高校生が学ぶ「情報II」が“本気すぎる” 研修にも使える教材のポイントを紹介半径300メートルのIT

高校生の授業科目である「情報II」で学ぶ内容が非常に本格的だと話題になっています。大学時代に「情報」を学んでいた筆者が早速読んでみたところ、確かに“全くあなどれない”内容でした。

» 2024年02月20日 07時00分 公開
[宮田健ITmedia]

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 「情報IIがすごい」と話題になっています。これは高校生が学ぶ“情報”技術に関する発展的な選択科目として用意されており、IT技術の基礎からビッグデータや解析を含むデータサイエンス、さらにはコンテンツ制作/発信やAI(人工知能)の活用など、およそITと呼ばれるエリアを満遍なく取り上げています。

 文部科学省からこの「情報II」に関する教員研修用教材が公開されているので、気になる方は高校生がどのようなことを学んでいるのかチェックしてみましょう。

高等学校情報科「情報II」教員研修用教材(本編):(出典:文部科学省のWebサイト)

 筆者も早速読んでみましたが、選択科目ということで非常に思い切った内容にまで踏み込んでいるなと感じました。今回は、この中で「セキュリティ」についてはどのようなことが取り上げられているのかを見ていきましょう。

これ本当に高校生向け? 現役IT担当者にも役立つ「情報II」教材

 同教材の第1章「情報社会の進展と情報技術」における、PCやネットワーク、情報システムの進化がどのように起きたのか、その歴史をまとめた学習1「情報社会の発達と社会や人への影響」の中でセキュリティについて触れられています。

 ここでは、情報技術の発展とともにセキュリティがより重要になったとし、ITの進化に法律やルールが追い付かなくなっている実態を取り上げ、「情報化の進展に伴い今までは想定されていなかった事態についての法律も、整備する必要があることを生徒に理解させたい」といった学習の意図を伝えています。

 続いて学習2「情報セキュリティの必要性」では無線LANやIoT家電におけるセキュリティといった、高校生に身近なセキュリティを取り上げています。さらに「組織におけるセキュリティ対策」として企業における情報セキュリティ委員会のあるべき姿から、情報セキュリティポリシー策定のための組織作りの一例を紹介しています。

教材では「これは本当に高校生向けなのか?」と思うような高度なことにも触れている。よく読むと「情報セキュリティポリシーの対策基準や実施手順でメール送信時のルールは、本当に適切なものになっているだろうか」など耳の痛い表現も……。(出典:高等学校情報科「情報II」教員研修用教材から抜粋)

 この他、学習2ではそもそもの「情報セキュリティとは何か?」について、セキュリティの基本である三要素「機密性」「完全性」「可用性」に触れながら掘り下げているのも良い点だと思います。教員向けのテキストではありますが、企業のセキュリティ担当者にこそ読んでほしい内容になっています。

 この教材のように無料で閲覧できる有用なテキストとしては、内閣官房内閣サイバーセキュリティセンター(NISC)が公開している黄色の表紙の「インターネットの安全・安心ハンドブック」があります。ハンドブックでは個別のセキュリティ対策がまとめられていますが、「情報II」の教材は「なぜこうしたリスクが生まれたのか?」「なぜ対策が必要なのか?」といったより根本的な部分にフォーカスしたテキストだと言えます。

 この教材で書かれていることは高校生にとっては非常に高度な内容だと思うのですが、もはやインターネットとは切り離せない生活をしているデジタル世代であれば私たちよりもスッと理解できるのかもしれません。

教員向けテキストの目次を見ただけでも、その力の入り方が分かるはず(出典:高等学校情報科「情報II」教員研修用教材から抜粋)

「Society 5.0」時代を担う人たちに負けないように頑張ろう

 筆者も大学時代「情報」を学んでいたので、教材を読みながら昔学んだことを思い出していたのですが、どれも大学時代に出てきたことばかりで、それが選択科目とはいえ高校の授業で学ぶ時代になったということに本当に驚きます。

 この教材では、昨今注目が集まるML(機械学習)を含めたAIの基本的な知識もカバーしているので、新入社員の基礎能力向上にも利用できるかと思います。また、IT知識に自信があるという方は、第4章「情報システムとプログラミング」を読んでみてください。きっと勉強になる点も多いでしょう。

 この教材の冒頭では「情報II」で学ぶ目的を、サイバー空間とフィジカル空間を高度に融合させたシステムによって実現される「Society 5.0」の推進に必要な力を付けることを目指すこととしています。教科書をしっかり学んだ高校生であれば、その力が間違いなく宿るでしょう。

 セキュリティについていえば、情報IIでの内容は基礎的なものであり、この先もしっかりと学び続ける必要があるでしょう。個人的には、高校生たちにはスマホをきっかけに情報IIを選択しなかったとしても、広義の「セキュリティ」に興味を持ってもらうとともに、自分自身と仲間たち、家族全体を守れる力と知識を付けていってほしいと思います。

 Society“4.0”時代の私たちも、高校生に負けることなくしっかりとセキュリティの常識をアップデートしていかなければなりません。まずは「パスワードは生年月日8桁でいいや」みたいな考え方や「ウチみたいなところに重要情報はないから攻撃なんてこないよ」といった思い込み、「二要素認証? 面倒くさいからやらないよ」「アイコンがかわいくなくなっちゃうからアップデートなんてしたくない!」といった知識不足などから来る誤った行動を止めるところから始めましょう。

 既にサイバー攻撃者たちは“団結”しています。私たちもインターネット全体または社会全体で守れるように、意識を合わせていきましょう。

著者紹介:宮田健(みやた・たけし)

『Q&Aで考えるセキュリティ入門「木曜日のフルット」と学ぼう!〈漫画キャラで学ぶ大人のビジネス教養シリーズ〉』

元@ITの編集者としてセキュリティ分野を担当。現在はフリーライターとして、ITやエンターテインメント情報を追いかけている。自分の生活を変える新しいデジタルガジェットを求め、趣味と仕事を公私混同しつつ日々試行錯誤中。

2019年2月1日に2冊目の本『Q&Aで考えるセキュリティ入門 「木曜日のフルット」と学ぼう!〈漫画キャラで学ぶ大人のビジネス教養シリーズ〉』(エムディエヌコーポレーション)が発売。スマートフォンやPCにある大切なデータや個人情報を、インターネット上の「悪意ある攻撃」などから守るための基本知識をQ&Aのクイズ形式で楽しく学べる。


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