KDDIの通信キャリアならではの「DXエコシステム」とは――キーワードは「ダイバージェンス」Weekly Memo(2/2 ページ)

» 2023年08月07日 15時40分 公開
[松岡功ITmedia]
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KDDI Digital Divergenceグループの顔ぶれは

 興味深いのは、KDDI Digital Divergenceグループの顔ぶれだ。いずれもこれまでにKDDI Digital Divergence Holdingsの子会社に転身した形だが、藤井氏によると「お客さまのDXを支援する際に必要なテクノロジーやケイパビリティをエキスパートとして持つ企業を、グループ会社として迎えている」とのこと。DX支援に向けたグループ会社による専門集団のエコシステムを構築しようという意図のようだ。

 現在、KDDI Digital Divergenceグループに名を連ねているのは、クラウドインテグレーションやマネージドサービスを提供する「アイレット」(iret)、アジャイル開発事業を行う「KDDIアジャイル開発センター」(KDDI Agile Development Center)、クラウドホスティングやWebサービスを提供する「KDDIウェブコミュニケーションズ」(KDDI Web Communications)、スクラムを活用したDX支援を行う「Scrum Inc. Japan」、データとAIを活用したソリューションを提供する「フライウィール」(FLYWHEEL)、そしてKDDI Digital Divergence Holdingsを加えた6社だ(図2)。

図2 KDDI Digital Divergenceグループの顔ぶれ(出典:KDDI Digital Divergence Holdingsの提供資料)

 藤井氏の説明を基に子会社5社の特徴を一言ずつ述べると、アイレットは「マルチクラウドを取り扱う国内トップレベルのクラウドインテグレーター」、KDDIアジャイル開発センターは「KDDIのサービス開発から生まれた10年のアジャイル開発実績」、KDDIウェブコミュニケーションズは「Webを通じて中小企業のDXを支援」、Scrum Inc. Japanは「スクラムのコーチングで9000を超えるお客さまを支援」、フライウィールは「経営課題をデータの力で解決するデータエンジニアリングの専門集団」といったところだ。

 こうした子会社の中間持ち株会社となるKDDI Digital Divergence Holdingsの役割については「お客さまのDXを支援するため、グループ各社との効果的な連携を実現させるとともに、多様な外部企業との事業連携を進め、社会課題の解決やビジネスの変革を進展させるためにつくった」(藤井氏)と説明した。

 上記の説明からもDX支援に向けたグループ会社による専門集団のエコシステムを構築しようとの意図がうかがえるが、現時点で企業のDXを支援する際に必要なテクノロジーやケイパビリティは充足しているのか。図3は、DX支援に必要なテクノロジーやケイパビリティと、グループ会社のカバー領域を重ね合わせてプロットしたものだ。コンサルティングやPM(プロジェクトマネジメント)、ロボティクス、IoT(モノのインターネット)をカバーするグループ会社は存在しない。

図3 KDDI Digital Divergenceグループの強化に向けて(出典:KDDI Digital Divergence Holdingsの提供資料)

 カバーされていないこれらの領域は、KDDIの本体やグループ会社にエキスパートがいるので顧客からの要望に応えられないわけではないとしているが、藤井氏としては「KDDI Digital Divergenceグループとして現在カバーできていない領域についても積極的に仲間を増やしていきたい」考えだ。

 最後に、筆者が特に印象に残った言葉を挙げると、それはKDDI Digital Divergence HoldingsにもKDDI Digital Divergenceグループにも使われている「ダイバージェンス」だ。藤井氏は「ダイバージェンスという言葉に込めたのは、KDDIが子会社にして取り込むのではなく、素晴らしいパワーを持つ会社にはそのパワーをもっとダイバージェンスさせていってほしいと考えたからだ」と意図を説明した。

 ダイバージェンスには「発散」という意味がある。発散と言うと「ストレス発散」が思い浮かぶが、「一点から出た光が広がって進むこと」を指す。DX支援事業は範囲が広いだけにエコシステムがカギを握ると言われる。ただ、エコシステムが機能するかどうかはエコシステムの在りようで決まる。ダイバージェンスはその一つの解ではないか。今回の取材でそう感じた。

著者紹介:ジャーナリスト 松岡 功

フリージャーナリストとして「ビジネス」「マネジメント」「IT/デジタル」の3分野をテーマに、複数のメディアで多様な見方を提供する記事を執筆している。電波新聞社、日刊工業新聞社などで記者およびITビジネス系月刊誌編集長を歴任後、フリーに。主な著書に『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。1957年8月生まれ、大阪府出身。

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