なぜ輸送業界の脱炭素は“ノロノロ運転”なのか 業界新団体の言い分は?Transport Dive

運輸部門の脱炭素化は他部門に比べてGHG排出量削減のスピードが遅く、各国政府にとって頭の痛い課題だ。一方で、運輸業界には政府が掲げる脱炭素目標は「非現実的」なものに見えているようだ。

» 2023年05月11日 08時00分 公開
[Colin CampbellTransport Dive]

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Transport Dive

 先進国ばかりでなく中国やインドのような「温室効果ガス(GHG)排出大国」も脱炭素を目標に掲げる今、各国で課題となっているのが運輸部門の脱炭素化だ。他部門に比べて進捗(しんちょく)が遅い運輸部門の排出量削減をいかに進めるか。

なぜ“ノロノロ運転”なの? 業界団体の主張は

 米バイデン政権は2023年1月、2050年までに運輸部門の温室効果ガス(GHG)排出量をゼロとする戦略「The U.S. National Blueprint for Transportation Decarbonization」(運輸の脱炭素化に関する米国の青写真)を発表した(注1)。米国で運輸部門は2016年以降、部門別GHG排出量の中で最も排出量が多くなっているばかりか、2021〜2022年は2年連続で排出量が増加している(注2)。

 こうした中、2023年3月23日にトラック運送業界の主要団体が「安価で信頼できる貨物運輸を保証し、国家のサプライチェーンを保護する」ゼロエミッション(注3)に向けて働きかけるために「クリーンフレイト連合」(CFC)を結成した(注4)。

 設立メンバーはATA(American Trucking Associations:米国トラック協会)や全米自動車販売店協会の1部門であるNADA(the National Automobile Dealers Association:米国自動車ディーラー協会)、NTTC(the National Tank Truck Carriers:全米タンクローリー運輸業者)、EMA(The Truck and Engine Manufacturers Association:トラックエンジン製造業者協会)、TCA(Truckload Carriers Association:トラックロードキャリア協会)だ。

 ATAの社長兼CEO(最高経営責任者)のクリス・スピア氏は「Transport Dive」のインタビューに対して、「われわれはよりクリーンな車両への移行を支持しているが、(政府が提示する)非現実的なスケジュールには異議を唱える。われわれはノーと言っているわけではなく、常識的な判断を下そうとしている。なぜなら、(政府がかかげる目標)全てに同意すれば、経済に貢献するわれわれの能力が損なわれるからだ。このナラティブ(物語)に対しては今すぐ声高に主張しなければならない」と語った。

電力供給網も充電設備もない EVトラック移行への「高い壁」

 これらの運輸業界団体は今回、FMCSA(Federal Motor Carrier Safety Administrator:連邦自動車運送事業安全管理者)元代行のジム・ミューレン氏を代表としてクリーンフレイト連合を設立した。同連合は、政策立案者に運送業界の排出量削減の進捗(しんちょく)状況を伝え、運輸業界の取り組みを促進することを目的としている。

 スピア氏は「運輸業界はカリフォルニア州大気資源局(The California Air Resources Board )やEPA(United States Environmental Protection Agency:環境保護庁)が打ち出したゼロエミッション達成に向けたスケジュールに対する懸念も伝える必要がある」と指摘する(注4)(注5)。バイデン政権は2022年秋、「新しく販売される中型車、大型車は2040年までに全てゼロエミッションに移行させる」という国際公約に参加している(注6)。

 ATAの研究機関であるATRI(The American Transportation Research Institut:米国交通研究所)は「現在道路を走っている長距離トラックを電動化するだけでも、全国の発電量の約10分の1が必要になる」と報告書で指摘した(注7)。「トラックに電力を供給するための電力供給網をわれわれは持っていない。たとえ電力が供給されたとしても、充電設備がない。つまり(政府が掲げる)スケジュールを達成するのに十分なインフラが整っていない。われわれには国が構想しているゼロエミッションを達成するために重要な(電力供給網やEV充電設備といった)“材料”を調達する方策がないからだ」(スピア氏)

 EMA会長のジェド・マンデル氏は声明で、以下のように主張した。「われわれは投資や革新、エンジニアリングによってトラック運送のOEMを活用することで、大気をよりクリーンにする努力は怠っていない。EMAの会員はZEV(ゼロエミッション車)の未来に向けて何十億ドルもの研究開発費を投じている。しかし、それだけでは十分ではない。連邦政府や州政府の指導者が『ZEVが全国を走行するために不可欠なインフラを構築する』と約束する必要がある」

 TCAのジム・ウォード氏はZEVの採用を成功させるための鍵について、「ドライバーの生産性を向上させ、消費者のサプライチェーンに対する信頼性を確保するために、(ZEV移行までの)スケジュールを現実的なものとし、(目標達成に必要な)複数の解決策を確立することにある」と声明で述べた。「そのためには、試験プロセスの全段階に運送業者が参加し、現場における運用上の課題を明らかにする必要がある。業界全体で、EVトラックへの移行に協力する準備はできている」(ウォード氏)

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