IBMとMetaが「AI Alliance」を立ち上げ 生成AIの“第三勢力”になるかどうかを考察Weekly Memo(2/2 ページ)

» 2024年05月20日 12時30分 公開
[松岡 功ITmedia]
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生成AIの有力な選択肢になっていけるかがカギに

 同シンポジウムのキーノートでは、生成AIの基盤モデルであるLLM(大規模言語モデル)やオープンソースに精通した東京工業大学 情報理工学院 教授の岡崎直観氏が、LLMをオープンに開発するメリットについて、開発者の目線で次のように話した。

キーノートで話す東京工業大学の岡崎氏

 「最も大きなメリットは、LLMの開発に関する知見を共有できることだ。これにより、他の開発者が自らのベンチマークデータセットの上でそのLLMを使うことで、その構造や特性を知ることができる。結果、その知見が他のLLMの開発に役立つことになる」

 岡崎氏のこの見解は、オープンソースの真髄といえるだろう。

 ここまで、同シンポジウムのキーノートを通じてAI Allianceの活動について紹介してきたが、先述したように、このコミュニティーは果たして生成AIを巡る勢力争いにおいて第三勢力になり得るのか。

 キーノートの後、IBMのアナンジアット氏をはじめ、Aitomaticアジア・パシフィック地域責任者の平山好邦氏、日立製作所 研究開発グループ 先端AIイノベーションセンター メディア知能処理研究部 部長の鯨井俊宏氏、パナソニック ホールディングス デジタル・AI技術センター所長の九津見 洋氏、東京エレクトロン デジタルデザインセンター部長代理の鈴木淳司氏、JSRマテリアルズ・インフォマティクス推進室 室長の永井智樹氏が登壇した記者会見で、アナンジアット氏には発起人であるIBMとしての思いを、他のメンバーには第三勢力になるかもしれないAI Allianceへの期待を聞いた。

記者会見の様子。左からIBMのアナンジアット氏、Aitomaticの平山氏、日立製作所の鯨井氏、パナソニック ホールディングスの九津見氏、東京エレクトロンの鈴木氏、JSRの永井氏

 アナンジアット氏は筆者の質問に対して、「AI Allianceが目指すものは他の勢力と異なるので競合するとは考えていない。ビジネスにおける競合は、むしろAI Allianceの中のほうが起こり得るのではないか。だが、メンバーの皆さんはそれでもこのコミュニティーを通じて基盤モデルの開発をはじめ、さまざまな点で協力し、お互いに高め合おうとしている。そこにAI Allianceの意義があると考えている」と答えた。

 また、メンバー各社は筆者の質問に対して異口同音に、「生成AIについては用途に応じて使い分けるので、特定の勢力に依存するつもりはない。そうした中でAI Allianceに参加したのはオープンな技術には明確なメリットがあり、オープンソースの開発力にも大きな魅力があるからだ。AIという先進技術において、こうした国際的なコミュニティーに参加するのは確かな意義があると考えている」と答えた。

 最後に、AI Allianceが発足した2023年12月に日本で開催されたキックオフイベントで、IBMシニアバイスプレジデント兼IBM Researchディレクターのダリオ・ギル(Dario Gil)氏が話したことを取り上げる。

 「AIをごく少数の企業や組織がリードする形にしてはならない。ITの歴史を振り返ると、過去にも今と似たようなことがあった。例えば、コンピュータOSの話がそうだ。オープンソースコミュニティーによって『Linux』が生まれ、サーバOSとして定着し、多くのユーザーの支持を得ている。AIにおいてもオープンソースの開発力は必要になる。また、AI Allianceには世界の名だたる企業や大学が参加しており、これからさまざまなプロジェクトを通じて共創活動を行う。これまでAIに対する社会的な議論が不十分だった。これからはその議論を建設的に進めて行動していくことが大事だ。AI Allianceがその動きをけん引したい」

 「AIをごく少数の企業や組織がリードする形にしてはならない」との発言は、まさしく生成AIにおける勢力争いを意識したものだ。「ごく少数の企業」とは、AI Allianceに参加しておらず、生成AIで先行するOpenAIとMicrosoftの陣営や、それに対抗するGoogleあるいはAmazonのことを指すとみられる。

 AI Allianceは果たして生成AIの第三勢力になり得るのか。ユーザー視点で言うと、生成AIには多様な選択肢があった方がよい。その意味で、AI Allianceはオープンな技術を活用する存在として、むしろ第三勢力になってもらわないと健全ではないだろう。ただ、勢力争いの中で大きなシェアを獲得できるかどうかは、ギル氏がLinuxに例えて話しているように多くのユーザーの支持を得られるかどうかにかかっている。

(注)AI Alliance

著者紹介:ジャーナリスト 松岡 功

フリージャーナリストとして「ビジネス」「マネジメント」「IT/デジタル」の3分野をテーマに、複数のメディアで多様な見方を提供する記事を執筆している。電波新聞社、日刊工業新聞社などで記者およびITビジネス系月刊誌編集長を歴任後、フリーに。主な著書に『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。1957年8月生まれ、大阪府出身。

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