AI導入の評価指標はROIではない 先行企業は何をどう評価しているかCIO Dive

話題を集める生成AIだが、興味本位で利用するだけでは意味がない。企業においては、新技術の導入による時間と生産性の向上を測定することが極めて重要だ。

» 2023年08月07日 07時00分 公開
[Lindsey WilkinsonCIO Dive]

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 生成AI(人工知能)がもたらす最も魅力的な展望は、その導入によって企業ひいては経済全体で金銭的利益につながるということだ。

 GitHubが2023年6月27日(現地時間)に発表した調査結果によると、AIを活用した開発者向けツールやサービスによる生産性の向上は、2030年までに世界のGDPを1兆5000億ドル以上増加させる可能性があるという(注1)。

 GitHubはオープンソースソフトウェア(OSS)のコードプラットフォームプロバイダーであり、「GitHub Copilot」のようなAIベースのソリューションも提供している。同社は、約93万5000人のユーザーサンプルと、AI関連の生産性向上についての個々の経験を分析することで、潜在的なGDP増加額を算出した。

 生成AI(の技術)は初期段階にあるため、収益や、ひいては経済への影響を正確に予測することが困難だ。テック部門のリーダーたちは、全社的な期待に応える努力をしながら、現在分かっていることを頼りに、この新たな技術を試している。

企業は「生成AIのROIを測定する」という課題に直面中

 ITネットワーク関連のソリューションプロバイダーであるJuniper NetworksのCIO(最高情報責任者)であるシャロン・マンデル氏は、そのキャリアの中で一貫してAI技術に取り組んできた。同氏はいつも、技術的な支出をより有効に活用する方法として、AIを捉えている。

 「コストの転用に役立つツールを見つけられれば、ある場所にあった資金を新たな支出に回すことが可能になる。これは多くのCIOに関係のあることだろう。私たちの仕事では、今日実施している全てのことを昨日よりも少ない費用で実行するにはどうすればいいかを非常に重要視している」(マンデル氏)

 マンデル氏は「どのようなプロジェクトであるかにかかわらず、特にCFO(最高財務責任者)が同席する場合、ROI(投資収益率)は成功を測定するために使用される要因や指標になることが多い」と述べた。生成AIの導入において難しいのは、時間と生産性の価値をROI測定に変えることである。

 全体像を把握するためには生産性を測定し、より機敏に製品の市場投入スピードを促進させることに焦点を当てる必要があり、「それが最終的には収益に変わる」とマンデル氏は言う。

 マクロ経済指標がいまだ混迷する中、ハイテクを効率化につなげるという発想は経営陣や役員にとって魅力的だ。

 JPMorgan Chaseのコンシューマー&コミュニティバンキング担当共同CEO(最高経営責任者)であるジェニファー・ピープザック氏は、2023年6月初めのカンファレンスで、これを「一進一退の勝負」と呼んだ(注2)。

 「われわれはAIを含むML(機械学習)のようなツールを活用することで、毎日少しずつ良くなっていくだろう」と同氏は会見で語った。

 2022年10月のForresterのデータによると、企業が「Explainable AI」(説明可能なAI)から(プラスの)ROIを得られるようになるのは2〜4年先のことだ(注3)。しかしITプロフェッショナルの3人に2人は「2023年新たなテクノロジーへの支出を増やす予定だ」と回答している。

 ソフトウェア開発の分野では、AIを活用したペアプログラミングが生産性を促進させる重要な手段として注目されている(注4)。しかし企業はIT以外の分野でもAIの導入に注目している。

 Info-Tech Research GroupのAIおよびデータ分析担当プリンシパル・リサーチ・ディレクターのビル・ウォン氏は「多くの人々が、よりカスタマイズされた提案書を作成し、より優れたパーソナライズを実現したユーザー体験を創造するために、営業やマーケティング、カスタマーエクスペリエンスの分野に注目している」と述べた。

 「企業が生成AIのプロジェクトの成功を測るために使っている指標は、ROIだけではない。PoC(概念実証)の指標には、スケーラビリティや使いやすさ、応答の質、応答の正確さ、説明可能性、さらには総所有コストも含まれる」(ウォン氏)

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