AWSの大規模投資は日本企業の「生成AI活用熱」を取り込むタネになるか日本に2兆2600億円を投資

AWSが日本での2兆円を超す投資を発表して話題を集めた。生成AIブームによる国内企業のクラウドサービス利用拡大を見越した投資だ。AI導入支援プログラムにも力を入れ、この商機を逃さないという意気込みが感じられる。

» 2024年01月25日 08時00分 公開
[齋藤公二, 原田美穂インサイト合同会社]

この記事は会員限定です。会員登録すると全てご覧いただけます。

 Amazon Web Services(AWS)が2027年までに東京と大阪のクラウドインフラに2兆2600億円もの投資をする計画を発表した。2024年1月19日のこの発表はIT業界だけでなく経済紙を含む一般メディアでも広く報じられた。

 AWSは2011〜2022年までに約1兆5100億円を投じており、今回の発表を合わせると2027年までに約3兆7700億円を日本のクラウドインフラに投資することになる。日本におけるクラウドサービス需要拡大への対応が目的だ。

日本への投資がもたらす経済効果をまとめた「AWS が日本にもたらす経済効果に関するレポート」の内容を基にしたインフォグラフィクス(出典:AWS発表資料)
アマゾン ウェブ サービス ジャパン代表執行役員社長の長崎忠雄氏

 発表に際し、アマゾン ウェブ サービス ジャパン代表執行役員社長の長崎忠雄氏は、日本における取り組みをこう振り返った。

 「日本では数十万を超えるお客さまがAWSを活用しています。さまざまな変革の基盤としてクラウドコンピューティングを活用していますが、2023年には新しいタイプの生成AIが脚光を浴びました。AWSも生成AIサービス『Amazon Bedrock』の提供を日本で開始しました。一方、デジタル活用の広がりの中でデジタル人材の育成が急務です。AWSは人材育成にも積極的に取り組んでおり、2017〜2023年までの7年間で60万人を超えるお客さまに対してクラウドスキルのトレーニングを提供してきました。AWSはサービス開始以来、お客さまを第一に考え、日本のお客さまのニーズに応えてきました。この先もわれわれのミッションは変わらず、日本のお客さまのニーズに応えていきます」(長崎氏)

 AWSは現在、世界33カ所にリージョン(データセンター群)を設置しており、日本では2011年に開設した東京リージョンと2021年に開設した大阪リージョンがある。

3万500人以上の雇用創出、国内企業との衛星ブロードバンド事業も 投資の内訳

 長崎氏によると、AWSはデータセンター群の建設やネットワーク、運用、保守のために2011〜2022年にかけて1兆5100億円を投資している。AWSが今回の発表に合わせて公開した「AWS が日本にもたらす経済効果に関するレポート」によると、AWSの投資は日本のGDPに1兆4600億円貢献し、年間平均で7100人を超える雇用を支えたと推計されるという。今後の投資としては2027年までに約2兆2600億円を予定する。

 「AWSは世界の地域ごとに投資をしていくことで地域ごとに実証可能な経済成長をもらたしたいと思っています。日本に投資することで、日本のお客さまはデータを国外に持ち出さず、国内で利用でき、低遅延でクラウドサービスを利用できます。さらに雇用の確保やクラウドに関する教育、AI(人工知能)などの先端技術の活用、地域コミュニティ支援、再生可能エネルギーの開発および導入などの形でわれわれは日本に対して大きな役割を担えると考えています」(長崎氏)

 約2兆2600億円の内訳は、データセンター建設、サーバー群の導入、データセンター間をつなぐネットワークなどの設備投資、長期的に発生するデータセンターの運用費用、機器メンテナンスおよび保守といった運営費が含まれる。今後の投資が日本のGDPに与える効果は5兆5700億円、3万500人以上の雇用創出につながるとAWSでは試算している。

自民党デジタル社会推進本部長の平井卓也

 発表会には、初代デジタル大臣で自民党デジタル社会推進本部長の平井卓也氏も登壇。「AWSによるデータセンター、デジタル人材育成、AI、再生可能エネルギーといった日本にとって重要かつ戦略的分野への長期的な投資を大いに歓迎する。日本はデジタル競争力ランキングで低位。AWSは、先進国でありながら伸び代が一番あると考えて日本への投資を決めたと考える。それにあわせた日本の政策が進めば、デフレから脱却し、日本はもういちど成長軌道に乗ると期待している」とコメントした。

 技術統括本部の巨勢泰宏氏と広橋 さやか氏はAWSの年次イベント「re:Invent」の振り返りとなる最新技術の紹介やAIに対する最新の取り組み状況を紹介した。

 AWSが提供するサービス数は2023年時点で240以上に上る。巨勢氏は「2006年のサービス開始以来、一貫してお客様のフィードバックを新たなサービスを機能としてリリースしてきました。インフラ技術の提供からはじまったクラウドサービスはIoT、AI、ML、コンタクトセンター、量子コンピューティングなどさまざまな領域にまで拡張しました」と指摘。その上で「『Amazon EC2』があらゆるワークロードに対応する750種類以上のインスタンスを提供していることや、EC2で利用できるプロセッサー「AWS Graviton Processor」の強化点、NTTやスカパーJSATなどと協業した低軌道の衛星群を通じてブロードバンドアクセスを提供するProject Kuiperの取り組みを紹介した。

 生成AIについては、3つの階層で取り組みを進めているという。

  1. 基盤モデルの学習と推論のための基盤(「Amazon SageMaker」)
  2. 基盤モデルを活用してアプリケーションを構築するツール群(「Amazon Bedrock」)
  3. 基盤モデルを活用するアプリケーション(「Amazon Q」「Amazon QuickSight」「Amazon CodeWhisperer」など)

企業が実践するAmazon BedrockベースのAI活用

 AWSは国内に拠点を持つ組織のLLM(大規模言語モデル)開発を支援するプログラムを2023年7月から開始している。同プログラムは、LLMを開発するための計算機リソース確保に関するガイダンスや技術的なメンタリング、LLM事前学習用クレジット、ビジネス支援などのサポートを提供する。広橋氏は「グローバルで1万超のお客さまがAmazon Bedrockを利用しています」として、国内外における生成AIの活用事例を紹介した。

 米国の製薬企業であるPfizerは「18カ月で19の医薬品やワクチンを開発する」という目標に向けて全社的なクラウド活用を推進しており、Amazon Bedrockなどの生成AIを活用して医薬品開発のスピードと生産性を飛躍的に向上させている。また、竹中工務店は、建設業界の生産性向上を目的に、デジタルを生かしたベテランの知識や経験の継承、人材育成に取り組んでおり、その一環として生成AIを使った「デジタル棟梁」を開発した。リコーは、独自のLLMをAWSで構築しており、業務に活用できる言語能力もった「仕事のAI」を開発している。これらはいずれもAWSのプラットフォームを活用しており、迅速なAI導入を実現した例だ。

 巨勢氏は、こうした先行事例を皮切りにAI活用企業の支援体制を熱くする旨を「生成AIのアプリケーション、ツール群、基盤という3つの層を継続的に再発明することで、生成AIを取り巻くさまざまなユーザー、パートナーのイノベーション促進を支援していきます」と語った。

 あらゆる業種、業務において、生成AIを利用することが当たり前の時代が近づきつつある。いち早く取り組んだ企業が有利とされることからもAI導入を急ぐ企業は多いだろう。生成AIブームはOpenAIとMicrosoftが口火を切ったが、サービス提供事業者間の競走は始まったばかりだ。AWSはこの商機を逃さず取り込むことができるだろうか。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ