「独自データを持つ企業が勝つ」 デルが説く“データを生かす”インフラの再設計Dell Technologies Forum 2025

デル・テクノロジーズが開催したイベントで、AI時代の新たなインフラ像が示された。クラウド集中型から分散型へと転換することで、企業のAI活用はどう変わるのか。同社やソフトバンク、東芝が語る、ビジネスの未来を展望する。

» 2025年10月08日 08時00分 公開

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 デル・テクノロジーズ(以下、デル)は10月3日、都内において「Dell Technologies Forum 2025」を開催した。同イベントは同社が世界各地で毎年開催しているものだ。「未来を共創する、ビジネスの最前線へ」と銘打たれた今回は、「AI」「モダン データセンター&マルチクラウド」「モダン ワークプレイス&PC」の3テーマを軸に、40を超えるブレークアウトセッションやブース展示が行われた。

「AI時代のインフラは分散型へ」 デルが示す実践的AI戦略

デルのグレンジャー・ウォリス氏(左)と大塚俊彦氏(右)(出典:編集部撮影)

 基調講演のあいさつでは、同社代表取締役会長の大塚俊彦氏と、代表取締役社長のグレンジャー・ウォリス(Grainger Wallis)氏が登壇。ウォリス氏は企業におけるAI活用の重要性を強調し、「今こそ日本企業がAIで競争力を高めるべき時だ。われわれはグローバルで培った知見と日本の現場の声を融合させ、実践的なイノベーションをお客様と共に共創する」と語った。

デルのジョン・ローズ氏(出典:編集部撮影)

 続いて登壇したデル米国本社でグローバルCTO(最高技術責任者)兼CAIO(最高AI責任者)を務めるジョン・ローズ(John Roese)氏は、「AIによる企業変革と実践的AI導入戦略」を軸に講演した。

 冒頭、ローズ氏はAIの技術進化に触れ、「私たちのキャリアの中で、AIは最も破壊的なスピードで革新を起こしている」と指摘。「日本でも79%の企業が『AIが自社の業界を変革する』と認識している一方で、61%はまだ導入の初期〜中期段階にある。現在はどの段階にいても構わないが、(導入、活用の)歩みを止めることは許されない」と述べた。

 ローズ氏は、AIのトレンドには「導入の加速」「分散化」「プラットフォーム化」の3つの観点があると説明する。AIは既に試験段階を終え、産業や業種を問わず本格導入フェーズに突入している。企業が問われているのは「導入するか否か」ではなく、「どう活用し成果を上げるか」だという。

 AIを活用するには、これまでの「クラウド集中型」から脱し、データが存在する現場でAIを稼働させる「分散型アーキテクチャ」への転換が求められているとローズ氏は説く。今後はPCやエッジデバイスでもAIを動かすことが当たり前になるとした上で「PCはもはや単なるクライアントではなく、AIインフラの一部だ。企業にはクラウドとエッジが融合する新たなAI基盤が不可欠だ」と力説した。

 また、ローズ氏は「AI活用で重要なのは、整理されたデータ」とした上で、以下のように指摘した。

 「企業にとって最も重要な資産はコンピューティングでもインフラでもなくデータだ。例えば2社が同じAIツールを使っても、独自で質の高いデータを持っている企業が勝つ。データが不完全ならAIプロジェクトは失敗し、整理されていなければ導入は進まない」

 その上で、データを最大限に生かすにはインフラの再設計が不可欠であり、それを具現化したものが、同社が提唱する「Dell AI Factory」であるとローズ氏は説く。

DellとNVIDIAで推進するDell AI Factory(出典:ローズ氏の登壇資料)

 Dell AI Factoryは、AIに最適化されたエッジデバイスからサーバ、ストレージ、冷却システム、ネットワーク、セキュリティ、マネージドサービスまで統合的に提供するフレームワークだ。ローズ氏は「現在のIT戦略の多くは生成AIが存在しなかった時期に立案されている。AIに最適化されていない環境では(AIがもたらす)成果を得られない。AIを単発のプロジェクトではなく、成果を生み出す“生産システム”として構築するには、Dell AI Factoryが必要だ」と指摘した。

AI活用で「売り上げ100億ドル増、コスト4%減」を実現

 ローズ氏は、デル社内でのAI導入アプローチも披露した。1〜2年前、デルではAI関連の取り組みが約1000件も同時進行していたが、その多くは実験段階にとどまっており、利益には結びついていなかったという。この状況に対しローズ氏はAIの使い方を根本から見直し、「どの領域が最も企業価値に影響を与えるか」を全社的に分析。その結果、「営業」「サービス」「R&D」「サプライチェーン」の4領域を特定し、AI投資を集中させる方針に転換したという。

 「営業部門に在籍している約2万7000人の営業担当者の活動を分析すると、1週間の約40%が顧客面会準備に費やされ、複数ツールや膨大な資料検索に追われていた。この時間を削減するために、当時あった10万件の資料コンテンツを整理して2万件絞り込み、生成AI検索を備えた『SalesChat』を構築した。その結果、顧客対応に費やせる時間が増加して生産性は劇的に向上し、売り上げ増につながった」(ローズ氏)

 こうしたAI活用の結果、デルは2024年度の売り上げが約100億ドル増加し、同時に絶対コストを4%削減できたという。ローズ氏は「これまでは売り上げ(成長)とコストは比例するのが当たり前だったが、この関係を切り離すことができた」とAI導入の成果を強調した。

 最後にローズ氏は、次の段階としてエージェント型AIへの移行に言及。「これまでの成果は、全てチャットbotやコーディング支援によるものだった。しかし、今は自律的に動作し、『ヒトの支援』の枠を超えた『業務を遂行するAI』が登場している。将来は医療や製造分野、労働力不足の解消など、より複雑なプロセスをAIエージェントが担うことで、次の生産性革命が起きるだろう」と展望し、講演を締めくくった。

「野良AI」を管理可能に、ソフトバンクは10億エージェントで“攻める”

ソフトバンクの牧園啓市氏(出典:編集部撮影)

 ローズ氏に続き、ゲストスピーカーとして登壇したのが、ソフトバンクのIT統括プロダクト技術担当 専務執行役員兼CIOの牧園啓市氏だ。同氏はソフトバンクが2024年に打ち出した「10億AIエージェント構想」の進捗を中心に、同社のAI活用を紹介した。

 牧園氏は「10億という数字は大胆に思えるかもしれないが、数えられる=管理できる=可視化できるということ。これまでの野良RPAや野良SaaSのように管理不能な状態を避け、全てを把握できる体制を作れるという意味では、IT責任者として非常にポジティブだ」と述べた。

 10億エージェント実現の第一歩として、全従業員約5万人に「まず1人が100エージェントを作ろう」と呼びかけた結果、社員の間にAIが身近な存在になり、AI利用率は50%から100%へと向上したという。

 一方、牧園氏はAIの普及に伴い顕在化する課題にも言及した。それが責任の所在や法的整備といった「AIガバナンス」だ。「欧州では開発者、配布者、事業者、利用者の4つの立場で責任が定義されているが、日本は提供者と利用者の2つの立場にとどまる」とし、海外開発の大規模言語モデル(LLM)を日本で使う場合、事業者が全責任を負うリスクを指摘。「AIやLLMの性質を理解することが極めて重要だ」と警鐘を鳴らした。

 こうした背景から、ソフトバンクはデータ主権を守るための独自LLM「Sarashina」を開発している。現在40億パラメーター規模だが、今後さらに拡大を計画しているという。牧園氏は「優れた基盤モデルがあってこそ各分野に特化した専門家AIを生み出せる。Dell AI Factoryと同様に、AI基盤を統合的に整備することが重要だ」と強調した。

東芝は「試して、失敗して、腹落ちしたもの」をお客様へ届ける

東芝の岡田俊輔氏(出典:編集部撮影)

 最後のゲストスピーカーとして登壇した、東芝で上席常務執行役員 最高デジタル責任者を務める岡田俊輔氏は、東芝グループにおけるAI活用の実践と、その知見を生かした顧客向けサービス展開を紹介した。

 東芝では2024年に全社的な生成AIプロジェクトを立ち上げ、現場に寄り添う100人超の専門チームが各事業部門の変革を支援している。同社では社内実践で得た知見を顧客支援にも展開している。岡田氏は「AI導入を進める上で、トップダウンとボトムアップの両方が重要だ。またお客さまに提供するサービスは、実際に自分たちで試し、失敗し、腹落ちしたことをメソドロジー化して届けることが大切だ」と述べ、現場に根差したアプローチの重要性を強調した。

 また、岡田氏もデータの重要性とエコシステム構築の必要性に触れ、「(ビジネスでAIを活用するにはデータが不可欠だが)現場には複数のシステムが収集しているデータが存在する。それらのデータを活用するには1社(のシステム)だけでは不十分だ。企業や業界を超えてデータを活用できる環境こそ、AI活用の次のステップになる」と指摘。今後はデルが提唱するオープンかつ協調的なAI基盤の方向性が重要になると訴えた。

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