華大学グローバル産業研究院は2018年から「中国DXパイオニア企業ランキング」と「中国企業におけるDX研究レポート」を年1回発表している。3回目の発表となる2021年版は、123社を対象として2021年9〜11月の間に実施されたアンケート調査および個別ヒアリングの結果をまとめたものだ。調査に回答した企業のプロフィールはこちらにまとめている。

(注2)企業のみ開設できる公式アカウント。二次開発が可能で、情報発信の他、サービスの提供やフォロワーの管理ができる。プロモーション活動やマーケティング活動に使われている。

(注3)中国におけるDX技術とは、ビッグデータやクラウドコンピューティング、AI、IoT、5G、XR、ブロックチェーン、量子コンピューティングなどを指す。

(更新について)記事公開当初、本文中の(注1)(注2)と記事末尾の注釈に齟齬があったため、修正の上更新しました(2月17日22時45分更新)

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