「ジョブ型成功には企業の覚悟が不可欠」 "脱年功序列"の活路はどこにある?

多くの日本企業が直面している根本的な問題は、日本が少子高齢化している中、若手従業員を雇用すること難しくなっていることだという。年功序列を辞めるためにやるべきこととは何か。

» 2023年12月22日 07時00分 公開
[大島広嵩ITmedia]

 人的資本の開示、ダイバーシティー、サステナブルなど、多くの人事トレンドがあるが、フォー・ノーツの西尾 太氏(代表取締役社長)は「トレンドと企業の現状はかけ離れている」と語った。

フォー・ノーツ 西尾 太氏

 西尾氏は500社以上の人事制度構築や制度運用、人事担当者育成などに携わった経験を基に、「多くの日本企業が直面している根本的な問題は、日本が少子高齢化している中、若手従業員を雇用すること難しくなっている」と主張した。

 対応策としては、「成果に対して処遇する」「行動に対して処遇する」といった、過去の功績に対して処遇する年功序列とは異なる考えを導入する必要があるという。しかし、年功序列は日本企業に深く根差した習慣であるため、辞めるのは簡単ではないだろう。成果主義の評価制度を導入するとなると、社内からの大きな反発が予想される。

 そこで、西尾氏に「年功序列を辞めるためにやるべきこと」と「ジョブ型は脱年功序列への対応策になるのか」を聞いた。

抵抗勢力に立ち向かうためにやるべきこと

――年功序列を辞めるためには成果・行動主義の仕組みが必要だと分かりました。社内からの大きな反発があると予想される中、制度を導入する方法を教えてください。

西尾 太氏(以下、西尾氏): 経営者や人事が覚悟を持つことが重要です。やはり、年功序列を辞めるとなると社内の多くの人から抵抗されますし、いろいろなことを言われます。ただ、大抵の反対勢力は給料が下がる、本来評価を下げるべき人たちです。なので、覚悟を持ってやり抜くことが重要です。

 成果・行動主義を導入するコツは、まず人事制度を入れてしまうことです。そして制度を運用し、優秀な若手の給与が大きく上がるなどの事例が出てきます。そうすると、従業員の2〜3割ぐらいが「この制度、意外と良いかもしれない」となります。

 私たちはそういった取り組みを「与党を作る」と呼んでいます。世論ができあがると、社内の風向きがガラっと変わり、反対勢力に同調しない人が増えます。

 他にも、自己申告で異動希望を出せる「自己申告異動制度」などを合わせて導入するといいです。全員の異動希望が叶うわけではないのですが、希望した人の1〜2割の異動が実現すると、成果・行動主義の評価制度も含めて社内の評価が高まります。

 処遇したい人をポンと処遇したり、異動の希望を聞いたりすることで世論を形成できます。人事は覚悟を持って行動し、実際にその成果を従業員に見せることで会社を変えていきましょう。

 2〜3年は我慢ですけど、そういった事例が出てくるまで覚悟を持って継続する。そのためには、自社の考え方を統一しておくことが重要です。人事が反対勢力の言うことに「それもそうですよね」などと言ってはダメですよ。

ジョブ型は対応策になるのか

――ジョブ型を導入して年功序列辞めるという考えもありますが、有効な対応策と言えるでしょうか。

西尾氏: ジョブ型は年功序列を辞める方法の一つです。ただ、メンバーシップ型で年功序列を辞める方法もあります。あくまで、年功序列や終身雇用は日本型雇用の慣行と言われるものです。

 そもそも私は、日本社会でジョブ型はうまくいかないと考えています。ジョブ型は欧米型の人事制度の一つです。ジョブに重さがあって「このジョブをやる人は年収800万の処遇」と取り決めるのがジョブ型です。1000万で仕事を任せていた人を、できなかったときに800万に下げることを日本企業にできるかどうかは疑問です。

 日本企業は、与えた仕事に向いていない人がいたら別の部署に異動させます。営業が向いてないから人事を任せましょうなどというのはメンバーシップ型ですからね。その慣行が残る限りジョブ型の実現は難しいでしょう。

 ジョブ型は、そのジョブができなかったら下のジョブに下げるか解雇するかです。そこまでの覚悟を持ってジョブ型に取り組むならいいですけれど、日本企業は解雇をできないでしょう。それで、日本型ジョブ型っていう折衷案みたいなのが出てきましたが、日本型ジョブ型とはそもそもなんだよっていう話です。

――日本型ジョブ型の問題点や、うまくいかないとお考えの理由を教えてください。

 そもそも制度に、前回お伝えした「人事ポリシー」との一貫性がないところが問題です。

 ジョブ型とメンバーシップ型を中途半端に取り入れると、運用も中途半端になるので、そもそもジョブ型に求めている効用(脱年功序列やパフォーマンスと処遇の比例)も得られなくなるケースが多いのではないでしょうか。

 ジョブ型というやり方と、年功序列が辞めることが混ざってしまっています。世の中で言われてるトレンドや新しいものが、実体と離れてるように思いますね。

――本日はありがとうございました。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ