2024年に向けて獲得すべき「17のマインドセット」 ガートナーが提言

「産業革命」ともいえるような急激な変化に対応するために持つべきマインドセットとは。ガートナーによる提言を紹介する。

» 2023年12月29日 07時00分 公開
[金澤雅子ITmedia]

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 生成AIの活用が本格化するなど、技術の進展スピードの速さを実感した2023年。2024年はどのような変化が訪れるのか、またそうした変化に対応するために求められるマインドセットとは。ガートナージャパン(以下、ガートナー)が発表した「2024年に向けて獲得すべきマインドセット」(2023年12月13日にプレスリリース)から同社の提言を紹介する。

二極化する世界を生き抜くために 2024年獲得すべき「17項目のマインドセット」

 同社の亦賀忠明氏(ディスティングイッシュト バイス プレジデント アナリスト)は次のように説明する。「産業革命クラスの変化が起こっている中、テクノロジーを駆使できる企業や人と、そうでない人々に二極化してきている。こうしたかつてない時代変化に対応するためには、従来とは違う新たなマインドセットを獲得することが求められる」

 ガートナーは、2024年に向けて獲得すべき新たなマインドセットとして次の17項目を挙げる。

1. 産業革命のマインドセット

 新たなテクノロジーの台頭による新たな産業革命が起こっている。企業には、デジタルが前提のビジネスへと業態を再定義し、戦略的に転換することが求められている。先進的な自動車メーカーではデジタルを前提としたモノづくりが進められ、自動車そのものもデジタルを前提に進化している。亦賀氏は「これは自動車会社がITベンダーになるレベルの変化だ。クラウドやAI(人工知能)の利用は当たり前になっており、生成AIによってこのトレンドはさらに進む」と指摘する。

2. ツールとスーパーパワー

 ITには、ツールとしての側面とスーパーパワー(想像を絶するテクノロジー)としての側面がある。これからの時代はスーパーパワーを使いこなせる人や企業が生き残る時代だ。これからのビジネスを推進するにはクラウドコンピューティングや、生成AIを含むAI・アルゴリスム、データ、セキュリティ、プライバシーなどの要件や、それらに備える人材が極めて重要になる。企業や人はスーパーパワーを駆使できるように、新しい基本を身に付ける必要がある。

3. 作業者からクリエーター、アーティストへ

 テクノロジーの進化によって、日常的な作業はAIやハイパーオートメーションへの置き換えが可能になりつつある。その結果、事務的・作業的な業務に従事する人や作業者的なエンジニアの役割は時間とともに低下していく。逆に、エンジニアやビジネスパーソンは、新しいスタイルをもたらすクリエーターやアーティストとして新たな活躍の場が拡大する。亦賀氏は「『テクノロジー』が使えるのかどうかではなく、『人(あなた)』がテクノロジーを使えるのかどうかが問われている。前向きに新たなテクノロジーを駆使しようとする人々を大事にし、元気にし、活躍できるワークプレースを作ることが、企業がこれからの"産業革命"を生き残るための必須要件となる」と説明する。

4. ハードウェア中心からサービススタックへ

 製造業の多い日本においては、従来ハードウェアを中心としたビジネスが考えられてきた。しかし、これからを生き残るためにはハードウェア中心からPeople Centric(人間中心)を中心としたマインドセットへの転換が必要だ。これはハードウェアを軽視するということではない。ハードウェアも重要だが、その大前提としての人の体験そのものを起点とした意思決定と実践が重要であることを意味している。その実践には、多くのクリエーター的なソフトウェアエンジニアが必須だ。ほとんどの日本企業では、その実践は相当にハードルが高いものとなる。

5. 妄想からリアリティーへ

 先進テクノロジーが登場すると、すぐに「すごいこと」が実現すると思いがちだが、仮に「すごい」ものがあってもすぐに「使える人」がいるわけではない。まずはリアリティーを大事にし、今できることとできないことを明確にした上で、必要になるスキルの獲得を開始することが重要だ。

6. 業務とビジネス

 テクノロジーが進化し、人でなくてもできる業務が増えている中、いつまでも業務を中心としたマインドセットで従来の業務を変えずに進めることはもはや通用しない。ガートナーは、2030年までに事務的な業務の80%はハイパーオートメーションによって置き換えられるとみている。これからは、テクノロジーにできることはテクノロジーにやらせて、人は「より人間らしい」仕事をする時代だ。こうした、真の「People Centric」なビジネスへの転換が必要になる。

7. AIの進化の影響を考える

 2023年の生成AIの急速な浸透は目覚ましく、ビジネスに大きな影響を与えている。今後も生成AIをはじめとしたAIの進化はとどまることはなく、ますます破壊的なインパクトをもたらす予測だ。亦賀氏は、次のように述べる。「AIが進化していくように、人間も進化していく必要がある。それには時代に合った個々のリテラシーやスキル、マインドセットを獲得し、継続的に学び、組織としても共に高みを目指していくことが重要だ。AIが進化している今こそ人間力を取り戻し、時代の変化に対応できるよう自ら進化させるチャンスだ」

8. 「何でも松」から「松竹梅」へ

 全ての業務を「松竹梅」の「松」のように捉えるのではなく、優先順位を付けてどこまでコストや時間、エネルギーをかけるかを棚卸し、仕分ける必要がある。これはクラウドサービスなどの稼働率要件だけではなく、仕事の仕方を含めた全てに当てはまる。自社の要件や仕事の仕方が"過剰な松"になっていないかどうかを点検し、時に断捨離することが必要だ。これは少子高齢化が進む昨今、特に重要なテーマだ。メリハリなく全てを完璧にしようとすると、現場に無理が発生し、それがシステム停止につながることもある。「何でも完璧にしよう」とする癖を止める必要がある。

9. 「完璧」「継続的改善」「産業革命」

 従来のIT部門の業務は、しっかり作ってきちんと運用する「完璧」を目指すものだった。現在はクラウドやアナリティクス、IoT(モノのインターネット)などのテクノロジーを採用して継続的に改善し、さらに破壊的なテクノロジーであるスーパーパワーを駆使して産業革命レベルの新しい時代(New World)の変化に対応することも同時に求められている。企業はそれぞれのテクノロジーの違いや対応する人を理解し、リスペクトするマインドセットを持つことが重要だ。

10. 「丸投げ」から「自分で運転」へ

 IT部門は会社内のITのプロとして、クラウドや新しいテクノロジーの導入などを外部に「丸投げ」せずに「自分で運転」するマインドセットが必要だ。新しいテクノロジーを自身で"運転"して継続的に改善し、割り切って使うことでコスト抑制などのメリットにつながる。IT部門には新しいスキルを身に付けて、2030年までにクリエーター集団に進化することが求められている。これは企業や組織だけでなく、個々人が大きな時代変化の中で生き残るための重要な要件になる。

11. 成功か失敗よりも、経験を積むこと

 新しいことを始める時は、誰もが最初からできるわけではない。何事も新しい取り組みをする際は、まずは経験を積むことが重要だ。うまくいかないことを恐れて何もできない「大失敗」にならないようにする必要がある。時代が大きく変わりつつある中、企業や個々人には「成功と失敗とは何か」を再定義することが求められている。

12. スキルを適切に評価する

 人口減少やテクノロジー人材不足が顕著になりつつあり、グローバルでも人材競争が激化している。企業は、スキルを持つ優秀な人材の獲得や定着に向けて、人事部門(HR)と共に、早期にスキルを適切に評価し、適正な対価を支払うなどの対策を検討する必要がある。スキルを適切に評価するためには、評価者にも学ぶ姿勢と努力が求められている。

13. 人材育成と人材投資

 企業は、従業員にトレーニングをするなどして人を育てる人材育成だけでなく、積極的な投資対象としての人材投資を強める必要がある。投資なので回収を期待するが、これは長期的な取り組みになる。企業には、People Centricなマインドセットを持って、じっくりと新たな時代に対応できる人材と組織づくりを粘り強く展開することが求められている。こうした人材投資は、短期的かつ直接的な損益計算書(P/L)上の効果よりも、むしろ従業員を元気にして組織を活性化させる効果があることに注目すべきだ。

14. 「議論」から「決めて実行」へ

 「クラウドは使えるのか」といった同じ議論を10年以上繰り返している企業が存在する。亦賀氏は「時代が大きく動く中、同じ議論を繰り返すことは、企業が時代に取り残されることを意味する。議論はほどほどにして、まずは試すことが重要だ。それには言葉遣いを見直すことが推奨される。リーダーは『もうかるのか』『できるのか』『誰がやるのか』『事例はあるのか』などではなく、"自分ごと"として自分で戦略を描き、実行する、勉強する、調べるなど、自分で『する』ことが重要だ」と述べる。

15. 短期オペレーションから中長期戦略へ

 日本で四半期決算に相当フォーカスする企業は多いが、投資家は継続的な企業価値向上と持続性も重視する。さらに企業には、"産業革命"時代を生き残るための中長期戦略を策定、推進する必要性が高まっている。江戸時代が明治時代になるくらいの大変化の中で、短期オペレーションだけにフォーカスすれば、時代変化に従って企業自体が衰退、消滅するリスクがある。こうしたことを全ての企業が認識してNew Worldに対応するために抜本的に戦略を見直す必要がある。

16. 大量情報時代のマインドセット

 大量の情報があふれている時代においては、偏向した情報やフェイク・詐欺情報、倫理を考慮しない、時代錯誤的で過剰に宣伝的な情報などに惑わされないだけなく、そういった情報を発信しないことが重要だ。それにはファクトベースや倫理的、People Centricなマインドセットが必要だ。

17. 時代に合わせて変える

 時代変化とともに求められる役割も変化する。企業や個人が変化に対応するには時代に合わせた新しいスタイルとアプローチが必要だ。特に経営者は中長期視点で戦略を考え、実行することが求められる。経営者自らアンテナを高く張り、「自分ごと」として日々勉強し、人材への投資やマインドセットの獲得をリードする必要がある。

 亦賀氏は次のように解説する。「産業革命クラスの変化に備えるために、新たなマインドセットを獲得し、スキルやスタイルを身に付けるべきだ。人間ならではの創造を楽しみ、テクノロジーと『知恵』を駆使して全てを『より良く』しようとする企業に人が集まる。そこで人が大事にされ、元気になり、活躍することで、顧客を呼び、ビジネスの好循環を生むことになる。デジタルの時代とは、デジタルによって人間力が増幅される時代だ。この原理をうまく理解し、実践できた企業が生き残れる。逆に、そうでない企業は、衰退、消滅していく可能性がある」。さらに「日本企業は、こうした生き残りをかけた歴史的な時代変化に対応するために、2024年は『チーフ産業革命オフィサー』を設ける動きが2024年に確実に高まるだろう」と予測する。

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