「ChatGPT」は両刃の剣か? AIがコモディティ化する世界での「戦い方」「AIが卵より安くなる時代」に向けて

今回から新連載「『AIが卵より安くなる時代』に向けて」をお届けします。AIがコモディティ化する時代が間近に迫る中、われわれビジネスパーソンはどのようなスキルを身に付け、どのように生きるべきでしょうか。筆者と一緒に考えてみませんか。

» 2023年07月26日 08時00分 公開
[永田豊志ITmedia]

 ITmedia エンタープライズの読者の皆さん、こんにちは。

 これまで「データ活用の思考術」を月1回お届けしてきた永田豊志です。今回からは「『AIが卵より安くなる時代』に向けて」に連載タイトルを変更して、AI(人工知能)が当たり前に使われるようになる時代にわれわれ人間に何が求められるのかを考えていきます。

 特に、AIのスキルを身に付けることが企業の経営や業務の現場にどのような価値をもたらすのか、将来を見据えつつ、読者の皆さんと一緒に探りたいと思います。

ChatGPTの利用者が多い職業は?

 まず、野村総合研究所(以下、NRI)が2023年4月に実施した対話型生成AI「ChatGPT」の職業別利用率が面白いのでご紹介します。

 ダントツに多いのが大学生、大学院生などの学習者セグメントで、ついで教職員が多く利用しています。いずれも教育セクターのステークホルダーで、5人に1人は利用していることになります。

職業別に見たChatGPT利用率(出典:NRI「インサイトシグナル調査」) 職業別に見たChatGPT利用率(出典:NRI「インサイトシグナル調査」)

 2023年春に海外のインターナショナルスクールを幾つか回ったときに、学校の教職員やマネジャーから「ChatGPTやAIについてどう思う」と何度も質問されました。そのときは、カリキュラムや問題を作成したり、そのアウトプットを評価したり、採点する業務がAIによってリプレースされることを危惧しているのかなと思いましたが、この利用率を見てもう一つ理由があることに気付いたのです。

 学生に対してChatGPTを活用して学習サービスを提供するのとは別に、学生自身がChatGPTを使って論文や宿題を済ませてきた場合に、それを「良い」とするのかどうか。もし「良い」としないのであれば、どうやって教職員はAIが生成した文章であることを見抜くことができるのか。ChatGPTを使ったことを理由にアウトプットへの評価をゼロにするのか、それとも何か論理立てて評価の仕組みを作るのか――。こうした頭の痛い問題があるのではないでしょうか。

 生成AIによって作られたものかどうかをAI自身に判定させるという試みもあるようですが、実際に人間が作成した文書を「AIが作成した」と誤判定することもあるようで当てにできません。

 また、AIは正解率が上がってきているとはいえ、たまにとんでもない誤情報を平気でアウトプットしてきます。学生側にとっても、大事な論文や自分の成績に関わる提出物を作成する際には、本当にそれが正しい内容なのかどうか、情報源を調査したり単なる記事の引用やコピーになっていないかどうかを確認しなければならないでしょう。必ずしも、AI利用において「アウトプット作成は完全にお任せ」にはならないと思います。

文書作成にもはや不可欠な道具

 とはいえ、文書作成や画像生成の時短にはAIは欠かせないものとなってきています。かく言う筆者も、この連載において、トピックの骨組みを作るのにAIを活用しています。

 かつて原稿は以下のような手順で書いていました。

(1)テーマを決める

 テーマの判断基準は時流に沿っていること、自分自身が語れる具体例があること

(2)スタンスを決める

 テーマに対して自分の考え方や方向性を明確にする

(3)章立てを決める

 テーマとスタンスが決まったら、項目出しをする

(4)文章を書く

 項目に合わせて文章を書いていきます

(5)読者の立場で修正

 一般読者の立場で読み返し、構造や表現が分かりにくい部分を修正したり、冗長な部分を削ったりしてシンプルにします

 AIを活用するようになり、(3)(4)のかなり部分を省力化できるようになったと思います。生成AIにプロンプトを入れる際は、テーマや字数はもちろんのこと、ターゲットとして想定している読者の職種や役職レベル、専門知識のレベルなどもAIに伝えることが大事です。

 AIを活用することで自分では気付かなかった項目を発見することも多く、網羅性を高めるにはうってつけだと思います。これまで1本の原稿に3時間ぐらいかけていたのが、AIを入れることで約30分〜1時間に短縮できています。

著作権の議論はナンセンス

 生成AIのアウトプットに関する議論を複雑にしているのが、著作権上の問題です。

 文化庁は「AIが自律的に生成したものは、『思想又は感情を創作的に表現したもの』ではなく、著作物に該当しない」としています。一方で、「人が思想感情を創作的に表現するための『道具』としてAIを使用したものと認められれば、著作物に該当」するとしています。

 果たして、利用者が創作的意欲や訴えたいメッセージがないのに、AIが自律的に文章を作るなんてことがあるのでしょうか。筆者はありえないと思うのです。

 どのようなAI生成アウトプットであっても、人がテーマを決め、スタンスを決め、プロンプトで導いてこそのアウトプットです。その成果については、他人のコピーになっていないか、公序良俗に反していないかということに責任を持つのもまた人です。つまり、人が目的を決め、その責任を担うものに対して「著作権や財産権が認められない」のはナンセンスだと思うのです。

 冒頭で紹介したChatGPTの利用率を示すグラフに話を戻しましょう。この調査によると、会社員や公務員、派遣社員の利用率はまだまだ低いのが現状です。教育者以上にAIにリプレースされる可能性が高いとされる職種の方は、もっともっとAIを試すべきです。

 「彼を知り己を知れば百戦殆(あやう)からず」(『孫子』)

 AIの良いところと不十分なところを十分に知り、自分のスキルややりたいことと重ねて考えることによって、AIがコモディティとなった時代に生きる道が見えてくるのだと思います。

著者紹介 永田豊志(ながた・とよし)

知的生産研究家、起業家、上場企業の経営者。現在、DX支援クラウドを提供する株式会社ショーケース(東証3909)とリユースモバイル事業を運営する日本テレホン株式会社(東証9425)、2社の上場企業の経営者。

企業経営と並行し、新規ビジネス開発、働く人の生産性向上をライフワークとした執筆、講演活動などを行う。

自著に『知的生産力が劇的に高まる最強フレームワーク100』(ソフトバンククリエイティブ刊)、『頭がよくなる「図解思考」の技術』(中経出版刊)、『会社では教えてもらえない仕事がデキる人の資料作成のキホン』(すばる舎刊)がある。

著書一覧:https://www.amazon.co.jp/s?k=%E6%B0%B8%E7%94%B0%E8%B1%8A%E5%BF%97

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