アクセンチュアは「ジェネレーティブAI」をどう見るか 中小企業のための“健保”方式を提案してみたWeekly Memo(2/2 ページ)

» 2023年04月24日 15時00分 公開
[松岡功ITmedia]
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中堅・中小企業のジェネレーティブAI活用は“健康保険組合”方式で

 保科氏はその上で「これからは人間とジェネレーティブAIとのコラボレーションで得られる相乗効果を追求することが重要になる」と強調し、「ジェネレーティブAIは単に作業を効率化する存在ではなく、人間の選択の可能性を広げ、人間に寄り添うパートナーになる」と述べた。その具体的な内容を示したのが「アウトプット作成までの“時間”を短縮する」「選択肢(着想/創造力)の“幅”を広げる」「AIから学び、AIの教師になる」という3つのステップを描いた図4だ。

図4 人間とジェネレーティブAIとのコラボレーションで得られる相乗効果(出典:アクセンチュアの記者説明会資料)

 この図の中で、同氏は特に3つ目のAIとのやりとりについて「今後はAIによるアウトプットをレビューする能力、AIにフィードバックしてAIを育てる能力が求められる」と述べ、右下に描かれたサイクルを回すことが大事だと説いた。

 では、ジェネレーティブAIがこれからどんどん仕事や生活に入り込む中で、人間はどのようなスキルを身に付けていかなければならないのか。保科氏は3つの領域における8つのスキルを挙げた(図5)。

図5 人間が身に付けるべきスキルとは(出典:アクセンチュアの記者説明会資料)

人間がAIを補完するためのスキル

 「人間性回復」「定着化遂行(業務変革スキル)」「判断プロセス統合(人間による総合的判断)」の3つ。保科氏は特に判断プロセス統合を取り上げ、「どこをAIの判断に任せて、どこを人間が判断すべきかについてきちんと考えることが大事」と述べた。

AIに人間の力を拡張させるためのスキル

 「合理的質問(プロンプト生成スキル)」「bot活用(AIの能力をフル活用)」「身体的/精神的融合」(AIと一体となる)の3つを挙げた。保科氏が特に取り上げたのは「身体的/精神的融合」だ。「例えば、眼鏡と同様に自身の一部として捉える。そうした感覚が必要になる」(保科氏)

人間とのAIハイブリッド活動

 「相互学習」「継続的再設計」の2つを挙げた。相互学習は図4の3つ目に通じる話だ。継続的再設計はAIの進化に合わせて業務プロセスも再設計し続けることを指す。保科氏は「この3つ目も重要なポイントだ」と強調した。

 一方、「ジェネレーティブAIは、入力するデータの漏えいリスクや生成されたアウトプットが抱えるリスクを理解した上で活用する必要がある」と保科氏は警鐘を鳴らす。アウトプットが抱えるリスクとは、「信頼性」(虚偽、バイアス)、「倫理違反」(不適切表現)、「著作権/プライバシー侵害」だ(図6)。

図6 ジェネレーティブAIのリスクとは(出典:アクセンチュアの記者説明会資料)

 そうしたリスクへの対策を講じ、社内でChatGPTを活用しているアクセンチュアの事例を描いたのが、図7だ。左側が一般公開されているChatGPTを使うケース、右側がアクセンチュアの事例だ。同社は、入力するデータが漏えいしないように社内クラウドで「アクセンチュア版ChatGPT」を使用する。合わせて、アウトプットが抱えるリスクに対してはAIの公平性、透明性を担保する「責任あるAI」の再教育を施すことで軽減している。

図7 「アクセンチュア版ChatGPT」のリスク対策(出典:アクセンチュアの記者説明会資料)

 以上が、アクセンチュアによるジェネレーティブAIの説明のエッセンスだ。

 最後に筆者から1つ提案したい。ジェネレーティブAIを積極的に活用しようとしている大手企業では、アクセンチュア版ChatGPTと同様に自社でリスク対策を講じた上で運用を始めているが、中堅・中小企業が大手と同様の運用環境を構築するのは難しい。そこで、例えば健康保険組合のように、業界あるいは地域ごとに個別のクラウド環境やジェネレーティブAIの活用を支援、促進する仕組みを作ってはどうか。会見の質疑応答で提案してみたところ、保科氏は次のように答えた。

 「現時点で具体的な話が持ち上がっているわけではないが、業界ごとの推進グループが出現する可能性はある。健保組合のような仕組みも良いアイデアだと思う。私たちもそうした動きを積極的に支援していきたい」

 ジェネレーティブAIが今後、あらゆる仕事や生活に影響を及ぼすものになるのならば、それを運用する組織には「世の中を“健康”にしてほしい」という思いを込めた健保組合の提案でもある。保科氏にも肯定してもらえたので、訴求するつもりで書き記しておきたい。

著者紹介:ジャーナリスト 松岡 功

フリージャーナリストとして「ビジネス」「マネジメント」「IT/デジタル」の3分野をテーマに、複数のメディアで多様な見方を提供する記事を執筆している。電波新聞社、日刊工業新聞社などで記者およびITビジネス系月刊誌編集長を歴任後、フリーに。主な著書に『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。1957年8月生まれ、大阪府出身。

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