「AIがあれば開発者はもういらない?」 アプリケーション開発の本質から考える甲元宏明の「目から鱗のエンタープライズIT」

コンサルティングサービスを提供する筆者には、日々AIに関する質問が寄せられています。中でも多いのが、「AIによってアプリケーション開発者は不要になるのか」という問いだとか。AI時代のアプリケーション開発者の仕事の在り方はどうなるのでしょうか。

» 2024年06月14日 08時00分 公開
[甲元宏明株式会社アイ・ティ・アール]

この記事は会員限定です。会員登録すると全てご覧いただけます。

この連載について

 IT業界で働くうちに、いつの間にか「常識」にとらわれるようになっていませんか?

 もちろん常識は重要です。日々仕事をする中で吸収した常識は、ビジネスだけでなく日常生活を送る上でも大きな助けになるものです。

 ただし、常識にとらわれて新しく登場したテクノロジーやサービスの実際の価値を見誤り、的外れなアプローチをしているとしたら、それはむしろあなたの足を引っ張っているといえるかもしれません。

 この連載では、アイ・ティ・アールの甲元宏明氏(プリンシパル・アナリスト)がエンタープライズITにまつわる常識をゼロベースで見直し、ビジネスで成果を出すための秘訣(ひけつ)をお伝えします。

「甲元宏明の『目から鱗のエンタープライズIT』」のバックナンバーはこちら

 生成AIをはじめとするさまざまなAIの進化に拍車がかかっています。毎日のように、世界でのAI関連動向をウォッチしても全てを把握して理解するのは困難になっています。筆者が所属するITRでは、数多くの国内企業からのIT関連の質問に日々答えていますが、最近いただく質問の大半がAIに関連するものとなっています。

AIは「スペードのエース」や「銀の弾」ではない

 下図のように、アイ・ティ・アール(以下、ITR)が毎年実施している国内IT投資動向調査では、2024年度に新規導入が期待される製品、サービスの1位は「AI、機械学習プラットフォーム」、2位は「生成AI」とAIが上位を独占しました。

図 2024年度に新規導入が期待される上位10製品(出典:ITR「IT投資動向調査2024」)、サービス 図 2024年度に新規導入が期待される上位10製品、サービス(出典:ITR「IT投資動向調査2024」)

 アプリケーション開発やクラウドを専門とする筆者が最近よく聞かれる質問は、「AIによってアプリケーション開発者は不要になるのか」というものです。果たして、AIはアプリケーション開発者の代替となるような技術なのでしょうか。

 AIのような先進テクノロジーの隆盛時には大きな期待が生まれ、それらが全てを解決してくれるという「テクノロジー万能論」が闊歩します。しかし、歴史的に見ても先進テクノロジーに過大に期待することは禁物です。

 もちろん、AIは積極的に活用すべきですが、AIに「銀の弾(たま)」や「スペードのエース」のような一撃で課題を解決する万能な解決策としての期待を持つことには筆者は懐疑的です。

では、「アプリケーション開発」の本質とは?

 そもそも「アプリケーション開発」とはどのような行為を指すのでしょうか。プログラミング言語を駆使してコーディングすることでしょうか。

 筆者はそれは違うと考えています。どんなに優れたプログラマーであっても、ビジネスや社内業務に不要な機能を開発していては意味がありません。また、今やプログラミング言語だけでコーディングする人はいません。

 フレームワークやPaaS(Platform as a Service)やサーバーレスなどのクラウドサービス、ローコード/ノーコードツールなどを駆使して生産性や品質を向上させる試みがずいぶん前から登場しています。つまり、「アプリケーション開発=コーディング」ではありません。前述した「ビジネスや業務に貢献しない開発者」と同じ作業を生成AIで実現しても意味がないのです。

 「アプリケーション開発」とは、ビジネスサイドの人々とディスカッションし、コラボレーションしてビジネスや社内業務に価値のあるアプリケーションを提供する行為です。その手段はコーディングやフレームワーク、ローコードでも生成AIでも何でもいいのです。

 現時点では、AIがアプリケーション開発の一連の作業をこなすことは困難です。もし、AIが優れたコードを生成してくれるのであれば、その能力を積極的に活用して、アプリケーション開発者が誰よりも早くユニークな機能を持つアプリケーションを高品質で提供すべきではないでしょうか。

 「AI活用でアプリケーション開発者が不要になる」などという論に与する必要はないと筆者は考えています。

AIとの付き合い方

 前述の通り、AIは開発者の「敵」ではありません。では、AIは開発者にとってどのような存在になるのでしょうか。

 アジャイル開発では、2人でコーディングする「ペアプログラミング」を実施することがありますが、その相方をAIが担当すると考えてはいかがでしょうか。AIはコーディングやフレームワークなどの開発上のルールや実例について、文句も言わずに淡々と時間制限なく教えてくれます。このような強力なパートナーを味方につけない理由はありません。

 「開発者+AI」の組み合わせで、従来ではあり得なかったスピードや品質でユニークなビジネスや業務機能を開発することが可能になります。デザインセンスに満ちた開発者は少ないと筆者は考えていますが、AIをパートナーにすれば、開発者が秀逸なUIやUXを実現することも可能です。

 AIが今後ますます進化することは間違いありません。その時に、AIを敵と見なすのか、開発者のパートナーと見なすのかで、開発者自身、そして企業にも大きな差が出ると筆者は考えています。

筆者紹介:甲元 宏明(アイ・ティ・アール プリンシパル・アナリスト)

三菱マテリアルでモデリング/アジャイル開発によるサプライチェーン改革やCRM・eコマースなどのシステム開発、ネットワーク再構築、グループ全体のIT戦略立案を主導。欧州企業との合弁事業ではグローバルIT責任者として欧州や北米、アジアのITを統括し、IT戦略立案・ERP展開を実施。2007年より現職。クラウドコンピューティング、ネットワーク、ITアーキテクチャ、アジャイル開発/DevOps、開発言語/フレームワーク、OSSなどを担当し、ソリューション選定、再構築、導入などのプロジェクトを手掛ける。ユーザー企業のITアーキテクチャ設計や、ITベンダーの事業戦略などのコンサルティングの実績も豊富。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ

あなたにおすすめの記事PR