OktaのCEO兼共同創業者であるトッド・マッキノン氏が初来日し、事業説明会を開催した。日本市場の可能性とそこにかける思い、製品アップデートが語られた。
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クラウド利用が進みシステム環境が複雑化する中で、いかに安全にアイデンティティーを管理するかに注目が集まっている。これに向けたIDaaS(Identity as a Service)製品市場が盛り上がる中で、ビジネスを拡大するベンダーの1社がOktaだ。
2023年5月24日、OktaのCEO兼共同創業者であるトッド・マッキノン氏が来日し、Okta Japanの代表取締役社長である渡邉 崇氏と共に事業説明会を開催。日本市場での成長と製品アップデートを発表した。
マッキノン氏はOktaを創業した当初「企業のクラウドアプリケーションの採用と活用を支援する」というビジョンを描いていた。
「クラウドの未来に夢中になっていました。それが将来的に非常に重要な役割を果たすことになるだろうと予想していました。後に、この大きな賭けが正しかったことが証明されました。今ではほとんどのITがクラウドベースになっているか、その方向に進んでいます。また、クラウドだけではなくデジタルトランスフォーメーション(DX)やセキュリティへの取り組みも、ここ数年の間に推進されています。これらはOktaが市場で先行する上での追い風となっています。なぜならこれら3つのトレンドの中心には必ずアイデンティティーがあるからです。アイデンティティーは地球上の全ての組織、そして全ての人にとって極めて重要なものです。これは企業がより少ない人手でより多くのことをできるようにする上で役に立っています」(マッキノン氏)
実際、同社がターゲットとしている市場は非常に大きい。下図を見てみよう。
Oktaの試算によると、一番左側の青い棒グラフの下部分は、企業や組織が従業員や取引先に対して実施するアイデンティティー管理で35ビリオンドルの市場がある。そして、その上にあるのはIGA(Identity Governance and Administration)、つまりアイデンティティガバナンス管理関連の市場でこれが15ビリオンドル、合わせて50ビリオンドルとなる。次にその右側の緑色の棒グラフは企業の顧客向けのアイデンティティー管理の領域で30ビリオンドルの市場だ。全て合計すると80ビリオンドル、日本円で約10兆円になるという。
日本市場においても、アイデンティティー管理は注目度が高い領域だ。その背景にはコロナ禍以降、IT環境が複雑化する中、ゼロトラストセキュリティを実現する必要に迫られたIT部門の決断がある。
「どのくらい複雑な環境をITチームのセキュリティ担当者が管理しているかを想像してください。彼らは2人ほどのチームで非常に多くのテクノロジーを管理する必要があります。会社が成長すれば、管理しなくてはならないセキュリティやデバイスがますます増え、複雑さも増大します。システム環境をどうモニタリングし、コントロールするか。従業員が自前のデバイスを持ちこんだらどうするか。従業員がリモートで作業する場合はどうするか――。担当者はさまざまなリスクに配慮する必要があるでしょう。さらにはこれに、ビジネスパートナーやサプライチェーンパートナーとのやりとりも加わります。企業の中で「人」は一貫したコントロールポイントとして存在しており、アイデンティティーは、この「人」がアクセスをしようとしているリソースを管理します。だからこそ、アイデンティティーが人とリソースの複雑な関係を管理する上で極めて重要な存在なのです」(マッキノン氏)
Oktaは、従業員や契約企業向けのアイデンティティー管理サービスとして「Okta Workforce Identity Cloud」を顧客向けのアイデンティティー管理サービスとして「Okta Customer Identity Cloud」を提供している。マッキノン氏によると、日本においては、Okta Customer Identity Cloudを使ってセキュアなシステム環境を構築している企業が前年(2021年)比で100%増加したという。また、Okta Workforce Identity Cloudを使用した月間認証数は、2023年3月現在で1億6000万件を超え、2020年に日本にオフィスを開設してから現在までに日本の顧客数が6倍以上に増えている。
続いて渡邉氏が製品アップデートについて報告した。1つ目は、ビジネスプロセス自動化ツール「Okta Workflows」とクラウド人事労務ソフト「SmartHR」のコネクター連携が実現したことだ。
渡邉氏は、SmartHRとOkta Workflowsによるコネクター連携について「HR領域のアプリケーションとしては初の事例だ」と話す。
SmartHRは、Oktaが提供する7500以上の事前連携アプリテンプレート群「Okta Integration Network」とのSAML連携、SCIM(System for Cross-domain Identity Management)連携にいち早く対応していたが、それらの連携だけでは同期できる人事情報に限りがあった。
「今回のコネクター連携によって、よりきめ細かなデータの同期と管理が実現します。労働力不足や生産性向上が大きな課題となる日本社会で、アカウント管理の自動化の取り組みは今後さらに重要になっていくと考えています」(渡邉氏)
2つ目は管理コンソールの日本語化だ。Oktaはこれまでも、エンドユーザーに対して日本語によるユーザーインタフェース(UI)を提供してきた。今回その範囲が拡大し、管理コンソールも対象となる。これによって、IT管理者やセキュリティ担当者は、Oktaのテナントと組織内のアイデンティティー全てを日本語で管理できるようになる。
「管理コンソールの日本語対応は日本企業がグローバル規模で自社の顧客に対応していく上で非常に重要なステップになると当社は捉えている。提供は2023年7月頃を予定している」(渡邉氏)
管理コンソールだけでなく、インフラ部分においてもOktaは日本へのビジネス投資を継続している。まずサービス提供のためのインフラを日本国内に設けた。これによって、顧客企業はデータを日本で保存することが可能になる。その他、Oktaの導入やインスタンス管理の専門家を認定する制度についても「Okta Certified Professional」と「Okta Certified Administrator」において、日本語でのコンテンツ提供を開始した。
サポートやカスタマーサクセス、プロフェッショナルサービスなども国内で提供しており、顧客企業やパートナー企業がOktaを活用する支援を進めている。
パートナー企業とのコラボレーションも重視しており、ディストリビューターやリセラー、システムインテグレーター、ITコンサルファーム、テクノロジーパートナーなどを幅広く募っている。
「Okta Japanはパートナーエコシステムを非常に速いスピードで構築しています。私が入った2020年4月の段階でパートナー企業はわずか3社でしたが、2023年4月の時点で64社まで増えています。当初は顧客を訪れても『事前連携しているアプリケーションは外資ばかりだ』との声をいただきましたが、この2年半積極的に強化を図り、SmartHRをはじめとした国内のアプリケーションベンダーも多く参加するようになっています」(渡邉氏)
マッキノン氏は最後に「アイデンティティーはビジネスのアクセラレーターとなる戦略的な要素だと当社は考えています。今後も当社独自のアプローチでアイデンティティー管理を日本に提供し、日本でのオペレーションを拡大できることを楽しみにしています」と語った。
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