デジタルの活用がビジネスの前提となる時代に日本企業はどう適応すべきか。さらに進化するAIとの共生などに向けて獲得すべき「14のマインドセット」とは。
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目まぐるしく変化するテクノロジーやビジネスを取り巻く環境に日本企業はどう対応すべきか。ガートナージャパン(以下、ガートナー)が提言する「2025年に向けて獲得すべきマインドセット」からヒントを得よう。
ガートナーの亦賀忠明氏(ディスティングイッシュト バイス プレジデント アナリスト)は「かつてない歴史的な時代変化が訪れている中、テクノロジーを駆使できる企業、組織、人と、そうでない人たちに二極化する。産業革命の時代に生き残るためには、新たなマインドセットを獲得し、産業革命をリードする必要がある」と指摘する。
2025年に向けて日本企業が獲得すべき新たなマインドセットとして、同社は次の14項目を挙げる。
現在は、江戸から明治維新に移り変わったほどの大転換期にある。企業は過去のスタイルと決別する必要がある。デジタルを前提としたビジネスの在り方を再定義し、戦略的に転換することが求められる。ビジネスの在り方を再定義しない日本企業の70%は2030年以降に弱体化して消滅する可能性が高い。消滅しない場合も急速に衰退するだろう。
現在世界で起きているデジタルによるビジネスの競争を全く認識していないか、認識しているとしても「うちは大丈夫」「うちは関係ない」「うちはやっている」「どうせ大したことはない」と軽く見る企業が多く見られる。これは競争に負けるべくして負けるパターンであり、デジタルによる競争に負けないよう、企業は戦況や敵の戦い方を真剣に把握して、将来の競争に確実に備える必要がある。
「次世代モビリティは単なるEV(電気自動車)化にとどまらない。道路やパワーグリッド(送配電網)、AIによるコントロールを含む社会インフラの再定義だと捉える必要がある。製造業はデジタルによってモノに付加価値をもたらすとともに、デジタルが前提となるモノづくりを含めたデジタル製造業への転換が必要だ」(亦賀氏)
2030年には企業の70%で「さらに能力の高いAI」が当たり前に使われるようになると予測される。AI共生時代に最も危険なのは「人が考えないこと」、もしくは「人に考えさせないこと」、すなわち人間の機械化だ。AIやヒューマノイドに職を奪われないように、機械にできることは機械にやらせ、自分で考えて学習する「人間力」を高めることが重要になる。「考えない、学習しない組織」から「考える、学習する組織」への転換が必要だ。
企業の人材育成は育成の目的があいまいで、スキル獲得や資格取得が目的化され、あまりお金をかけずに実施されているケースも多い。グローバルのTier1企業(一時取引企業)では、数百億円規模を人材に投資する。現場の従業員をデジタルプロフェッショナルにするなど産業革命への備えを着実に進めている。
今後、企業は人材投資を重要戦略と位置付け、従業員の能力やプロフェッショナルの養成を促進し、プロフェッショナルな人材には相応の対価を用意するなど、人材戦略を抜本的に見直す必要がある。
DX(デジタルトランスフォーメーション)を義務的に推進すると「やらされ感」が強い人が多くなる。自分事として積極的に取り組む姿勢が欠如しているため、身が入らず、やった感だけ出して終わりになり、自信が持てないままになる。
一方、変化への対応を自分事として捉え、自分をアップデートするために謙虚に学び続ける人は、前進して着実に自信を付けていく。こうした人が多い企業は、一人一人の好奇心やセルフマーケティング力が高く、価値を向上させられる強い企業に変革されていく。
「忙しい」ことを理由に従来の仕事のやり方を継続する日本企業は多く存在する。これからは、従業員の時間と環境を見直し、無駄なミーティングや電子メール、業務、手続き、報告、上司への過剰な説明といった時間を削減し、空いた時間を学習やクリエーター的な仕事に充てられるようにする必要がある。テクノロジーを駆使して自動化できるものは自動化する。しがらみやしきたり、掟、作法に過剰にこだわるマイクロマネジメントを見直すだけでも従業員に余裕が生まれ、より元気に活躍できるようになる。
旧態依然とした企業には「分かったふりをする評論家」「どうするのかを繰り返す第三者」「言われたことだけをする作業者」「自分で手を動かさず手配だけをする人」が存在する。
新しい時代に向けて、真剣に取り組む企業には「対策する軍師的な人」「リアリティーを重視して正しい道に導くPeople Centric(人中心)なリーダーシップのマインドを持つ人」「クリエーター的なエンジニアやアーティスト」などが存在する。
「人は、機械にできることは機械にやらせて、生成AIなどのテクノロジーを駆使して人間力を取り戻すとともに、産業革命を実現する新たなエンジニアリング能力を獲得することが重要だ」(亦賀氏)
何でも完璧に作って同じものを使い続ける、いわゆるウォーターフォール型(モード1)のやり方を続けたり、全てにおいて完璧を求めようとする企業が多く存在する。「1回作って終わり」の発想では変化に対応できないため、マインドセットの転換が必要になる。
これからは、変化対応を原理原則として作って、継続的に改善して提供するアジャイル型(モード2)の推進が重要になる。これはIT部門だけでなく企業全体として必要なマインドセットだ。2030年までに、40%の企業で非IT部門が完璧を求め続けることで、弱体化するとガートナーは予測する。
テクノロジーが登場すると、バズワードに踊らされて、正しく理解せずにすぐに「すごいこと」ができると妄想しがちだ。しかし、往々にして、それは現時点で存在しない「べーパーウェア」(どうなるか分からないもの)である場合があるため、注意が必要だ。仮に「すごいもの」があっても、自社にすぐに新しいテクノロジーを使える人がいるわけではない。テクノロジーを過大評価、あるいは過小評価せずに常にリアリティーを把握できるよう自ら学び、目利きのできるケイパビリティ(能力)を有し、本質を捉えること、バズワードやトレンドよりも自社の戦略を重視することが重要だ。
「『生成AIによって、すぐに確実に生産性向上を実現できる』『生成AIがあれば、すぐに雇用を削減できる』というのは妄想だ。こうした言葉を経営者が発すると、それは『妄想の暴走』になり、多くの人に迷惑をかける。数年後と今を区別し、今は数年後に向けた準備期間と考えるべきだ」(亦賀氏)
「自社、業務中心」の企業では、従業員は会社のために働くことが徹底され、「やらされ仕事」になり、元気がなくなる。結果的に企業利益中心による顧客からの「高い、遅い、不満足」という評価が継続し、拡大する。
一方、顧客と従業員を大事にする企業は、従業員が満足して初めて顧客が満足できるというバランスを持ったTX(トータルエクスペリエンス)の原則を有する。従業員が大事にされ、元気になり、活躍できる環境がある。People Centricは、ビジネスの好循環を生み出す。
細かいガイドラインを作る企業は、作ることが目的化し、マニュアル通りに対応する従業員が増えるため、ガイドラインにない想定外の事象に対応できない。2030年までに、こうした細かいガイドラインの作成を継続する企業の90%が「ガイドラインを作るだけで終わる」とガートナーは予測する。
一方、原理原則ベースのガイドラインを作る企業は、シンプルなガイドラインであるため手間がかからず、従業員が自分で考えることを推進するため、想定外の事象に対応できる「考える組織」に転換できる。こうした企業ではAIによる人間の代替を準備できるため、スムーズにAIやヒューマノイドの導入が進むようになる。
他社の事例を模倣する企業が多く見られる。こうした企業は事例ややり方(HOW)が分かっても、そもそもなぜやるべきなのか(WHY)が不明確なことが多い。真にインパクトがあることは実現できす、弱体化する。
2030年までに、「事例はあるのか」と問い続けるだけの企業の90%は存亡の危機に陥る可能性がある。真似るために事例を探すのではなく、事例から学ぶべきことを見つけ、それを実現するための能力を身に付けることが重要になる。
経営陣がDXの取り組みをIT部門に丸投げし、IT部門はその施策を作って事業部門に「お願いして使ってもらう」日本企業が多く見られる。事業部門は使わなければならない理由がないため、「このようなものは使えない」とIT部門に改善を要求する結果、DXが進展しない。
「産業革命はIT部門だけでできることではない。真のDXの実現に向けて、経営者は丸投げせず、デジタルの本質的なインパクトを理解し、リスクを自ら取り、戦略的に変革を推進するリーダーになる必要がある。業務がなくなることを前提とした新しいビジネスアーキテクチャとプロセスを推進するチーフ産業革命オフィサーを設けることが有効だ」(亦賀氏)
企業は産業革命とAI共生時代を前提に、抜本的に、新たなタレントをつくるために戦略をアップデートすることが重要になる。従業員が大事にされ、元気に、活躍できるワークプレースを作ることが生き残るための必須要件となる。そうした企業では、従業員は作業者ではなく、破壊的なテクノロジーであるスーパーパワーを駆使するクリエーターやアーティストとなる。時代変化に対応できない企業や組織、人は生き残れない。スキルやマインドセット、スタイルの抜本的転換が必要だ。
「人間ならではの創造を楽しみ、テクノロジーと『知恵』を駆使して全てを『より良く』しようとする企業には人が集まる。人が大事にされ、元気になり、活躍することで顧客を呼び、ビジネスの好循環が生まれる。デジタルの時代とは、デジタルによって人間力が増幅される時代だ。この原理をうまく理解し、実践できた企業が生き残れる。逆に、そうでない企業は、衰退、消滅していく可能性がある。2025年に向けて、日本企業は一刻も早くこのことに気付き、対応する必要がある」(亦賀氏)
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