「日本発のソフトウェアを世界へ」 ジョーシスが世界40カ国で事業開始

「ハイブリッドワークが常態化する中、ITガバナンスは崩壊の危機にある」――。こう警告するジョーシスがエンタープライズ事業の強化と世界40カ国での事業展開に乗り出した。ITデバイスとSaaSの統合管理ツールという「激戦」市場の中で同社は自社サービスの勝機をどこに見いだしているのか。

» 2023年09月07日 20時00分 公開
[田中広美ITmedia]

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 情報システム部門におけるITデバイスやSaaS(Software as a Service)管理などのノンコア業務を効率化するプラットフォームを運営するジョーシスは2023年9月6日、エンタープライズ事業の強化と、米国など40カ国での事業展開を発表した。

「世界標準のソフトウェアをしっかりと作っていく」

 ジョーシスの松本恭攝社長は同日開催された記者説明会で「コロナ禍を機に、企業のITガバナンスは崩壊の危機にひんしている。ITデバイスとSaaSの統合管理クラウドサービス『ジョーシス』を提供することで、世界で活躍する企業を支えたい」と抱負を語った。

ジョーシスの松本恭攝社長 ジョーシスの松本恭攝社長

 ジョーシスはこれまで従業員数300人以下の中堅・中小企業を主な顧客としてジョーシスの他、ノートPCやモバイル機器の購入から設定、出荷、修理、保管までを網羅するITアウトソーシングサービスを提供してきた。

 同社が今回、エンタープライズ事業を強化し、海外に事業を展開する背景には、コロナ禍によるITオペレーションの変化がある。ハイブリッドワークが定着しつつある中でITデバイスの管理の在り方は変化し、SaaSの利用が増大している。これに伴って企業のITガバナンスに関する課題は深刻化しており、ジョーシスが提供するサービスへの需要はさらに拡大すると同社はみている。

 ジョーシスによると、ITガバナンスに関する課題を抱えているのは、中堅・中小企業だけでなく大企業も同様だ。同社が日本企業の情報システム部門で働く1021人を対象に実施した調査(調査期間:2023年7月12〜14日)によると、中堅・中小企業だけでなく大企業にもITデバイスやSaaS管理における課題が存在している。ITデバイスの管理台数が1000台を超える企業の約3分の1は自社で「Microsoft Excel」を利用して管理しているか、あるいは特に管理していない。

ITデバイス管理に関する調査(出典:ジョーシスの記者会見資料)

 また、同調査によると、10種類以上のSaaSを利用している企業の過半数で情報システム部による一元管理が実施されていない。

 松本氏は「以前はIT部門がITデバイスやオンプレミスベースのシステムをしっかりと管理していた企業も、コロナ禍によってITガバナンスの在り方が変わってしまいました。SaaSを導入したことで在宅勤務でも業務を継続できるようになった半面、業務部門など情シス以外の部門が管理するようになり、管理者が分散しました」と指摘し、「ITガバナンスの崩壊」で発生した事象として次の4つを挙げた。

  1. 管理の抜け漏れ
  2. 管理主体の分散
  3. 費用の垂れ流し
  4. 在庫管理の質の悪化

 3の費用面について、特に大企業では多額に上る。ある製造業の会社はSaaSに100億円かかっていたが、契約を整理することでコストを約30%削減したという。

「唯一の真実」を取り戻せ

 エンタープライズ事業強化に当たってジョーシスが強調するのが「唯一の真実」という理念だ。「ITガバナンスを一元化するためにはIT資産のマスターデータベース、つまり業界用語でいう『唯一の真実』を取り戻すことが重要です」(松本氏)

 具体的には、複数の子会社や複数のグループ会社のITデバイスやSaaSを親会社の情報システム部門が一元管理できるシステムを構築する。これによってセキュリティ対策の向上やBCP(事業継続計画)にも資するとしている。

ジョーシスの今後の事業領域(出典:ジョーシスの記者会見資料) ジョーシスの今後の事業領域(出典:ジョーシスの記者会見資料)

目指すのは「米国で勝つ」ことではなく、多国籍企業での優位性

 ジョーシスは2023年9月6日から北米・中米(米国、カナダ、メキシコ)、APAC(シンガポール、オーストラリア、インド、韓国、東南アジア諸国)で事業を開始する。

40カ国への進出(出典:ジョーシスの記者会見資料) 40カ国への進出(出典:ジョーシスの記者会見資料)

 40カ国への展開について、松本氏は「目指すのは『米国で勝つ』ことではなく、多国籍企業での優位性をつくることです」と語った。「システム開発は●●国、顧客サポートは▲▲国というように分散している企業は多くあります。グローバルにチームを構築している企業が一元管理するためのサービスには需要があると考えています」

 また、在籍企業の拠点がある国とは別の国で勤務する従業員も増えていることを念頭に、ITアウトソーシングサービスも展開するもくろみだ。「どこでも働けるようになった今、従業員がどの国にいても対応できるITデバイスサポートが必要です」(松本氏)

「ジョーシス」の強みはどこにある?

 松本氏はジョーシスが「日本生まれ」であることを強調する。「ITは米国がつくるものというイメージが強くある中で、日本企業がつくったものを携えて世界に打って出たいと考えています」

 また、日本生まれであることと同時に強調するのが「世界標準であること」だ。プロダクト開発は米国のシリコンバレーで、システム開発はインドで実施する。「世界で使われるテクノロジーをしっかりと作っていきたいと考えています」(松本氏) 

 しかし、ITデバイスやSaaSの統合管理ツールには競合製品も多い。ジョーシスは自社製品のセールスポイントをどう考えているのか。

 松本氏は「ジョーシスの特徴は従業員起点の台帳統合にあります」と述べた後、「大企業のお客さまは『もの』を買うわけではありません。何かを購入するときには必ず解決したい課題がある。当社はその課題をしっかりと理解して信頼を得て、最終的に選ばれる企業になるというアプローチをとります」と話し、同社が手掛けるのは統合管理ツールのジョーシスを販売するのにとどまらず、「顧客のデジタル変革」の後押しだと語った。

 この松本氏の発言を裏付けるのが、ジョーシスが今後運営を開始するメンバーシップスクール「ジョーシスアカデミー」だ。DXの成功企業のリーダーを招いて、これからDXを推進したい大企業・中堅企業の参加者にノウハウや経験を伝えることで次世代リーダーの育成を目指す。

 これまでもジョーシスは情報システム担当者を対象とした情報交換会「ジョーシスラーニング」を運営してきた。松本氏は「個人として気軽に参加するジョーシスラーニングに比べて、ジョーシスアカデミーは『気合が入った』場を想定しています。企業の代表として参加してもらい、MBAのような本格的な育成の場にしたい」と抱負を語った。 

 なお、ジョーシスは今回、シリーズBラウンドで135億円の資金調達を完了した。これまでも同社に資金を提供してきたグローバル・ブレインに加えて、グロービス・キャピタル・パートナーズをリードインベスターとして全18社が引受先となった。

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