デル、NTTデータ、トヨタが描くデジタルイノベーションの行く末 各社の取り組みはDell Technologies Forum 2023 Japan

生成AIでビジネス環境が大きく変化する中、デル、NTTデータ、トヨタはDXに対してどのような取り組みを行っているのだろうか。

» 2023年10月26日 08時00分 公開
[河嶌太郎ITmedia]

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 デル・テクノロジーズ(以下、デル)は2023年10月13日、ビジネスリーダーやスペシャリストに向けたイベント「Dell Technologies Forum 2023 Japan」を開催した。同イベントでは最新のIT事情やテクノロジーの紹介の他、実際にそれらを利用した企業事例などが発表された。

 基調講演にはデルの大塚俊彦氏(代表取締役社長)に加え、米国のDell Technologies(以下、Dell)でCTO(最高技術責任者)を務めるジョン・ローズ氏、NTTデータの佐々木 裕氏(代表取締役社長)、トヨタ自動車(以下、トヨタ)の日比稔之氏(情報システム本部 本部長)が登壇し、生成AI(人工知能)の活用やそれが企業DX(デジタルトランスフォーメーション)に与える影響について解説した。

デル、NTTデータ、トヨタが描くデジタルイノベーション

 まず、大塚氏はDXの状況について「デルの調査によると『自社は革新的である』『イノベーティブである』と考えている企業は44%に上る。一方で『今後のイノベーションの創出において今後3〜5年間のうちに遅れるのではないか』と危機感を抱く企業が半数を超えている」と語った。

 「企業のイノベーションの成熟度」という観点で、日本企業は海外に遅れていると言わざるを得ない。同調査において、イノベーションが最も進む「Innovation Leaders」に該当する企業はグローバルが2%に対し、日本は0%だ。「Innovation Adapters」に分類される企業も、グローバルは16%に対し日本は5%にとどまっている。

 この最上位の2つのグループは、イノベーションが進んでいない下位2つのグループ(「Laggard」と「Followers」)と比較して2倍以上の速度でビジネスが成長する企業とされる。こうした先進的な企業はどんなアイデアも尊重され、失敗を恐れないイノベーション文化を構築する「People」、最新鋭の技術を活用し、ビジネスの成長に直結するイノベーションを創出する「Process」、データ主導のイノベーションプロセスを実施する「Technologies」の3つをイノベーションの柱として掲げている。

 大塚氏によると、デルは企業のイノベーション推進に向け「未来の働き方」「マルチクラウド」「戦略的データ活用」「エッジ」「セキュリティ」の5つを重点成長領域として、製品やソリューションの開発、顧客のイノベーション実現を支援している。

基調講演に登壇したデルの大塚俊彦氏(筆者キャプチャー)

 大塚氏に続きDellのローズ氏は、テクノロジーにおける5つの重要な課題として「AI」「マルチクラウド」「エッジ」「働き方」「セキュリティ」を挙げる。

 「この5つの課題を解決すれば、複数のITシステムを効率的に運用できるようになる。従業員が参画してAIを活用し、最新のインフラを使って生産性を高められるようになる。デルは顧客をここに導くために存在している」(ローズ氏)

 この5つの中でもAIは最も重要なテクノロジーだ。近年隆盛する生成AIによって、現行の仕事の3分の1は自動化されるという。AIは私たちの仕事の在り方を大きく変えるポテンシャルを秘める一方で、課題もある。

 ローズ氏によると「まだどういう振る舞いをするのか分からない」「ハルシネーションでAIが事実に基づかない情報を生成する」「ガバナンスへの対応」などがこの課題に当たる。

 Dellは他のIT企業が着手しているような、大規模言語モデル(LLM)の新たな開発やAIコンポーネントの構築などには取り組んでいない。ローズ氏はこれについて「より大きなテクノロジーの全体システムとして、AIを連携させることに主眼を置いている」と説明する。

 「今後、生成AIはクラウドからPC上に移行する。クラウド上で動かすよりもPC上で動かすほうが早いからだ。処理能力やインタフェース、メモリは今以上に必要になることから、PC業界はこの数年で大きく変わるだろう。AI活動の基盤として使われるようになる」(ローズ氏)

Dellの生成AIソリューションを解説するローズ氏(筆者キャプチャー)

 同氏はマルチクラウドについても「クラウド間の互換性がないのは問題だ」と指摘する。Dellはクラウド間の互換性を持たせる取り組みをしており、「Dell APEX」というサービスでマルチクラウド化を支援している。

 「クラウドサービスを単体で運用せず、マルチで運用することはデータ保護の観点でも有益だ」(ローズ氏)

 エッジにおける課題にも言及したローズ氏は「マルチクラウドにおけるエッジプラットフォームがまだ存在しないという点」を課題として挙げる。この点、Dellは「Dell NativeEdge」というサービスを通して分散するエッジを一元化し、統合運用できるように支援している。

 ローズ氏は最後に「Dellのビジョンは『全てのクラウドが協調して使えること』『AIやセキュリティなどを製品として良い形に変えることだ』」話し、自身のパートを締めくくった。

NTTデータの取り組み

 続いて、NTTデータの佐々木氏が登壇した。同氏はまず「近年は企業のパブリッククラウドの利用が進み、セキュリティの確保が課題となってきた。NTTデータは『A-gate』というサービスを開発し、基盤とマネージドサービスの提供を進めている」と話す。

 NTTデータはSnowflakeとパートナーシップも結んでおり、企業のデータドリブンカンパニーへの変革を支援している。Salesforceとも連携し、人材の強化も行っている。

 佐々木氏によると、同社は生成AIの取り組みとして「自社ValueChainの変革」「お客さまValueChainの変革」「共通PFの提供」「ガバナンス」を軸にしている。

 自社ValueChainの変革では、NTTデータの事業の中核である「既存システム更改」や「新規システム開発」に対して生成AIを適用している。要件定義や設計、製造、テストの各工程で生成AIの活用を検証しており、自社システム開発要件への適用を進めている。これにより、海外案件などの特定条件下の製造工程で7割の効率化を実現した他、国内でのアプリ更改検証でも5割強の効率化を確認したという。

 「お客さまValueChainの変革」では、ハイブリッドクラウドへの取り組みが中心になる。佐々木氏は「ハイブリッドクラウドのように、生成AIもさまざまな環境で利用が進むという仮説を立てている。NTTデータは特に、プライベート領域で顧客の競争領域に貢献できるように取り組みを進めている」(佐々木氏)

NTTデータによる生成AIへの取り組みを紹介する佐々木氏(筆者キャプチャー)

 佐々木氏は最後に「NTTデータはテクノロジーのトレンドをグローバル視点でしっかりと見定め、さまざまなお客さまのデータをつなぐ『Edge to Cloud』のフルスタックサービスを提供していく」と締めくくった。

トヨタの取り組み

 基調講演の最後にはトヨタの日比氏が登壇した。現在、トヨタはカーボンニュートラルと電気自動車(BEV)の2つに力を入れている。

 カーボンニュートラルに関してはタイで取り組みを進めており、これはエネルギーの「作る」「運ぶ」「使う」という自律循環型の社会実装を目指すというものだ。その効果を見て、日本をはじめとする世界で同様の展開を進める予定だ。また、水素自動車の研究開発も進めている。電気自動車に関しては2023年5月に専用の工場を作り、開発を進めている。

 トヨタは社内でも数年前からDXに取り組んでいる。同社のDXで特徴的なのはシステム主導で変えるのではなく「プロセス」「システム」「人材」「組織」「ルール」の五位一体で小さく始め、順次展開していく方針を取っていることだ。また、5〜6人の社外有識者を迎え入れ、自社のみで考えが偏らないように推進している。

 「トヨタはデジタル化を『次の百年も産業報国を続ける』ための会社変革と定義している。まだ道半ばという状況だが、この2年間でイノベーションに向かっての磁場は確実にできてきている。われわれは自動車産業550万人の仲間のために、日本のもの作りにしっかりこだわらないといけない。皆さんの笑顔をいつまでも追い求めてやっていきたい」(日比氏)

トヨタによるDXの取り組みを紹介する日比氏(筆者キャプチャー)

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