Torプロジェクトは開発版「Tor Browser 15.0a4」を公開した。Firefoxに統合されてきたAI機能を安全性・透明性の欠如から削除し、匿名性重視の方針を明確化している。
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Torプロジェクトは2025年10月16日(現地時間)、匿名Webブラウザの開発版「Tor Browser 15.0a4」を公開した。「Firefox」の重要なセキュリティ更新を取り込みつつ、次期安定版「15.0」への最終候補となるリリース候補版として位置付けられている。
今回のリリースでは、Mozillaが最近Firefoxに統合してきたML(機械学習)を含めたAI機能を完全に削除された点が特に注目される。MozillaはAIチャットサイドバーなど、対話型支援機能の導入を進めてきたが、Tor開発チームはこれらを「監査不能なブラックボックス的仕組み」と判断している。AIモデルの訓練過程や入力データの透明性が確保されていないため、コード監査による安全性確認が不可能と判断したという。プロジェクトは匿名性とセキュリティを最優先とする理念に基づき、利便性よりも信頼性を重視した措置を採用したことになる。
Tor Browser 15.0a4ではAIチャットサイドバーやページ要約プレビューといった機能が完全に削除した。チームはユーザーの一部が利便性のためにAI機能を望む可能性を認識しているが、プライバシー保護の観点から一切のAI関連モジュールを含めない決断を下している。
機能面の変更としては、プラッガブルトランスポート「meek-azure」が単に「meek」と改称されている。かつて「Microsoft Azure」など特定のクラウド事業者名を冠していたが、実際のホスティング環境が変遷したため、名称が整理された。デスクトップ版においては、URLバーでプロトコル(http・https)を常に表示する仕様に変更されている。「Android」版については画面幅の都合上、従来通りプロトコルが非表示のままとなっている。
インタフェース関連において、ダークテーマ対応が改善されている。「Tor Browser」独自の紫系デザイン要素が統一され、視覚的一貫性が高まった。Firefox固有のブランド要素やサービス統合機能も削除されており、従来の「Firefox Home」や「新しい履歴サイドバー」は廃止され、旧版の履歴パネルに戻されている。これにより、Mozillaブランドを意識させる要素が排除され、Tor独自の外観を保つ構成となった。
「Linux」版において、フォント面が改善された。従来の「Noto」フォントから「Jigmo」フォントに切り替えられ、中国語や日本語、韓国語の字形表示がより正確になった。加えて、「Noto Color Emoji」フォントの導入により、Linux環境でも最新の絵文字が利用可能となった。
セキュリティ設定については、WebAssembly(Wasm)の制御方法が変更されている。これまで「Safer」や「Safest」レベルではWebブラウザ全体でWasmを無効化していたが、PDFリーダーの動作に支障を来したため、今後は拡張機能「NoScript」によってWebコンテンツ単位で制御する方式に移行している。安全な内部機能は保持しつつ、リスクのあるWebサイトでの実行を抑制できるようになった。
今回のリリースでは「Firefox ESR 140.4」へのベース更新に加え、OpenSSL 3.5.4やNoScript 13.2.1など複数の主要コンポーネントが更新され、Linuxや「Windows」「macOS」、Androidの全プラットフォームで数十件バグが修正された。Android版では特定のHuawei端末での起動不具合修正や広告IDのアクセス権剥奪など、プライバシー強化が進められた。
Torプロジェクトは、α版はテスト専用であり、高度な匿名性を必要とする利用者は安定版を使用するよう推奨している。プライバシーの根幹を損なう可能性のあるAI要素を削除した今回の方針は、匿名性を守るというTor本来の目的をあらためて明確に示すものとなった。
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