FedExは「eコマースの配送」を制覇できない? 新プラットフォームに専門家からダメ出しSupply Chain Dive

データ駆動型のプラットフォームの提供を通じてeコマース業界で地位を確立しようとしているFedExだが、専門家からは疑問の声が挙がる。新プラットフォーム「fdx」の“強み”と“弱み”は何か。

» 2024年03月13日 08時00分 公開
[Max GarlandSupply Chain Dive]

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Supply Chain Dive

 物流サービス大手のFedExは、eコマース業者向けにエンド・ツー・エンドのサービスを提供するプラットフォームを2024年1月14日(現地時間)に発表した(注1)。

 「fdx」と呼ばれるこのデータ駆動型プラットフォームは、同社の既存のサービスと新たなサービスを組み合わせたものだ。企業の需要拡大や、受注から商品のピックアップや梱包、発送、配送、返品対応までの一連の業務である「フルフィルメント」の最適化、返品プロセスの合理化を支援するとしている。fdxはまずはプライベートプレビュー版として提供され、2024年秋に一般提供される見通しだ。

新プラットフォームに懐疑論 専門家が指摘する「弱み」とは?

 fdxはeコマース業界に大きな影響を与えるのだろうか。懐疑的な見方をする専門家もいるようだ(注2)(注3)。

 しかし、FedExのスコット・ロジャース氏(データ分析に特化したFedEx Dataworksで中核機能を担当するバイスプレジデント)は、「これまでのところは、業界からの高い関心を集めている」と「Supply Chain Dive」のインタビューで語った。

 fdxは、FedExが日々輸送する1500万個の荷物から得られる情報と、機械学習(ML)の機能を活用している(注4)。これによって同社は荷物の到着予定時刻や配達の遅延が発生する可能性、その他の重要なデータポイントを計算し、出荷業者と共有できる。

 fdxの核となる機能の一つが、eコマース業者が抱える在庫の場所や注文データ、製品情報と、FedExのネットワークから得られる配送に関する洞察を組み合わせるエンジンだ。この機能によって、eコマース業者は、混雑している道や悪天候といった情報をリアルタイムに把握して、その時点における最も効果的な配送方法を選択できるとしている。

 「(eコマース業者が)希望する配送方法と在庫の保管場所の情報を共有すれば、当社のネットワークが最適な活用方法を提案し、その時点で最適なフルフィルメントを選べる」(ロジャース氏)

ECプラットフォームとの連携で利用者拡大を目指すが……

 ロジャース氏は「企業がfdxを簡単に導入し、利用できるようにするのが優先事項だ」と述べる。同社は、あらゆる事業規模の顧客が機能を活用できるようにしたい考えだ。fdxのプラットフォームは、eコマース業者が頻繁に利用するオンラインストアや注文管理システムと統合されている。

 「Shopifyが提供するオンラインストア『Shopify』とfdxとの間には相互運用性があるかもしれない」(ロジャース氏)

 また、fdxは配送に関する洞察にとどまらないさまざまな機能を提供している。

 その一例としてロジャース氏が挙げるのが、FedExが2020年に買収したオンラインストア「ShopRunner」に会員登録している数百万人の消費者と企業を結び付け、需要を拡大する機能だ。ShopRunnerは「2日間配送料無料」などの特典を買い物客に提供している(注5)。

 「ShopRunnerの買収以来、消費者へのリーチとブランドへのアクセスを活用して消費者を取り込んでいる」(ロジャーズ氏)

 fdxはeコマース業者が返品プロセスを合理化し、カスタマイズできるようにすることを目指している。返品ポリシーはfdxを通じて設定できる。返品ポリシーには、「商品の適格性をどう判断するか」や「返品を承認する際にどの程度の自動化を設定するか」なども含まれる。

 しかし、fdxはまだ全ての大手eコマース企業と連携しているわけではない。Amazon向けにどのような連携が構築されるのかについてまだ深く踏み込んでいない。現時点ではAmazonとの統合に関するスケジュールや見解も明らかではないという。

既にある「類似サービス」 複数キャリア選択可能、中には安価なサービスも

 ロジャーズ氏によれば、FedExはfdxを通じて自社ネットワーク内の配送に関する詳細な洞察を提供できるが、同社はこのプラットフォームの配送予測や注文追跡、その他の機能を、他の配送業者を通じて行われる配送にも適用する方法を模索中だという。

 「当社の目指すところは、マルチキャリアの世界で顧客にとってなくてはならない存在になることだ」(ロジャーズ氏)

 RMW Commerce Consultingのリック・ワトソン氏(創設者兼CEO《最高経営責任者》)は「fdxが複数の配送業者を選択できるマルチキャリア機能を提供すれば、はるかに多くの関心を集めるようになるだろう」と述べる。

 「fdxで提供されるサービスは加盟店にとって有益だが、現在はFedExという単一キャリアに結び付いているため、ほとんどの企業にとってその価値は限定的だ。恩恵を受けられるのはおそらくFedExのみ利用している小規模な加盟店と、FedExに完全に依存している大企業のどちらかだろう」(ワトソン氏)

 同氏によると、既に多くの企業がさまざまな配送業者と連携できる、fdxと同様のサービスを提供しているという。

 「FedExが提供するサービスを既に提供している企業は5〜6社ある。中には非常に安価なサービスもある」(ワトソン氏)

 しかし、fdxがFedExの配送ネットワークにのみ紐付くことは、同社にとってプラスになる可能性があるとデレク・ロッシング氏(元Amazon Logisticsのリーダー、現在はeコマースコンサルティングを行うCirrus Global Advisorsの創設者であり最高顧問)は述べる。テック企業が輸送業者間の輸送量の調整を容易にしている今、eコマース業者がfdxを有用だと感じれば、FedExを利用し続ける理由は増えるだろう(注6)。

 「UPSやFedEx、OnTracの間でキャリアを切り替えコストはかなり低い。FedExがプラットフォームを通じてやろうとしているのは、配送サービスを安定させ、付加価値のあるソリューションを開発することだと思う」(ロッシング氏)

 それでも、現在提供されている同様のeコマース業者向けのソリューションと同様に、fdxが顧客を引き付けるには時間がかかるとロッシング氏は考えている。

 「これは数年にわたる“旅”になる。結局のところ、顧客の維持とソリューションへの投資についてどのように考えるかによって決まるだろう。なぜなら、収益化は難しいからだ」(ロッシング氏)

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