AIを単なるツールで終わらせず、大きな成果につなげるには何が必要か。トヨタ自動車のグループ企業トヨタコネクティッドが実践する、AIを全社に浸透させる戦略と文化づくりの秘訣に迫る。
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トヨタ自動車のグループ企業でコネクティッドカー事業やMaaS(Mobility as a Service)事業を担うトヨタコネクティッドが、AI活用で大きな成果を上げている。2024年度の社内の活用事例を分析したところ、推定で年間9210時間の業務削減を達成したという。
トヨタコネクティッドはAIを単なる効率化ツールではなく「戦略的パートナー」と位置付け、全社的な活用を推進してきた。2025年4月にはAI統括部をコーポレートIT部や情報セキュリティ推進室と統合し「AI/InfoSec統括部」を設立。コーポレートITとセキュリティにAIを組み合わせる体制を強化する。
同社のAI推進のミッションは「AIによって業務、人材の変革を実現する」こと。トヨタコネクティッドの山本玄人氏(AI/InfoSec統括部 エンゲージメント推進室 室長)は「AIが仕事を取って代わるのではなく、AIをどうパートナーとして位置付けて、自分の業務に生かすかが重要だ」と強調した。
本稿はメンバーズが2025年7月25日に開催した「DXリーダーズカンファレンス 2025」の講演「AI推進部門が語る全社展開と文化づくりの挑戦」の内容を編集部で再構成したものです。
では、トヨタコネクティッドは具体的にどのような取り組みを実施したのか。全体像は以下の通りだ。
まず、生成AIの利用によるリスクを最小限に抑えるために「生成AI活用ガイドライン」を定めた。これは既存の社内規定に抵触しないように作成されており、一貫性のあるルールの下、従業員は安心して生成AIを利用できる環境を実現できたという。
セキュリティ基準を満たした社内向け生成AIチャット環境も開発した。これは社内ナレッジの活用を重視し、多様な業務シーンでの活用を促す。
また、全従業員を対象とした「AX(AIトランスフォーメーション)トレーニング」を実施。従業員の習熟度に応じたレベル別の教育プログラムを内製し、実践的なスキル向上を支援した。このトレーニングは(1)生成AIの知見やテクニックと(2)業務フローの言語化と課題定義の2つの能力を重視し、これらの能力を伸ばすことで、生成AIによる業務課題解決を自走できる状態を目指す。
各部署の生成AI活用事例を発信する「アンバサダー」も擁立し、社内で知見が循環する仕組みを作った。
これらの取り組みの結果、現場からは301種類の生成AI活用事例が創出され、推定で年間9210時間の業務削減を実現した。中には、プログラミング未経験の非エンジニアが「ChatGPT」と対話しながら「Google Chrome」の拡張機能を開発するケースも生まれたという。
トヨタコネクティッドは社内のAI活用動向を把握するために、2025年4〜5月にかけて全従業員を対象に「AX調査」を実施した。これによると「相談のしやすさ」がストレス減少や利用頻度増加を媒介して、間接的に工数削減に影響を与える可能性が示唆されるという。また管理職がAIを利用していないと利用頻度が減少することも確認されており、トップダウンで利用を促す仕組みが必要だと分かった。
「生成AI活用が楽しい」と思っている従業員ほど「職場への誇り」スコアも高いとされ、ボトルネックを解消し、さらにAI活用を推進すれば全社の「幸福度」も向上する可能性があるという。
トヨタコネクティッドは自社でのAI活用を進めるとともに、社外にも取り組み状況を積極的に発信している。ITサービスを手掛けるメンバーズの支援の下、AI活用に関するブランディングと、活動を通して出会った企業とやりとりするコミュニティーを企画、運営し、「社会全体の生成AI活用をアップデートする」ことを目指すという。トヨタコネクティッドのような日本国内の事業会社起点でどのような生成AI活用事例が生まれるのか、今後も注目していきたい。
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