紙の伝票に「手数料加算」 航空輸送業界がデジタル化に“荒療治”Supply Chain Dive

デジタル化が遅れる航空貨物輸送業界。貨物運送状のデジタル化を進めるため、紙の伝票に対して手数料を加算する会社が登場した。約半数の顧客が未だに紙の伝票を利用している中、この“荒療治”は効果を上げるだろうか。

» 2023年05月22日 15時00分 公開
[Kelly StrohSupply Chain Dive]

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Supply Chain Dive

 航空貨物輸送会社が、電子航空貨物運送状(electronic air waybills、以下eAWB)の利用を顧客に促している。専門家によると、eAWBは業務フローを改善させ、貨物の可視性を向上させ、エラーを排除する鍵になるという。

手数料加算という“荒療治”

 IAG Cargoは業務や手続きのデジタル化に取り組む中で、2023年初め、紙の航空貨物運送状(AWB)を使用する場合に手数料を導入した。

 IAG Cargoのデービッド・ローズCXO(最高変革責任者)は「eAWBが利用できるようになったのは10年以上前だ。しかし、航空貨物業界全体で輸送書類のデジタル化が遅れている」と「Supply Chain Dive」に語った。「航空貨物は歴史的に、運送業者と航空会社との間の運送契約において紙媒体での取引が慣例化している。おそらく私たちの顧客もそれが常態化しているのだろう」(ローズ氏)

 IAG Cargoは、2023年中に全ての顧客がeAWBを採用することを望んでいる。現在、eAWBを利用している顧客は全体の半分以下だという。「この現状を変えたい」(ローズ氏)

ミスを少なくして環境に優しい「デジタル伝票」

 国際航空運送協会(International Air Transport Association:IATA)のヘンク・マルダー氏(デジタルカーゴ部門責任者)は、「eAWBは書類処理の簡素化に加え、貨物データの再処理に伴って人的ミスが起きる可能性を減らせる」と述べる。「手作業は基本的に手間がかかり、ミスが発生しやすい点が問題だ。一方、最初から最後まで電子データで、全てがしっかりと運用されていれば、エラーの発生率が下がる。処理時間も少なく、データそのものも速く動かせる」(マルダー氏)

 同氏によると、現在85%の貨物が請求書が認められているeAWBを添付している。同社は常にeAWBの利用率100%を目標としている。業務効率を最適化し、持続可能な開発目標を達成するためにプロセスのデジタル化を目指す企業が増えているにもかかわらず、eAWBの普及は鈍化している。

 eAWBは紙の伝票を利用する取り引きに代わる、よりサステナブルな代替手段でもある。IAG Cargoのローズ氏によると、航空貨物業界では年間7800トン以上の紙の書類が処理されている。これはボーイング747の80機分の積載量に相当するという。

目指すはエンドツーエンドのデジタル物流、輸送サプライチェーン

 マルダー氏は「eAWBの採用時期は遅かった」と言う。技術的な面でも、モチベーション的な面でも難しいことはなかった。しかし、その変化に対応することは、企業にとって非常に困難だったようだ。紙から電子的なプロセスへの変更は、当初考えていたよりもはるかに困難な作業であることが判明した」(マルダー氏)

 ドイツの貨物航空会社であるLufthansa Cargoのジャン・ウィルヘルム・ブライサウプト氏(グローバルフルフィルメントマネジメント バイスプレジデント)も、「業界でeAWBの導入が遅れた理由として、デジタル化への信頼性の欠如や手続き上の不備などが考えられる」と述べる。「Lufthansa Cargoは長年にわたってデジタルイニシアチブを推進しており、2000年代前半にeAWBの利用を促す試みを何度か行った後、2013年にeAWB単一利用というコンセプトを実施した。同社の顧客のほとんどは既にAWBを利用し、eAWBでデータを管理している。インセンティブやイニシアチブに関係なく、2019年にeAWBを標準的な運送形態として宣言した。しかし、紙のAWBは依然として有効だ」(ブライサウプト氏)

 ブライサウプト氏は、「電子化の進展は航空貨物プロセス全体を効率化するチャンスだ」と話す。同氏はeAWBを「航空貨物に付随するその他の紙文書に対するドアオープナー(鍵)」と呼ぶ。

 多くの企業によるデータの取り扱い方が時代遅れのものから新しいデジタルモデルに移行し、3分の2の貨物でeAWBが使用されるようになったため、IATAは次の段階に焦点を合わせている。それが「IATA ONE Record」だ。

 IATAのWebサイトによると(注1)、データ共有の新しい基準である「ONE Record」は、標準化された安全なWeb APIを使用して、貨物の単一の記録ビューを作成できる。目標は、航空貨物の関係者やコミュニティ、その他のデータプラットフォーム間でデータを交換できる「エンドツーエンドのデジタル物流、輸送サプライチェーン」だ。

 マルダー氏は「このプログラムは数年前にスタートした。現時点で、企業が導入できるほどしっかりした規格になっている」と話す。しかし、IATAのONE Recordは、多くのステークホルダーが関わる複雑な規格だ。「そのため、IATAは政府や航空会社、地域、その他の業界関係者と連携していく」(マルダー氏)

 続けて、IATAは2026年1月までにこの規格を導入する方針だと明らかにした上で、同氏は次のように話した。「私の予想では、今後数年間で多くの企業が、デジタル取引とデジタルビジネスにおける能力を本格的に高めることになると考える。AI(人工知能)がそれを実現する。さもなければ、時代に取り残されてしまうだろう」

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