独自技術で不正取引を可視化 NICT×金融機関連携で挑む実証実験の内訳セキュリティニュースアラート

NICTは神戸大学やEAGLYS、国内4行と連携し、プライバシー保護連合学習技術「DeepProtect」の実証実験を実施した。見逃されていた不正口座の検出に成功し、将来的な実用化への期待が高まる。

» 2025年06月12日 07時30分 公開
[後藤大地有限会社オングス]

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 情報通信研究機構(以下、NICT)は2025年6月10日、銀行の不正口座検知に関する実証実験の成果を発表した。今回の実験においては、NICTが独自に開発したプライバシー保護連合学習技術「DeepProtect」を活用し、神戸大学およびEAGLYSの協力の下、りそな銀行を含む国内4行と連携して実施した。

りそな銀行も参加、官民連携で挑む不正検知の最前線

 この取り組みにおいては、個別学習モデルと複数の金融機関による連合学習モデルを組み合わせたアンサンブル学習を適用している。不正口座の検知精度が向上するか否かを検証した。実験の結果、個別学習モデルに比べて適合率が最大で約10ポイント改善し、再現率も95%を超える高精度な検知性能を示す結果となった。

 各銀行から提供を受けたデータ(正常口座と凍結となった不正口座)を顧客情報を特定できない形で一定期間分を収集している。時系列分析が可能なように前処理を施し、個別学習と連合学習の双方でモデルを構築し、評価した。連合学習モデル単独においては、データ形式の違いから精度の低下も見られたが、アンサンブル学習を組み合わせることでこの課題に対処。各行の個別学習モデルと連合学習モデルを含む計9種類のモデルを活用し、データ項目のばらつきがあっても検知精度を損なわない学習手法を実現した。

 実験後のワークショップにおいては、個別学習では見逃されていた口座が連合学習で検知され、一部が「グレーな口座」と評価したことも明らかになった。この結果から、従来のルールベースや個別AIモデルでは検知困難だった潜在的な不正口座の発見につながる可能性があることが確認できた。加えて、DeepProtectの高度化にむけて、不正取引データの合成手法の提案、訓練データの不均衡データ問題の緩和および敵対的サンプル攻撃防御手法への応用とその有効性の提示、破滅的忘却を抑制しつつ継続的な連合学習を可能にするアルゴリズムの検証なども実施した。銀行の不正取引監視業務を支援するモニタリングシステムのプロトタイプも開発している。

 NICTは今後、DeepProtectの基盤技術のさらなる向上を図る方針だ。神戸大学やEAGLYSは、検知精度の改善と不正検知業務への実装にむけた取り組みを進めており、現行のAML(アンチ・マネー・ローンダリング)システムと並行して運用可能な簡易的システムの導入を検討中で、金融機関での実用化にむけた動きを本格化させる意向だ。

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