なぜクラウド変革の半数は「悲惨な結果」に終わるのか?CIO Dive

調査によると、クラウドに対する企業の熱意とは裏腹に、クラウドネイティブの変革の半分は悲惨な失敗に終わっているという。その要因についてリサーチャーたちが語った。

» 2023年12月07日 08時00分 公開
[Matt AshareCIO Dive]

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CIO Dive

 調査分析会社のHFS Researchの最新の報告書によると、合理化と統合、柔軟な運用が実現できると期待されたクラウドに対する企業の熱意は、ビジネス上の価値を引き出せずにいることによってここ1年低下傾向にあるようだ(注1)。

 3分の2近くの企業がクラウドへの戦略的投資を実施しているが、その目標を実現できているのは3分の1以下であると同報告書は述べている。

変革の半分は「悲惨な結果」 クラウド投資は見合った成果を実現できるのか?

 HFS Researchはコンサルティング会社のErnst&Young(以下、EY)と共同で、「Forbes」が毎年発表する世界の公開企業上位2000社の経営幹部500人以上を対象に、6カ月間にわたる調査を実施した。その結果、クラウドそのものではなく、クラウド技術のビジネスにおける成果に対する不満が広がっていることが分かった。

 EYのエマージングテクノロジー(先端技術)リーダーであるマット・バリントン氏は報告書の中で「クラウドネイティブの変革の半分は悲惨な失敗に終わっおり、その多くが技術とビジネス目標が一致していないために起こっている」と話す。

 クラウドが成熟するにつれて、ROI(投資収益率)への期待が大きくなっている。各業界における大規模なモダナイゼーションへの努力によって、数十億ドル相当の企業のワークロードを、オンプレミスデータセンターからより効率的なハイパースケーラーインフラへと移行させることに成功している。この勢いは2024年も続くと予想されるが、企業はそれに見合うリターンを切望している(注2)。

 「残念ながら、多くの企業がデータとプロセスを最適化し、実際に業務に生かすまでに多くの時間と労力が必要だと認識していなかった。そのため多くのCFO(最高財務責任者)はCIO(最高情報責任者)に対し、一体ここまでの取り組みは何だったのかと問い詰めている」とHFS ResearchのCEO兼チーフアナリストであるフィル・ファーシュト氏は話す。

クラウド化には単なるツールの移行ではなく根本的な変革が求められる

 EYのグローバル・クラウド・コンサルティングリーダーであるラグ・ラジャラム氏は「クラウド変革の挫折は、財務面や運用面、戦略面を問わず組織が当初の目的を達成できないときに起こる」と指摘している。

 ラジャラム氏は失敗の兆候は多岐にわたると話し、以下の4つの問題点を挙げた。

  • 予期せぬコスト超過
  • 運用の非効率によってシステムが分断され、業務が合理化されるどころかむしろ妨げとなる
  • サイバーリスクを増大させる新たなセキュリティの脆弱(ぜいじゃく)性
  • クラウドのメリットを最大限に活用できないスキル格差

 多くの場合、原因は企業が移行前の習慣から抜け出さない、あるいは抜け出せないことにある。

 「インフラやデータ、プロセスにおいて、単に新しい技術を重ねるだけでなく何らかの変革が必要だ」とファーシュト氏は言う。

 クラウドファースト戦略への移行は、移行初期のハードルを乗り越えれば学習曲線が平たんになることが報告書で明らかになった。

 5人中2人の回答者が、自組織はクラウドを活用した連携を優先しており、3分の1以上が製品開発のスピードアップとデジタルビジネス機能の統合のためにクラウドを活用していると答えている。

 しかし回答者の3分の1以上がワークロードの移行や部門横断的なワークフローの確立を進めている段階で、全社的なクラウド戦略をまだ策定していない企業は16%と少数派だ。

 ラジャラム氏は「こうした組織にとってのリスクは、技術的負債がクラウドに移行してしまうことであり、これによってコスト超過やその他の非効率を引き起こす可能性がある」と指摘する。

 「大企業は技術面とプロセス面の負債によって成長が止まっており、そのうち多くの企業が従来の運用と並行してクラウドネイティブな組織作りを進めている」(ラジャラム氏)

 課題はレガシーアプリケーションをリファクタリングするコストと、リフト・アンド・シフト戦略の相対的な容易さを比較検討することにある。

 「リファクタリングはアプリケーションを最適化し、パフォーマンス効率やスケーラビリティといった長期的なメリットをもたらすが、その代償として多額の初期投資や複雑性、潜在的な障害が生じる可能性を伴う」とラジャラム氏は指摘する。

 もう一つの移行オプションであるリプラットフォームは、より速くより安価でかつ障害が少ないが、スケーラビリティが制限され、クラウドに技術的負債が残ってしまう。

 「万能で簡単な解決策が存在することはほとんどない。クラウドベースの技術的負債には、症状を改善するのではなく、根本的な問題に対処する多面的なアプローチが必要だ」(ラジャラム氏)

生成AIの台頭がクラウドコストの負担をさらに増大させる

 CIOが技術的負債やコスト超過、セキュリティの懸念、スキル格差に取り組む中、生成AI(人工知能)がクラウド戦略に新たな変数をもたらした。

 ほとんどの組織は、まず大規模言語モデル(LLM)の技術にアクセスする際、多くのデータが存在するハイパースケーラーのインフラを利用する(注3)。

 「生成AIは、インフラに強く依存する最初の大規模なツールだ。LLMをスケールアウトしたいのであれば、企業はそれを迅速に実行する必要があり、その技術をサポートするためには、共に成長できる極めて強力なクラウドインフラが必要になる」とファーシュト氏は述べる。

 生成AIが企業に浸透するにつれて、こうしたデータとインフラのニーズに対する熱意は、より健全なクラウド戦略を促進するかもしれない。

 「経営層が自身で使える高度なソフトウェアを手に入れたのは今回が初めてのことであり、これによって経営層の関与が大幅に増えている。経営層は生成AIがより優れた洞察をより早く抽出できることを理解しているが、プロセスやデータが技術によって最適化されるように設計しなければ、いつかは限界に達してしまう」(ファーシュト氏)

 もう一つの懸念はコストだ。

 データへのモデルの導入は、膨大なデータストアを移行させるよりもはるかに簡単だが、企業特有のユースケースに対するモデルのトレーニングや調整は決して安価なものではない。

 ファーシュト氏は「企業は今、モデルに投資する必要があると主張しており、膨大な追加費用をかけずにクラウド事業者が必要なものを提供してくれることを期待している。企業が求めているものとクラウド事業者が提供できるものとの間に、本当の意味での整合性を持たせる必要がある。そうでなければ、良い結果にはならないだろう」と話した。

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