AIのビジネスにおける活用が進む中で、日本企業が直面する「AIによる価値の実現を阻む4つの課題」が調査で判明した。ガートナーの提言と併せて見てみよう。
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生成AIをはじめとするAIを活用する企業が増える中、「思ったように生産性が向上しない」「当初の見積もりの何倍ものコストがかかってしまう」といった悩みが浮上している。
こうした中、ガートナージャパン(以下、ガートナー)がAIの価値を安全かつ大規模に展開する上でCIOが克服すべき4つの課題とその対応策を発表した。
ガートナーが2024年第2四半期にCIO(最高情報責任者)とITリーダーを対象に実施した調査によると、日本のCIOの48%が、自社のAI戦略の主導を任されている。ただし、AIによる価値の実現は「4つの課題」によって阻まれているという。
AIによる価値実現を阻む4つの課題は次の通りだ。
ガートナーが世界のデジタルワーカーを対象に2024年に実施した調査によると、従業員は生成AIを使うことで週平均3.6時間を節約できたという。しかし、全ての従業員が生成AIによって同じメリットを得られるとは限らない。
ガートナーのガリオピ・デメトリウ氏(マネージング バイス プレジデント)は、次のように指摘する。「ここに、AIの生産性に関する真の課題がある。生成AIによる生産性の向上は、誰にでも等しく見られるものではない。従業員が得るメリットは、業務の複雑度と経験値のレベルに依存する」
AI施策を積極的に推進する組織は、生産性以外のメリットにも着目する。オペレーションレベルでは、主要なビジネスプロセスの自動化や、業務を再設計してチャットbotを組み入れるといった改善が考えられる。ビジネスレベルでは、新しい収益源の創出や、企業のビジネスモデルを再構築するといった変革にもつながる。
「CIOはAIのメリットをポートフォリオとして扱う必要がある。メリットを分類して、分野ごとにどれだけ投資するかを決定し、ポートフォリオの全体でリスクとリターンを管理すべきだ」(デメトリウ氏)
同調査によると、AIから価値を引き出す上で「コスト管理が阻害要因になっている」と回答した日本のCIOは95%以上を占めた。実際のところ、コストはセキュリティやハルシネーションと同じくらい、AI活用における大きなリスクであるとガートナーは考えている。
生成AIのコストが増大しやすいことをCIOが理解していない場合には、見積もりと比べて500〜1000%の誤差が生じる恐れもある。
「CIOは、AIのコストをもっと理解する必要がある。コストを構成する要素や価格設定モデルの詳細を理解し、コストを抑えるために手を尽くし、ベンダーと交渉しなければならない。PoC(概念実証)の実施時に、テクノロジーがどのように機能するかだけでなく、コストがどのように変動するかを検証することを推奨する」(デメトリウ氏)
企業内のあらゆる場所でデータとAIが増えており、IT部門はそれらを集中管理できなくなっている。ガートナーが300人以上のCIOを対象に実施した調査によると、IT部門が構築するAI機能は企業が活用するAIの35%にすぎない。データアクセスを管理し、AIのガバナンスを確保し、安全にAIの価値を実現するための新たなアプローチが必要となっている。
ガートナーの本好宏次氏(バイス プレジデント アナリスト)は、次のように解説する。「AIのテクノロジースタックは、サンドイッチのような形状で捉えることができる。増え続けるデータとAIを上下のパンの部分に配置し、その他を挟み込む。サンドイッチの下の部分は、IT部門が提供するため、集中型になる。上のデータやAIは、あらゆるところからやってくるため、分散型にならざるを得ない。その間に、TRiSM(信頼性、リスク、セキュリティマネジメント)テクノロジーを挟み込むことで、AIの安全性が確保される。増え続けるデータやAIに対応するためには、この構造が必要になる」。
本好氏は、次のように強調する。「CIOの役割は、増え続けるAIのリスクに対処しながら、新たなチャレンジを阻害しないAIテクノロジーサンドイッチを設計することだ。堅実なペースでAIに取り組む組織、つまりAI施策が10件以下の組織では、人によるチームやコミッティを組成してテクノロジーサンドイッチを管理する。一方、加速的なペースでAIを推進する組織では、TRiSMテクノロジーを追加する。この、信頼性を高め、リスクを監視し、セキュリティを管理するためのテクノロジーによって、大規模で安全にAIを活用することができる」
急速に進化するAIに対して、従業員が親近感を抱く場合もあれば、恐れや憤りを感じる可能性もある。AIに対するこうした複雑な反応は、「AIを使いこなす人に嫉妬する」「AIツールに過度に依存する」など、従業員のパフォーマンスに悪影響を及ぼす懸念がある
しかし、ほとんどの企業は、従業員の行動がもたらす結果を積極的に管理していない。ガートナーが2024年に実施した調査では、「生成AIが従業員のウェルビーイングに与える潜在的な悪影響を軽減することに注力している」と答えた日本のCIOは10%にとどまった。
デメトリウ氏は、次のように言及する。「ほとんどの企業は、AIが従業員にどのような感情をもたらすかという点に十分な関心を払っていない。しかし、AIは従業員の意図しない行動を引き起こす可能性があるために注意すべきだ。チェンジマネジメントでは、どのような行動の成果に対して、誰が責任を持つのかを意識することが重要だ。テクノロジーやビジネスの成果と同様に、1人1人の行動がもたらす成果をしっかり管理する必要がある」
本好氏は、次のように解説する。「テクノロジーベンダーの競争による絶え間ないイノベーションが常に高い期待を生んでいるものの、AIを実際のビジネス価値につなげるのは簡単ではない。AIの成果を生み出す競争を担当しているCIOは、“幻滅期”の谷底にいるように感じているはずだ。誰もこの競争から逃げることはできない。AI施策に関わるCIOはビジネスの成果やテクノロジーの成果、行動の成果の3つに注力すべきだ」
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