「顧客接点」そのものの考え方が変わる? NTTドコモビジネスの新サービスからAI活用法を探るWeekly Memo

AIはさまざまな業務に活用されつつあるが、顧客接点にどう生かせるのだろうか。コンタクトセンターなど一部では活用が進んでいるが、AIを活用して事業を成長させるためには、もっと新たなアイデアやチャレンジが求められる。そこで、NTTドコモビジネスの新サービスから「顧客接点とAI」について考察する。

» 2025年09月29日 14時55分 公開
[松岡 功ITmedia]

 AIを社内業務に活用して効率化を図る動きが活発化している。一方でAIを社外の顧客接点に活用してCX(顧客体験)の最大化を図る動きは、コンタクトセンターなどでは進みつつあるものの、もっとさまざまなシーンに向けてアグレッシブなサービスや取り組みが出てきてもいいのではないか。

 そんな問題意識を抱いていたところ、NTTドコモビジネス(旧・NTTコミュニケーションズ)が「AIで顧客接点を進化させる」と銘打ったサービスを発表したので、今回はその内容を紹介するとともに「顧客接点とAI」について考察したい。

NTTドコモビジネスの新サービス、何が「新しい」のか?

 NTTドコモビジネスは2025年9月16日、新サービス「docomo business ANCAR」(アンカー)を同年12月から順次提供すると発表した。「コンタクトセンターや営業所、店舗など、企業が持つさまざまな顧客接点をAIで進化させ、CXの最大化やNPS(ネットプロモータースコア)の改善、EX(従業員体験)の向上を実現するSaaS(Software as a Service)型のコミュニケーションサービス」というのが触れ込みだ。

 同社が同日開いた発表会見では、新サービスの事業責任者である高橋聡子氏(執行役員 プラットフォームサービス本部 コミュニケーション&アプリケーションサービス部長)が説明に立った。

NTTドコモビジネスの高橋聡子氏(執行役員 プラットフォームサービス本部 コミュニケーション&アプリケーションサービス部長)(筆者撮影)

 高橋氏は新サービス開発の背景における説明で、企業のAI活用の実態について同社による調査結果から次のように述べた。

 「社内業務の効率化へのAI活用は2023年度から2024年度にかけて7%から18%へと11ポイント伸長しており、今後もさらなる活用拡大が期待される」(図1)。

図1 社内利用におけるAI活用実態(出典:NTTドコモビジネスの会見資料)

 一方、「社外、すなわち顧客接点でのAI活用は2023年度から2024年度にかけて1.1%から1.5%へとまだ限定的で、今後もさまざまなハードルがありそうだ」とも述べ、導入のコストや効果、最適なAIの選択などをハードルとして挙げた(図2)。

図2 社外利用におけるAI活用実態(出典:NTTドコモビジネスの会見資料)

 この調査結果については、冒頭で述べた筆者の問題意識とも合致したといえる。

 では、docomo business ANCARは具体的にどんなサービスなのか。同社によると、「フリーダイヤルやナビダイヤル、(高品質な法人向けIP電話サービスの)『Arcstar IP Voice』、モバイルサービスなど当社が提供する通信サービスや通信キャリアならではの独自データとさまざまなAIを組み合わせ、人材不足や採用難、カスタマーハラスメント対策、災害や障害への対策などの事業課題の解決を通じて、顧客接点におけるCXやEXを向上し、企業の事業成長や生産性向上に貢献するサービス」とのことだ。「通信キャリアならではの独自データ」とは、「混雑してつながらなかった、お客さまが問い合わせを諦めてしまったなど、企業の窓口につながる前(通信キャリア網内)の通信データ」を指す。

 ちなみにサービス名のANCARは「AI Native Communication with Advanced Resilience」の大文字から取ったもので、「AI Native Communication」には「AIが自然に、当たり前のように活用できるコミュニケーション」「Advanced Resilience」には「困難な状況や環境の変化に、より迅速かつ効率的に対応する高度な回復力」との意味を込めており、これがこのサービスのコンセプトを表したものとなっている(図3)。

図3 サービス名の由来(出典:NTTドコモビジネスの会見資料)

 サービスの内容としては、自由な発話を認識するAI-IVRなどのAI自動応答、録音した通話内容のテキスト化・AI要約、通話データを基にした顧客体験の分析などを提供。これらを単一のポータルで管理することができるようになっている(図4)。

図4 docomo business ANCARのサービス内容(出典:NTTドコモビジネスの会見資料)

エージェンティックAIは顧客接点に何をもたらすか

 docomo business ANCARの利用効果については、「CX最大化」「EX向上」「顧客接点強靭(きょうじん)化」の3つを挙げ、特長についても「簡単かつスピーディーに導入できるSaaS型サービス」「通信サービスとAIの連携で顧客応対を改善」「独自データの活用によってCXを可視化・改善」の3つを挙げている。サービスの内容とともに利用効果および特長の詳細についいては、発表資料を参照していただきたい。

 以下、高橋氏の説明の中で、筆者が注目した図を2つ挙げておこう。

 同氏は新サービスを説明した図5を示しながら、「docomo business ANCARを利用していただく上では、AIの活用を意識していただく必要はない。顧客接点に関わる方々に『AIが自然に、当たり前に活用できる』を提供する。エンドユーザーには『より手間なく高齢者にも優しい利便性』を、従業員には『業務上のストレスや負担の軽減』を、管理者や経営者には『経営課題の解決』を提供する」と述べた。

図5 新サービスの価値(出典:NTTドコモビジネスの会見資料)

 顧客接点に関わる3者それぞれのAI活用の効果が端的に記されているのが、分かりやすくて興味深かった。

 もう一つは、新サービスの次のステップを描いた図6だ。

図6 新サービスの次のステップ(出典:NTTドコモビジネスの会見資料)

 高橋氏によると、同社が提供する通信サービスとも連携した総合的なデータ分析やパートナー企業が提供するAIやSaaSとの連携、他の通信キャリアサービスへの提供拡大、さらにはエージェンティックAIの実装も視野に入れていく構えだ。

 図6の構図からすると、docomo business ANCARの野望も透けて見える。将来的に、他社が提供する社内外向けの業務アプリケーションや通信サービスの顧客接点、すなわちフロントラインを集約することで、顧客から見て最も近い立ち位置の「共創パートナー」としての地歩を築こうという思惑があるのではないかというのが、筆者の推察だ。

 そして、その構図はエージェンティックAIを活用するようになると、フロントラインでAIエージェントが広範囲に動き回れるようになることから、一層効果を生み出すだろう。その効果はどんなものかと言えば、図5に示されている内容がもっと広がるとともに、それらが自律的に動くAIエージェントによってどんどん自動化されるだろう。

 さらに、このサービスがエージェンティックAIを実装したら、どんなことができるようになるのか。高橋氏が「エージェンティックAIの実装も視野に入れる」と明言したので会見の質疑応答で聞いてみたところ、同氏は次のように答えた。

 「これからさまざまな検討をするが、多くのことがエージェンティックAIで自動化されるようになるだろう。図5の内容でいえば、特に管理者が多くの煩雑な仕事から解放されるようになるのではないか」

 改めて顧客接点とAIについて考えると、エージェンティックAIを売る側も買う側も実装すれば、AIエージェント同士が交渉するようになるとの予測もある。そうなると、顧客接点そのものの捉え方も変わるだろう。それを確かめる意味でも今回の新サービスの動向は、引き続き注目していきたい。

著者紹介:ジャーナリスト 松岡 功

フリージャーナリストとして「ビジネス」「マネジメント」「IT/デジタル」の3分野をテーマに、複数のメディアで多様な見方を提供する記事を執筆している。電波新聞社、日刊工業新聞社などで記者およびITビジネス系月刊誌編集長を歴任後、フリーに。主な著書に『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。1957年8月生まれ、大阪府出身。

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