ニチガスが模索する“Web3を見据えたビジネスモデル” 「レガシーシステムを捨てる勇気」が必要な理由DXSummit14レポート(1/2 ページ)

国内のエネルギー企業の中でDXにおいて一歩先んじているニチガス。人の手を排した自動検針やLPボンベの交換時期などを最適化する託送システム、基幹システムのフルクラウド化などを実現してきた同社が今模索する、Web3の世界における新しいビジネスモデルとは。

» 2023年03月22日 09時00分 公開
[土肥正弘ITmedia]

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 国内のエネルギー企業の中でDX(デジタルトランスレーション)において一歩先んじているのが日本瓦斯(以下ニチガス)だ。同社の和田眞治氏会長は、Web3の世界における新しいビジネスモデルを模索している。近未来の基幹システムの在り方について、同社の取り組み事例とともに語った。

本稿はITmedia主催のデジタルイベント「DX Summit vol.14 『本当に成果が出る』DXの進め方」における同氏講演「ニチガス版DXへの挑戦を可能にした組織づくり」(2022年11月8日開催)を基に編集部で再構成した)

ニチガスがWeb3への取り組みをDXの中核に据える理由

ニチガスの和田会長 ニチガスの和田会長

 ニチガスのDXの特徴は、ブロックチェーンをはじめとする技術の活用と、他事業者との協創を目指すところにある。その先進的な取り組みは、2021年5月に運用開始した「ニチガスツイン on DL」に象徴的に示されている。

 これは同社独自のメタバースであり、同社事業に関わるIoT(モノのインターネット)データや物理資産などを仮想空間上に再現するデジタルツインされたシステムだ。同社はメタバースによって全てのガス供給設備やデポステーション(LPガスハブ充填《じゅうてん》基地)、ボンベ、車両などの物理資産が監視、管理され、操作可能にすることを目指している。

 同社はメタバースの構築の目的を、単なる「見える化」による効率向上にとどまらない、災害対応や他事業者とのパートナーシップ強化、SDGs(持続可能な開発目標)実現への貢献にもつながるとしている。

図1 ニチガスが描くメタバース「ニチガスツイン onDL」のイメージ(出典:和田氏の講演資料) 図1 ニチガスが描くメタバース「ニチガスツイン onDL」のイメージ(出典:和田氏の講演資料)

 和田氏は今後起きる産業構造の変化について、「ブロックチェーンなどの技術によって生まれるWeb3は、これまでの国などによる中央管理の社会システムを非中央集権型の社会システムに組み直すものだ。そこでは多様な事業者と個人がともに価値を作り出す協創社会が生まれる」と述べた。身近な例として「取次事業や卸販売がなくなり、限りなくピアトゥピアで事業が動くようになる」と言及した。

 こうした大変革がどのように起きるのか、あるいはどう起こしていくのか。Web3を見据えた同社の取り組みが具体的に語られた。

「現在のシステムのほとんどは“ごみ屋敷”」

 本題に入る前に、ニチガスがDX推進に当たって不可欠だと考えているものは何か。同社のDXにおける旗振り役である和田氏は次の6点を挙げた。

1.DXへ変革する強い意志

 トップの強い意志で終わりのない旅に出る覚悟が必要だ。特にレガシーシステムとの決別を先延ばしにすればするほどシステム移行は難しくなり「2025年の崖」がリアルなものとなる。「レガシーシステムを捨てる方がコストはかさむ」という反対意見もあるが、それは単なるレトリックだ。“取りあえずという名の先送り”だとトップが理解することが重要だ。

2.基幹系システムの再構築に対する覚悟

 現状稼働しているシステムの多くは足し算のみで築かれたごみ屋敷だ。建て替え必須の建物をリフォームしているのが今の状態だといえる。「何ができるか」を議論しているのに、「何ができないか」を議論したがる人たちが、自己変革する動機の弱い組織に存在している。リスクの大半は古いレガシーの継ぎはぎから生まれている。細かな不合理を受け入れないと、大きな合理性にはたどりつけない。

3.デジタル革命への組織の再構築

 DXのためには人事制度を含めて見直す必要がある。(変革に反対する)プロパー従業員との戦いに屈しない人材を確保すべきだ。コンサルに判断を丸投げするのではなく、さまざまな優秀な人材、能力を求める時代が到来した。

4.DXはコスト削減や働き方改革の要だけでなく、トップライン拡大の必須条件になる

 DXはコスト削減や働き方改革を進めるだけではなく、トップライン(営業収益)拡大の重要なポイントでもある。労働生産性が向上しないシステム改革は意味がない。ペーパーレス化やAI(人工知能)導入で契約のプロセスから摩擦をなくす、あるいはキャッシュレス化よって「お金の通り道」から摩擦をなくすといった、業務削減や中間処理の自動化、自動化による人的負荷軽減を目指すべきだ。

5.世界中から優秀なITパートナーを確保する

 ITパートナー選びに国境はない。国内企業との連携だけではDX推進は難しい。AIやIoTなどの技術や生産性の高い言語を操る優秀なIT人材との連携が可能な基盤整備が必要だ。どの会社と組むかではなく、誰と組むかが重要だ。

6.国との連携の形

 レガシーシステムは行政などのニーズに準拠してフレームが作られ、ロジックが構成される中央管理型だった。Web3では、システムをオープン化するプラットフォームでさまざまな事業者がデータを共有し、作業を分担することで分業できる世界が実現する。

 Web3ではクラウドの分散化が可能になる。基幹システムをタスクごとに独立させて、機能ごとにみじん切りして機能単位で独立した小さなアプリケーション(アプリ)を組み合わせて全体を形成するマイクロサービスに適した設計、手法が可能になる。個別サービスをAPIで呼び出すこの仕組みでは、ブロックチェーンによってプライバシーなどを侵害することなく公正な連携、取引が可能になる。

 もっとも、このような仕組みを単一組織で構築するのは合理的ではない。事業者だけでなく国も含めて連携する必要がある。国や多くの事業者が連携を図ることでSDGs(持続可能な開発目標)への貢献にも拍車が掛かる。

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