生成AIが最も役立つ「3つの業務」とは? 金融機関のテスト結果から考察CIO Dive

ChatGPTの登場以来、生成AIをいかに業務に利用するかの試行錯誤が続いている。ある金融機関が、生成AIが組み込まれたさまざまなサービスを業務に投入することの価値とリスクを評価した。その結果、「最も有望」とされた3つの業務とは?

» 2023年10月24日 18時00分 公開
[Matt AshareCIO Dive]

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CIO Dive

 2022年秋にOpenAIが対話型の生成AI(人工知能)「Chat GPT」の発表以来、生成AIを組み込んだサービスが次々に市場に投入されている。生成AIを適用することで今すぐに効果が出る「生成AI向き」の業務とは何か? 

生成AIが最も役立つ「3つの業務」 

 ある金融機関が、市場に実際に投入されている生成AIが組み込まれたサービスをテストすることで、生成AIを投入する価値の高い「3つの業務」を浮かび上がらせた。

 ChatGPTの発表当時、保険サービスや資産運用を手掛けるPrincipal Financial Groupのキャシー・ケイ氏(エグゼクティブバイスプレジデント兼CIO《最高情報責任者》)と彼女が率いるチームは慎重だった。多くのテック企業がそうであるように、同社はML(機械学習)を含むAIやさまざまな自動化技術の歴史について豊富な知見を有していた。

 「組織のインフラはすでに整っていた」と、ケイ氏は2023年9月13日(現地時間)に開催されたCIO Dive Liveの主催イベントで語った(注1)。

 「私たちはかなり以前からMLを含むAIなど、より伝統的なモデルを活用してきた。モデルの構築やサポートを実施するメンバーや、データの解析を支援するデータエンジニア、モデルを作成して本番環境への導入を支援するMLエンジニアから構成されるチームがある」(ケイ氏)

 ITリーダーは新たなテクノロジーに迅速に対応するように求められるが、注意と配慮も必要だ。生成AIツールの急速な普及によって、企業のユースケースを模索する人材の動員には強いプレッシャーがかかっている。

 クラウドは、Principal Financial Groupのような企業にテストと調整を実施するための既成のモデルを提供し、こうした作業を容易にした。

 「われわれはまず自社のクラウドプロバイダーから始めた。率直に言うと、われわれのデータのすぐ近くに存在したため利用可能だったのだ。今試しているユースケースは、既に利用可能なモデルを活用している」(ケイ氏)

既成のソリューションを利用してテストを実施

 顧客が既に導入されているアプリケーションやシステムを最適化することに集中した1年後、クラウド事業者の収益の成長は回復した。クラウド事業者は新たな利用方法に拍車をかける機会として生成AIに飛び付いた。

 MicrosoftはChatGPT発表直後にChatGPTを自社のSaaS製品全体に導入した。2023年7月にはAIを組み込んだ電子健康記録ソリューションなど、新しいツールを展開している(注2)。

 Amazon Web Services(AWS)とGoogle Cloudは独自のLLM(大規模言語モデル)を展開し、他の生成AIソリューションを提供する企業と提携しながら企業向けに複数のモデルの市場を確立した(注3)。

 加えて他のクラウド事業者も素早い対応を実施した。

 IBMは「watsonx」のプラットフォームを通じてマネージドサービスとしての生成AIを立ち上げた(注4)。2023年8月には55以上のプログラミング言語に対応したAI対応コーディングアシスタントを発表した(注5)。クラウドでデータプラットフォームを提供するSnowflakeは2023年6月、データクラウドソリューションを通じて法的文書を取り込むことができるLLMを発表した(注6)。Salesforceは2023年9月初め、コーディングアシスタント「Einstein Copilot」を含むAI推進の一環として、CRMプラットフォームのブランドを一新した(注7)。

 クラウドAPIを介することでアクセスできる既製のソリューションは、自社でモデルを構築するためにかかる費用や技術的リソースを必要とせずに、潜在的な生成AIのユースケースをテストする場を提供する。Principal Financial Groupのニーズは、市場にあるさまざまなツールでカバーされている。

 「一からモデルを構築しなければならないようなユースケースはまだない」(ケイ氏)

重要性が高まる「データの完全性」

 生成AIが企業に浸透するにつれ、Principal Financial Groupは社内の技術専門家とIT部門以外のステークホルダーの両方を活用し、テストモードに入った。

 「当社には、生成AIに関心と情熱を示す約70人のグループがある。最初は勉強会のようなものだったが、最近ではこの巨大な部門横断チームがあらゆる種類のアイデアを生み出し、協力しながら多くのテストを実施している」(ケイ氏)

 クラウドのおかげで、ケイ氏のチームは特定のアプリケーションを選ぶ前に、生成AIの可能性を幅広く柔軟にテストできた。

 「新しいテクノロジーやサービスを評価するために活用できる安全なサンドボックスを素早く作成できるように、『クラウドへの旅』に出たことは幸運だった。正しいデータを入手し、データが正確で偏りがないことを確認しなければならない」(ケイ氏)

 データの完全性をいかに保証するかは新しい問題ではないが、その重要性は高まっている。「従来のMLを含むAIでもこれは必要だったが、生成AIではなおさら必要だ」と同氏は述べる。

 ケイ氏は柔軟な開発戦略に積極的で、エンジニアチームをビジネスパートナーと連携させて、さまざまなユースケースの価値とリスクを評価している。

 「私は学んでいる最中に何らかのガバナンスやルールを押し付けることは最初の段階ではしたくなかった。これはイノベーションを阻害することになる」

 大規模なドキュメントの取り込みや要約、コールセンターの自動化の改善、コーダーの支援の3つは、ケイ氏のチームがテストした中で有望とされるユースケースだ。顧客との通話のライブ分析、会話の分析も期待できる。

 現在ケイ氏は、狭い範囲での解決を提供するユースケースよりも、広範なビジネスに応用できるアイデアを優先している。しかし、彼女は1つの戦略に固執しているわけではない。

 「われわれは常に学び続けており、優先順位の付け方やユースケースの見つけ方を変更した。このように学びながら調整していく」(ケイ氏)

原注:本記事は「CIO Dive Live」のリンゼイ・ウィルキンソン氏(アソシエイトエディター)と、Principal Financial Groupのキャシー・ケイ氏との対談から得た知見をもとに執筆された。AI(人工知能)で成功をつかむためのセッションはオンデマンドで視聴できる(注8)。

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