AWSが中堅・中小企業のクラウド導入に本格コミット “巨大な潜在顧客の宝庫”をどう刈り取る?

低価格化に伴い、中堅・中小企業のクラウドサービスの導入意欲が高まっているようだ。AWSはここに商機を見いだしている。

» 2023年11月09日 08時00分 公開
[Matt AshareCIO Dive]

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CIO Dive

 Amazon Web Services(AWS)の委託を受けたITサービスおよびコンサルティング会社Accentureのレポートによると、基本的なクラウドサービスにおいてコストが低下しているため、(クラウドを利用した)拡張性の高いソリューションが中堅・中小企業でも手の届くものになってきている(注1)。

 同レポートによると、先進国の全企業の半数近くが、以前は社内に開発リソースを持つ大企業でしか利用できなかったようなツールにアクセスするためにクラウドを利用しているようだ。Accentureは、世界最大規模のファーストパーティーデータを保有するDynataが2023年5〜6月に562の零細および中堅・中小企業(SMB:Small and Medium Business)から収集した調査データを使用した。

 クラウドの導入によって医療や教育、農業分野の中小企業は、2030年までに米国で年間約800億ドル、世界全体で1610億ドルの生産性向上が見込まれると分析している。

AWSは全企業の99%に当たるSMB市場の覇者になれるのか?

 AWSが支配するクラウド市場において、まだクラウドにコミットしていない組織は、ハイパースケーラーの成長の機会となる。

 2023年6月30日(現地時間)までの3カ月間に、世界最大規模のシェアを持つクラウド事業者であるAWSは、全世界のITインフラサービスに対する支出の3分の1を獲得した(注2)。Synergy Research Groupの分析によると、米国市場におけるAWSの主なライバルであるMicrosoftとGoogle Cloudの市場シェアはそれぞれ22%と11%で、合わせて3分の1を占めている。

 AWSは規模の優位性と運用の効率性を生かしてSMB市場を狙っていると、GartnerのVPアナリストであるシド・ナグ氏は「CIO Dive」に電子メールで語った。

 「AWSはまた『AWS Graviton』のような独自のプロセッサ設計技術で価格性能比を大きく向上させており、それを顧客に還元している可能性が高い」とナグ氏は述べた。

 AWSのビジネスイノベーション責任者であるベン・シュライナー氏は、CIO Diveとのインタビューで「ハイパースケーラーはクラウドサービスの価格を着実に引き下げている」と述べた。同社は2023年4月のブログ投稿で、2006年以来129回の値下げを行っていることを示した(注3)。

 Accentureのレポートによると、SMBに属する個々の企業はクラウド事業者のパワーバランスにほとんど影響力を及ぼさないが、全体としては米国内の全企業の99%、雇用の67%、そして先進国のGDPの40〜60%を占めている。SMBは巨大な潜在顧客の宝庫と言える。

 「AWSはこの顧客層を積極的にクラウドに誘導している」とシュライナー氏は言う。

 シュライナー氏は同社が2023年に北米で導入したSMBに特化したアナリティクスプログラムについて、「必ずしも万能な戦略があるとは考えていないが、中小企業向けに開発したプログラムだ」と述べた。このプログラムでは、AWSのアナリティクスエキスパートが企業経営者に個別のガイダンスを提供する(注4)。

 「経営者はデータ主導の意思決定を望んでいるが、データはスプレッドシートのどこか、あるいは5つの異なる場所にある。データを安全でセキュアな1つの場所に集める方法に苦慮している」(シュライナー氏)

 Forresterによると、自社の洞察力を生み出す能力に自信を持っている意思決定者は、中堅企業で19%、中小企業で24%にすぎない。同社は、AWSの委託で2023年6月に320人のデータおよびアナリティクスの専門家を調査している。

 同様に、業務の拡大に合わせてデータ資産を保護する自身があるとした回答者がわずか3分の1以下だったこともForresterは明らかにした。

 「私が話をした経営者は皆、セキュリティに関しては人手不足であることを認識している。彼らは攻撃者を撃退するための最高セキュリティ責任者(CSO)も、小さな軍隊も持っていない。だが攻撃者は彼らの組織が大企業かそうでないかなど意に介していないことも分かっている」(シュライナー氏)

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