ノークリサーチの調査によると、中堅・中小企業向け市場で今後も引き続き導入や更新、刷新が期待できるITソリューションは8分野に上る。法制度と絡めたソリューションやクラウドを適材適所で生かすシステムの展開が重要になるという。
この記事は会員限定です。会員登録すると全てご覧いただけます。
ノークリサーチは2023年3月13日、中堅・中小企業向けITソリューションの市場展望に関する調査レポートを発表した。同レポートによると、販売会社(販社)やSIerが展開する各種IT商材、ソリューションのうち、2023年以降に中堅・中小企業向け市場で成長が期待できるのは8分野に上る。
同レポートは、年商500億円未満の25業種にわたる国内中堅・中小企業1300社(有効回答件数)を対象に、ITソリューションの利用動向やIT支出、業務システム購入先などを調査した結果をまとめた「2022年版 中堅・中小企業のIT支出と業務システム購入先の実態レポート」から抜粋したものだ。
同調査は2022年7〜8月に実施し、情報システムの導入や運用、管理や製品、サービスの選定、決済の権限を有する職責者を対象としている。
「2022年版 中堅・中小企業のIT支出と業務システム購入先の実態レポート」では、DX(デジタルトランスフォーメーション)関連、業務アプリケーション、ハードウェア、クラウドサービス、アウトソーシングなど、計25分野のIT商材、ソリューションの導入割合、支出額、市場規模について分析している。
以下のグラフは、同レポートから調査対象の中堅・中小企業全体におけるIT商材/ソリューションの導入割合を抜粋したものだ。
このグラフが示すように、25分野のIT商材、ソリューションのうち、「コミュニケーション改善」「ペーパレス化」「既存システムの改善/刷新」「基幹系システム」「情報系システム」「サーバ/ストレージ機器」「ネットワーク機器」「複合機」の8分野は導入割合が20%超に達しており、今後も導入や更新、刷新が続く重要な分野になると予想される。
ノークリサーチは、これら8分野のIT商材、ソリューションについて注目すべきポイントを下記のように分析した。
コロナ禍をきっかけにWeb会議によるコミュニケーションが広まった。今後は「Web会議で会話をして終わり」ではなく、その前後に共有すべきデータにも目を向けることが重要だ。
同社の調査によると、文書管理オンラインストレージサービスの今後のニーズを尋ねた質問に対して「複数のクラウドサービスのデータを統合集約して管理できる機能」を挙げた回答は、同サービスを「導入済み」の中堅・中小企業では8.0%だったのに対して「新規に導入予定」の企業では21.5%とより高かった。
ペーパレス化は単に紙をなくすことではなく、自動化による業務の効率化を目指すことが重要になる。大企業とは異なり、中堅・中小企業における自動化は「ヒトを減らす自動化」ではなく「ミスを減らす自動化」として提案することが大切だ。
既存システムの改善、刷新は2023年10月の「Windows Server 2012」のサポート終了といったITシステムに起因する事象や、2023年10月のインボイス制度導入、2024年4月の改正電帳法における猶予期間終了といった法制度関連の事象が契機になる。
いずれもOS更新や法制度対応にとどまらず、業務改善に結び付けることが重要だ。例えばインボイス制度導入で3万円未満の領収書保存が必要になったことに伴い、経費申請処理全般のペーパレス化やフロー効率化を図るといったニーズをカバーする必要がある。
中堅・中小企業市場では、個々の基幹系システムからERP(企業資源計画)へのステップアップが進みつつある。オンプレミスのパッケージとSaaS(Software as a Service)の併用といったシステム形態の多様化も見られ始めた。今後はオンプレミスとクラウドの二者択一ではない柔軟な発想が求められる。
情報系システムの基本部分(電子メール、掲示板、スケジューラ)は外資系クラウドサービスが優勢であり、システム連携における通知機能の集約といった動的なポータル機能やWeb会議のUI(ユーザーインターフェイス)活用が今後の差別化要素になる。
「クラウドを生かす」ことと「クラウドに移行する」ことを区別した提案が不可欠になる。バックアップ、リストアにおけるデータの隔離検証、サーバの物理セキュリティ、データ量増加の対策も大切だ。
社外エンドポイントと社内との接続では、サービス志向が高まりつつある。「ゼロトラスト」などのキーワードに頼り過ぎず、利点を分かりやすく訴求できれば、ZTNA(ゼロトラストネットワークアクセス)などのクラウド上の管理を主体としたネットワーク関連サービスの商機が期待できる。
複合機は、ペーパレス化において紙とデジタルの橋渡しを担う重要なインタフェースとなる。ただし、複合機大手ベンダーはIoT(モノのインターネット)関連機器や業務アプリケーションなどを提供する多角化戦略を選択しているため、複合機がサーバとしての役割を担う方向へと進む可能性は低いと予想される。
「2022年版 中堅・中小企業のIT支出と業務システム購入先の実態レポート」では、冒頭に述べた25分野のIT商材/ソリューションに対する中堅・中小企業の支出額を尋ねた結果を集計し、それに基づいた市場規模も算出している。
以下の2つのグラフのうち上段は、25分野のIT商材、ソリューションの中堅・中小企業全体(年商500億円未満)における市場規模を5つのカテゴリーにまとめて集計した結果だ。
下段は「DX関連ソリューション」カテゴリーから「ペーパレス化」分野、「業務アプリケーション」カテゴリーから「情報系システム」分野、「ハードウェア」カテゴリーから「ネットワーク機器」分野の市場規模を抜粋し、年商別に集計したものだ。
情報系システムでは、中堅企業層(年商50〜500億円)と中小、小規模企業層(年商50億円未満)における市場規模の比率がおおむね「1:1」になっているが、ペーパレス化とネットワーク機器では中小、小規模企業層が全体に占める割合が高くなっている。
このことから、「ITベンダー(販社やSIer)企業としては、冒頭に述べた導入割合だけでなく、こうした市場規模の年商による違いも踏まえた上で、今後注力すべきIT商材、ソリューションの優先度付けを行う必要がある」とノークリサーチは指摘する。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.